1050話
土曜日の札幌競馬場も良いお天気に恵まれていた。
北海道の夏は蒸し暑さもなく、風が優しい気がする。
「パパァ〜。がんばれぇ〜!」
「パパァ〜! パパァ〜!」
「ガンバレ、ガンバレ。パパァ〜」
「パー。ガンバレェ〜」
子供達は最前列に陣取り、雄太がレースに出る度に声援を送る。
純也が出れば純也の応援をするが、一緒に走ればやはり『大好きなパパ』が一番なのだ。
お昼ご飯を食べる時には観客の人々が色々とフォローをしてくれて、春香は北海道の人々の温かさに感動をしていた。
「君達のパパは凄いねぇ〜」
「おじさんはパパをデビューから応援してるんだよ」
「北海道楽しんでるかい?」
優しい笑顔で春香にも子供達にも接してくれる。
笑顔で愛想を振りまく美理愛にメロメロになっているおじさん達が大勢いるのは仕方ない。
「オジタンモ、アリガトー」
そう言う度におじさん達の目尻が下がりまくる。
雄太が『名前は美理愛です。美はお義母さんから。理は母さんから一文字をもらって、二人のように愛に溢れ、人から愛される娘になってもらいたいって事で美理愛です』と言った通り愛される子に育っている。
四人も子供がいれば大変だろうと手助けしてくれる人達には感謝しかない。
「ありがとうございました」
深々と頭を下げ、春香達は午後からのレースを見に歩いていく。
「相変わらず腰が低い女性だな」
「それにしても子供達全員良い子だよな」
仲良く手を繋いで歩いている子供達と後ろから見守っている春香を見て、父親や祖父のような気持ちになっている大勢のおじさん達は、ハッと我に返りパドックへ走ったり馬券売り場へと走って行った。
その翌日の日曜日も春香達は朝から雄太の応援をしに札幌競馬場に訪れていた。
美理愛の手には、昨日売店で買った馬のぬいぐるみが握られている。
(美理愛の好きなの選んで良いよって言ったけど、美理愛ってこの色が良いんだなぁ……)
美理愛が選んだのは黒鹿毛のぬいぐるみだった。
真っ白なぬいぐるみをジッと見ていたから気に入ったのかと思ったが、黒鹿毛のが良いと言ったのはインポータントデイと何度も触れ合ったからかも知れない。
「パー、パー。ガンバレ、ガンバレェ〜」
しっかりと握り締めたぬいぐるみをフリフリしながら美理愛は精一杯声援を送っている。
(凱央達も、こんな風にぬいぐるみをフリフリしてたなぁ〜。今でも凱央はアルに似た大きなぬいぐるみを大事にしてるし)
何度もクリーニングしてもらった芦毛の大きなぬいぐるみは、凱央の部屋で床にいたりベッドにいたりと、今も触れ合っている事がよく分かる。
(アル、元気かな。早く会いたいな)
月曜日にはゾルテアレックスがいる牧場にいく。
凱央が会いたいと思っているように、ゾルテアレックスも会いたいと思っているだろう。
「パパ、勝ったぁ〜」
雄太の勝利を飛び跳ねて喜ぶ凱央が美理愛の歳の頃をだった事を思い出し、時の流れの早さを感じていた。
「パパ、かっこ良い〜」
「パパ、パパァ〜」
「パパ、イチバンナッタァ〜」
「パー、ガンバッタァ〜」
ピョンピョンと飛び跳ね、雄太に声援を送っている。周囲の人達から笑いがおきて穏やかな札幌競馬場だった。
「お疲れ様、雄太くん」
「ただいま、春香」
レース終了を待って出迎えると、雄太が美理愛を見て目を丸くした。
「あれ? 美理愛、泣いてたのか?」
「パーァ……」
目を真っ赤にして美理愛は雄太に両手を挙げて抱っこしてアピールをした。
「昨日、売店で買った黒鹿毛の馬のぬいぐるみを落としちゃったの。凱央達にも探してくれたし、落とし物として係員さんに届けたんだけど見つからなくて……」
春香は困ったような顔をして雄太に話した。
雄太は頷いて美理愛の頭を撫でた。
「もう泣かなくて良いぞ。今度からは、なくさないようにしような?」
「ウン……」
既に売店は閉店してしまったから買い直しは出来ないから、明日どこかで買ってやろうと思った雄太だった。




