1049話
金曜日。
昼食を終えた雄太は調整ルームに行く準備をした。
「じゃあ、パパいってくるからな」
雄太は膝をついて順番に子供達の頭を撫でた。
「パパ。がんばって!」
「ぼく、おうえんするからね」
「ボクモ、オウエンスル〜」
「パー、ガンバレ」
雄太にギュッと抱きついている子供達を見ていると、春香は笑顔になる。
「じゃあ、春香。子供達をよろしくな」
「うん、頑張ってね。いってらっしゃい」
立ち上がった雄太は春香を抱き締めて調整ルームへと向かった。
「なぁなぁ、雄太」
「ん?」
「顔、緩み過ぎじゃね?」
「そっかぁ〜?」
雄太の部屋でゴロゴロしている純也は、雄太がミニアルバムを持っていない事に気づき雄太の顔を見て笑う。
「まぁ遠征だってのに、すぐ近くに愛しの春さんとチビーズがいたら顔もユルユルになるか」
「まぁな。春香達は近くにいてくれるし、マッサージしてもらえるし、子供達とあちこち遊びに行けるからさ」
札幌競馬場の近くは色々と遊ぶ場所もあり、車で少し出掛けるだけで観光地があり子供達の夏休みの絵日記のネタには事欠かない。
散歩にも良い公園もあり、春香達が見かけたと言うハスキー犬を雄太も見て、その大きさと凛々しい顔つきをガン見してしまった。
「あれ? もしかして鷹羽騎手……?」
ハスキー犬の飼い主は競馬を知っている人で、雄太達が離れた位置から見ていたのに気づき声をかけてきてくれた。
大きなハスキー犬は見た目で怖そうに見えるからから、少し苦笑いを浮かべながらリードをしっかりと握っている。
ハスキー犬の尻尾がブンブンと振られているのに気づいた子供達は、触りたいという顔で見詰めていた。
「あ、この子は大人しいので触っても大丈夫ですよ? むしろ番犬にならないぐらいに人が好きな子なので」
「良いんですか?」
「ええ。リッキーお座り」
飼い主が指示するとハスキー犬はスッと腰を落としお座りの体勢になった。
「リッキーって言うんだ。少しだけなでさせてね」
凱央が近づきフサフサとした体を撫でると嬉しいのか、モフッとした尻尾が地面をパサパサと掃くように動く。
凱央に続いて悠助達もフサフサの体を撫でさせてもらい、公園で会う楽しみが出来ていた。
「へぇ〜。ハスキーって厳つい顔してんのにな」
「飼い主さん、『見かけ番犬だ』って笑ってたな」
「ははは。チビーズはさ、馬でも皆が皆撫でさせてもらえないって理解してるから、リッキー以外のハスキーには寄ってかないだろ?」
「それはそうだな」
馬によっては噛み付くからと何度も言い聞かせててあるから、子供達は勝手に馬房には入らない。
それと同じように、犬などの動物でも無闇矢鱈に近寄ってはいけないと教えた。
「凱央は理解出来るだろうけど、美理愛はどうなんだよ? まだ理解出来る歳じゃないだろ?」
「そうだな。けどさ、美理愛初めて会ったポニーに対して、ちゃんと約束守れてたんだよな」
雄太は凱央達に乗馬させてくれる乗馬クラブに行った時の事を話した。
「え……? 美理愛、ポニーに乗ったのか? 一人で……だよな?」
「ああ。俺、凱央達の事を見てたし気づいてなかったんだよ。で、乗り終わった凱央達と見学スペースに行ったら、美理愛がポニーに乗ってたんだ」
小さなポニーの背に乗った小さな美理愛を見た時の衝撃は、雄太は言葉にしようがないと笑った。
「そっかぁ〜。ウサギとかのぬいぐるみを抱き締めて喜んでた美理愛がポニーになぁ〜」
「馬に興味が全くなかった訳じゃないけど、まさか『乗りたい』って自分から言うとは思ってなかったんだよな」
純也は北海道のお土産として有名なじゃがいものスナック菓子をポリポリと食べながらゲラゲラと笑っている。
「てかさ、もし……。もしだぞ?」
「え? 何だよ?」
純也がポテトスナックを食べていた手を止めて雄太をジッと見詰めた。
「もし美理愛が騎手になりたいって言ったらどうする?」
「男でも酷しいと思う世界だからな……。その時にならないと分からないな……」
真剣な顔で雄太は答えて、今頃夕飯を食べて喜んでいるだろう美理愛を思い浮かべていた。




