1046話
火曜日は、子供達にも多少は月曜日の疲れが残っているだろうという事で、春香達は近くの公園に散歩に行った。
「マー。ワンコイル〜」
「おっきなワンコだね〜」
背の高い男性が大きな犬を散歩させている。
「目が青い?」
「そうだね。たしかハスキーって名前のワンコじゃないかな?」
凱央も初めて見る犬種に興味津々のようだ。
「かおがこわいよ……」
「ワンワンッテイウ?」
悠助と俊洋も興味はあるが、近づこうとはしなかった。
馬相手でも、他の動物であっても、無闇矢鱈に近寄って行かないのは雄太が何度も繰り返し、『動物を怖がらせてはいけない』と教えているからだろう。
距離を取って眺めているとハスキー犬は去っていった。
「オッキイワンコ、マタアエル?」
「きっとね。今度はバイバイしようね」
「ウンっ!」
美理愛は初めて見たハスキーに目を輝かせていた。
(犬の散歩ってだいたい同じ時間じゃないかな? 犬飼った事がないから分からないけど)
子供の頃は犬や猫などのペットを飼える環境ではなかった。直樹達に引き取られてからも『ペットを飼う』と言う事は考えは頭になかった。
今の家は庭も広く、雄太も慎一郎達も犬や猫は嫌いではないと言っていたが、春香が飼う気にのれなかったのだ。
理由は単純だ。
『死に行く姿を見たくない』
馬を可愛いと思ってから、馬の寿命というのが思っていたより短い事にショックを受けた。
(今から『寿命が短いから』って理由で馬を嫌いになんてなれない……)
そう思っていた春香にとって、メイゲイルの死は衝撃が強過ぎた。だが、背中にいた雄太やメイゲイルを可愛がっていた悠助のメンタルが心配で自分の気持ちを後回しにしていた。
(ゲイルのお墓って北海道にあるんだっけ? お墓? 墓標? 生まれ故郷に戻れたんだよね。ゲイル……)
美理愛と手を繋いで歩いている悠助の姿をジッと見る。
メイゲイルがいなくなった事で泣き腫らした目をしていた姿は春香も胸が詰まったのを昨日のように覚えている。
「春香ぁ〜」
「お〜い」
名前を呼ばれ振り返ると雄太と健人が走って来た。
「あ、雄太くん。健人くんも」
「え? パパぁ〜。健人兄ちゃん〜」
「パパ、パパぁ〜。けんとにいちゃん〜」
「パパァ〜、ケントニイチャン〜」
「パー、ニイタン」
子供達も雄太と健人の走って来る姿にピョンピョンと飛び跳ねながら喜びを爆発させている。
お昼を一緒に食べる約束をしていたのだ。
「雄太くん、健人くん。お疲れ様」
「ああ。んじゃ、行こっか」
「うん」
健人の周りに俊洋と美理愛がまとわりつく。
「ケントニイチャン、テツナゴ」
「ケントニイタン、ダッコォ〜」
「へ? 俺?」
健人が雄太のほうを見ると雄太はニッと笑っている。
「飯おごってやるから、店まで俊洋と美理愛を頼むな」
「うん、分かった」
健人は美理愛をヒョイと抱き上げた。
「美理愛。しっかり掴まってろよ?」
「ウン」
美理愛を片手で抱っこすると空いた手で俊洋の伸ばした手を握ってやる健人の姿は、本当の兄のように見える。
「健人兄ちゃん」
予約していた店に向かって歩き出した健人に凱央が笑って声をかけた。
「ん? どうした? 凱央」
「帰りは、ぼくを肩車してよ?」
「い゙」
健人が声にならない声を上げた。
「お……お……」
「お?」
「お前……、今何キロだよ……?」
「32.3キロだよ。平均より軽いから大丈夫だよね?」
「そうか、軽いよな。って問題じゃねぇ〜っ!」
まるで雄太と純也のようなじゃれ合いに雄太はゲラゲラと大笑いする。
「雄太兄ちゃん、笑い事じゃないって」
「ははは。悪いな。けど、凱央と同じ頃の健人ってもっと生意気だっただろ?」
「う……。それは……違うとは言えない……」
その健人の様子がおかしくて春香は口元に手を当ててクスクスと笑っていた。
「春姉ちゃん……」
「ごめん、ごめん。ふふふ。確かに言葉は生意気だったけど、健人くんは根は良い子だって分かってたよ」
春香に『良い子』と言われ健人は何とも言えない顔をして店に着くまで耳まで真っ赤になっていた。




