1045話
雄太達はホテルに戻り早目に風呂に入った後、外に出ずにホテルのレストランで食事をする事にした。
「ぼくは……この大きいエビフライとエビクリームコロッケのセットが食べたいな」
「えっと……ぼくはカニクリームコロッケとサーモンフライのセット」
「ボクハ、サーモンフライコーンクリームコロッケノヤツ」
「ワタチ、エビグラタン〜」
自分の好きな物を顔を輝かせて言う子供達はまだまだ元気だ。
「かなり移動したし、牧場を歩き回ったんだから、しっかり食べるんだぞ」
子供達はニッコリ笑って頷く。そう言った雄太もお腹がペコペコだ。油断すれば『グー』と純也のように腹の虫の大合唱を響かせてしまうかもと心配になるぐらいに空腹である。
「私は……ホタテとサーモンのムニエルにしようっと」
「俺もだな」
「うん」
運ばれて来た料理はどれも素材の旨味が分かる味付けだし、夏野菜のサラダも濃厚なコーンスープも雄太達を満足させた。
「このミルクプリン、本当においしいね」
「うん。おいしい〜」
「ボクモ、コレスキ〜」
「ワタチモ〜」
子供達はデザートのミルクの香りが食欲をそそるミルクプリンを美味しそうに食べている。
「本当、これ美味いな」
「うん。良い牛乳の香りのプリンだね」
子供達だけでなく雄太と春香も気に入ってしまった。
子供達ははしゃぎ過ぎたのか、いつもより早く眠ってしまった。
雄太と春香はベッドから離れたソファーに並んで座り、小声で話していた。
「雄太くん」
「ん?」
「いつハーティに会おうって思ったの?」
春香は雄太を見あげながら言った。
「ハーティが引退してから……だな」
「そうだったんだ」
「ああ。トレセンの時は、まだハーティの気持ち……ってか精神的にって言うほうが良いかな? 安定してるって思えなくてさ」
ハーティグロウがいる牧場の場長も『来たばかりの頃はカリカリしていた』と言っていた。
調教師の藤波も、『馬は繊細な子が多いんだ。それを配慮もせずに持ち上げた人がハーティのストレスになったんだ』と悔しそうに言っていたのだ。
「何年かしてハーティが穏やかに暮らせるようになったらって、ずっと思ってたんだ。そりゃ、ハーティの産駒を望まれていたし、種付けはあるだろうから疲れてたら無理だったけどさ」
「そっか。わざわざ牧場に問い合わせしてくれてたんだ。ありがとう」
雄太にもかなりの敵意を向けられ、競馬場関係者や厩舎関係者にも余計な業務が増えたからハーティの現状は簡単に会えるものではなくなっていた。
馬が好きな事は悪い事ではない。全部が全部、過激な人達ではなかった事も分かっているし、取材をしていた人達もファンを喜ばせたい事からの新聞や雑誌の売上を上げたいという思いだったのは雄太も春香も分かっていた。
「それにしても、ハーティ優しい目をするようになってて良かったね」
「ああ。種牡馬になるとボス気質が出てしまって人が近づけなくなる馬もいるんだけど、ハーティは穏やかな顔つきになってて俺もホッとしたよ」
「うん」
綺麗な白馬になったハーティグロウはトレセンにいる頃よりもふっくらとしていた。
その上に優しい目をするようになった事が雄太には嬉しくて堪らなかったのだ。
「あの頃も言ったけど、あの頃は本当に大変な状況においちゃってごめんな」
「雄太くんの所為じゃないってば」
「それはそうだけどさ」
雄太はニッコリ笑っている春香の手をギュッと握った。
「雄太くんと一緒にいるようになってたくさんの馬と触れ合う事が出来てありがたいって思ってるんだよ?」
「触れ合うっていうより舐められたりしてるのが……」
カームマリン以外の馬にもなぜか舐められてしまう春香の噂を聞いた人達は、必ず雄太の顔をマジマジと見ては春香は『人参の味がするのか?』と訊ねるほどだ。
(てか、馬の匂いを嫌がらないだけでも凄いって思ったっけ)
初めて競馬場を訪れた時も、乗馬教室で馬に乗った時も、トレセンで馬に触れ合った時も、春香は何も気にしていなかった。
気になるなら、馬の首に抱きついたりしないだろうなと思いながら寄り添い、札幌の夜景を楽しんだ。




