1042話
翌日も朝から春香達は札幌競馬場にいた。
純也は新潟に移動していたが、雄太と健人と梅野のレースを子供達は一生懸命に応援をしていた。
「パパぁ〜っ! がんばれぇ〜っ!」
「がんばれぇ〜、がんばれぇ〜」
「パパァ〜!」
「パー、パー」
健人も梅野も好きな子供達ではあるが、やっぱりパパが大好きなのがよく分かる。
雄太と一緒のレースに出ている時は健人と梅野の事はそっちのけだ。
「雄太くん、お疲れ様」
「パパ、かっこう良かったよ〜」
「パパ、おめでとう」
「パパァ〜、パパァ〜」
「パー」
レース終わりで拘束解除された雄太は春香と子供達のほうに手を振りながら駆け寄ってきた。
「春香ぁ〜。凱央ぉ〜。悠助ぇ〜。俊洋ぉ〜。美理愛ぁ〜」
雄太近寄って膝をついて両腕を大きく広げると子供達が腕の中に納まり抱きつく。
「幸せな家族って良いなぁ〜」
「羨ましいんですか? 梅野さん」
「健人ぉ……。お前、どんどん純也化してるぞ?」
「そうですか?」
私服に着替えて出て来た梅野と健人がじゃれ合っているのを春香はクスクスと笑っている。
「梅野さん、健人くん。お疲れ様」
「春香さん、札幌競馬楽しめたぁ〜?」
「春姉ちゃん、一日中外にいて疲れてない?」
「札幌競馬満喫しましたよ。個室のお店予約してますから」
子供達もいるし、大人数だという事でホテルのほうから薦められた個室のある店に予約を取っていたのだ。
「けんとにいちゃん、手繋ご?」
「ボクモ〜」
悠助と俊洋が健人の手を取る。梅野がチラリと美理愛を見た。そして、美理愛の前に膝をついて右手を差し出した。
「美理愛ぁ〜。手繋ごっか?」
「ン〜」
「駄目……かぁ……?」
悩んでいるような美理愛を見て梅野の表情が固まる。
「ントネ、ダッコシテ」
パヤッと笑った美理愛のリクエストに梅野はパァーと顔を輝かせて美理愛を抱っこした。
二日間の騎乗の疲れも吹っ飛んだように笑う梅野と満面の笑みを浮かべて話す美理愛の姿に雄太と春香は顔を見合わせて笑った。
「マサキニイタン。ア〜ン」
なぜか、美理愛が梅野に食べさせるという光景に雄太は目を真ん丸にして、健人は下を向いて必死に笑いを堪えている。
テーブルの上には海鮮や子供達が大好きなコーンクリームコロッケや海老グラタンや海老のフリッターなどが並んでいる。
「梅野さん、嬉しそうだね」
「だな。レースで勝った時よりニコニコしてるぞ。美理愛にそっぽ向かれた時は絶望したような顔をしてたって聞いたけど」
「うん。漫画とかである『ガーン』って感じの表情になっちゃってたよ」
その固まった顔を直接見ていた春香は、テーブルの斜向かいで満面の笑みを浮かべて美理愛にフリッターを食べさてもらっている梅野は別人のようだとクスクスと笑った。
「あ〜。北海道に来たら海鮮だって言ってた父ちゃんの気持ちがメチャ分かる」
「健人くんは塩崎さんと一緒で、食べてもあんまり体重増えないんだっけ?」
パクパクと美味しそうに食べる健人を見ていた春香が訊ねた。
「うん。純也と一緒ってのが若干嫌だけどさ。汗取りした後のアイスをガッツリ食うのが最高なんだよな」
「サウナの後って冷たい物が美味しそうだけど、ガッツリって」
春香と健人が楽しそうに話しているのを見ながら、雄太は健人が春香に言った言葉を思い出していた。
『雄太兄ちゃんをたぶらかした魔女』
『雄太兄ちゃんをたぶらかした性悪女は罰が当たるんだぞ』
春香から聞かされた言葉は雄太の心を傷つけた。
「春香が『魔女』かぁ……」
つい口をついて出た言葉を耳にした健人はビクリと肩を震わせた。
「ゆ……ゆ……雄太兄ちゃん……」
ヒクヒクと頬を引きつらせながら自分を見る健人を見て、雄太はニヤリと笑った。
「春香と仲良くしてる健人を見たら思い出してな」
「あ……あ……あの頃は、まだ俺はガキだったんだよ。ごめんって」
ニマニマする雄太と焦る健人の対比がおかしくて春香は薄っらと涙を浮かべて忍び笑いをしていた。
訳が分からない子供達は揃ってキョトンとした顔をして雄太達を見ていていた。




