1040話
二時間弱の飛行機の旅は子供達にとってあっという間だったのだろう。
フライトの疲れもなく子供達の顔は晴れやかだ。
「パパっ! パパっ! ソフトクリームっ! たべたいっ!」
「ボクモタベタイ〜」
「ワタチモタベル〜」
悠助達の目線を釘付けにしたのは、『北海道ソフト』の文字とソフトクリーム型のプラスチックの立体看板だ。
馬を撫でさせてと催促する時と同じようにウズウズしながら雄太を見詰める。
「うちの子はやっぱり春香の遺伝子がガッツリだな……」
「ちょっとぉ〜」
拗ねたように頬を膨らませた春香だが、北海道に来たらソフトクリームが食べなきゃと思っているのはバレバレなのだ。
「ママ。ぼくがG1を獲ったらお腹いっぱいソフトクリーム食べさせてあげるからね」
「凱央までぇ〜」
前を歩いていた凱央が振り返ってニッコリと笑って言う。
「凱央は雄太くんの遺伝子がガッツリだよ。私をからかう時の顔が雄太そっくりだもん」
「ははは。俺、春香に腹いっぱいソフトクリーム食わせてやった事ないもんな」
「そう言えば『お腹いっぱいソフトクリーム食べたい』って言った事ないかも……」
あまり言う事じゃないだろうと思いながらも、雄太は子供達と春香にソフトクリームを買ってやった。
「俺が美理愛を食べさせるから、春香は溶ける前に食べな」
「ありがとう、雄太くん」
娘にソフトクリームを食べさせている雄太の姿が『優しいパパ』として注目されているのに雄太も春香も気づいていなかった。
雄太にとって当たり前の事だったからだ。
「よし。じゃあ、ホテルに向かうか」
子供達のチャイルドシートを予約時に頼んでいたレンタカーに乗り、雄太達はいつも家族で利用していたホテルに向かった。
「今回は美理愛もいるから、一番大きな部屋を予約したからな。楽しみにしてろよ」
「オッキイオフロ?」
「クマタンイル?」
俊洋と美理愛は大はしゃぎだ。
風呂は自宅のほうが大きいし、部屋に熊がいたら大騒ぎになると思うと笑いが込み上げる。
「広い部屋だし、ソルも梅野さんも遊びにきてもらおうか?」
「純也兄ちゃんと真希兄ちゃんも北海道にいるの?」
「じゅんやにいちゃん、まさきにいちゃんきてくれるの?」
「イッショニアソベル?」
「アソブ〜。イッショニゴハンタベル〜」
純也と梅野が大好きな子供達は大喜びだ。
「なら、レースがない日に一緒にご飯食べようって言っておくからな?」
子供達は嬉しそうに頷いた。北の大地で一緒に過ごせるのは楽しいだろう。
「じゃあ、パパはそろそろ調整ルームに行くから、ママの言う事を聞いて良い子にしてるんだぞ?」
雄太は腕時計をチラリと見て、子供達の頭を順番に撫でた。
「え? チビーズ、そんなに喜んでくれたのか?」
「ああ。何かいつもより嬉しそうだったぞ」
札幌競馬場の調整ルームの雄太の部屋でゴロゴロしている純也と梅野に予定が合えばと伝えた。
「調整ルームにいるのに、直ぐそこに春香さんやチビーズがいるのって不思議な感覚なんだよなぁ〜」
「俺も、それ分かります。近くにいても会える訳じゃないですけど、気持ちの面で安心するんですよ」
雄太は顔をホテルのほうに向けてニッコリと笑った。
「てかさ、カームとアルに会いに行くんだろ?」
「もちろん。凱央がアルに会いたがってるの特番の放送の時にメチャ伝わってきたからな」
切なそうな愛おしそうな表情で画面の中のゾルテアレックスを見詰めていたのだ。
撮影時期が種付けシーズンだったから会えないのだと分かってはいても、会いたい気持ちは抑えられない。
「アルも凱央の事、ちゃんと覚えているんだろ?」
「ああ。呼んだらくるし、場長さんに訊いたら、凱央が帰った後淋しそうにしてたってさ」
カームも春香が帰った後、しばらくヒンヒンと鳴いていたと聞いている。
「雄太だけでなく、春香さんやチビーズが馬に懐かれてんだもんなぁ〜。俺なんて、引退した馬に会いにいったらそっぽ向かれたんだよなぁ〜」
「競走馬にとって、騎手は重たい上に鞭で叩くからって話し分かる気がしますよね」
うんうんと頷きあった雄太達だった。




