1039話
8月6日(金曜日)
「じゃあ、お義母さん。いってきます。留守をお願いします」
「ええ。目一杯楽しんでらっしゃい。家庭菜園と糠床の世話は任せて」
「はい」
春香は家の鍵がついているキーケースを理保に手渡した。
「バァバ。いってきまぁ〜す」
「おみやげかってくるね〜」
「イッテキマァ〜ス」
「バァバ〜。イッテキマス」
お揃いのスポーツブランドのTシャツを着た子供達は理保に大きく手を振っている。
「母さん。また北海道から荷物送るから」
「ええ。気をつけて」
子供達はチャイルドシートが要るのと人数からタクシーは二台に分乗する。
凱央と俊洋は雄太と一緒に乗り、悠助と美理愛は春香と一緒に乗った。
高速に乗ると周りを見て美理愛はワクワクとしてあれこれ話している。
「マー。オッキイクルマァ〜」
「大きいね。美理愛、今は良いけど飛行機に乗ったら静かにしてね?」
「ウン。イイコスル」
春香が人差し指を口元に当てると、美理愛は自分も口元に当てて『シィー』というジェスチャーをした。
(美理愛も成長してるんだよね。お兄ちゃん達の真似が多いけど)
少し声のボリュームを落とした美理愛は悠助とあちこち指差して話したり笑ったり楽しそうだ。
雄太達の乗ったタクシーの車内も俊洋が目をキラキラさせて凱央に話しかけていた。
「ヒコーキ、ヒコーキ。トキオニイチャン、アレハドコニイクノカナ?」
「あれは首を下げてるから、着陸するんだよ」
「ソッカ」
雄太は凱央の『首を下げてる』という言い方が馬乗りっぽいなと思っていた。
(『機首を下げてる』じゃなく、『首を下げてる』だもんな。凱央は『機首』って言葉を知らないだけかも知れないけど)
次第に大きく見える飛行機に、悠助と美理愛もはしゃいでるんだろうなと思うと雄太は忍び笑いが押さえきれなかった。
空港に着き家族全員揃い歩き始めると、周りから視線が集まる。
「ねぇ、あれって鷹羽騎手?」
「あの子、この前テレビに出てた子だ」
「鷹羽騎手、格好良いな」
雄太と凱央が注目を浴びていたが、雄太に抱っこされていた美理愛がトマトのぬいぐるみを持った手をフリフリした。
「キャー、可愛い〜」
「あの末っ子ちゃん、可愛い過ぎだろ」
有名な雄太と特番で有名になった凱央と可愛さを振りまく美理愛は注目を浴びまくっていた。
(ん〜。雄太くんは慣れてるからっていうのは分かるけど、凱央も堂々としてるし凄いなぁ〜。多分、美理愛は分かってないんだろうけど)
春香は悠助と俊洋と注目を浴びてる雄太達を後ろを歩きながら見ている。
「ママ。パパもときお兄ちゃんもすごいけど、みりあもすごいね」
「だね〜。私はドキドキしちゃうけど」
春香が小声で話していると、雄太がチラリと振り返った。
「俺は春香の度胸には負けるけど?」
「あはは……」
そう言ってニヤリと笑われて、春香は苦笑いを浮かべた。
ホワホワとした見た目の春香だが、いざという時の度胸は雄太だけでなく慎一郎や直樹や純也達も理解している。
「ボクモ、ママハカワイイケドツヨイトオモウヨ」
「俊洋までぇ……」
恥ずかしそうに笑う春香をチラチラ見ながら、雄太は楽しそうに笑っていた。
「パパ。ヒコーキウゴイタァ〜」
「そうだな」
美理愛は窓側の席に座って外を眺めて目をキラキラさせている。
二時間弱の飛行機の旅にワクワクしているのは悠助も俊洋も同じだ。
飛行機の旅も何度か経験している凱央が真ん中に座って、悠助と俊洋が退屈しないように色々と話しかけてやっている。
「凱央さ、本当に大人びてきたよな」
「うん。雄太くんがいない時には本当に頼りにしてるんだよね」
「優しくて頼りになってる凱央がいてくれて俺も安心だよ」
春香は深く頷いた。
(カーム……。アル……。元気にしてるかな。早く会いたいな)
大きな甘えん坊の二頭に会える事が楽しみでしかない春香と、北海道遠征に家族全員で向かう事が出来る雄太。
そして、北海道旅行が楽しみでしかない子供達を乗せた飛行機は北の大地へと向かっていた。




