1038話
7月23日(金曜日)
夏休みに入った凱央と悠助はリビングのテーブルで宿題をしている。
「ときおにいちゃん。ここわからないんだけど」
「ん? どこ?」
「ここのけいさん」
悠助が教科書を指差すと、凱央は一生懸命に説明していた。
春香は昼食の準備をしながら、その様子を見ていた。
(ふふふ。二人とも頑張ってるなぁ〜)
雄太から『騎乗依頼次第だが、八月になったら北海道に行く予定だぞ』と、聞いた凱央は顔をパァーっと輝かせたのだ。
その表情から『アルに会いたい』という凱央の気持ちが伝わってきた雄太は、凱央に悠助の夏休みの宿題をみてやるように言った。
凱央はアルに会う為と尚道とのお庭キャンプの為に時間を作るべく宿題を頑張っている。
「バァバ。トウモロコシ、オッキクナッタネ」
「そうね。俊洋が毎日頑張ってお世話してるからよ」
「ウンっ!」
庭では俊洋と美理愛が理保と一緒に家庭菜園で育てている野菜の収穫をしている。
ヒゲが茶色くなって収穫時期を迎えたトウモロコシを理保に手伝ってもらいながらもぎ取った。
「オッキイノ、トレタァ〜」
「バァー。トレタ」
俊洋と美理愛は大きなトウモロコシを抱えてウッドデッキに戻ってきた。
「ママ。トキオニイチャン、ユースケニイチャン。ミテミテ〜」
「トウモロコシダヨ〜」
凱央と悠助はリビングテーブルから立ち上がり、俊洋と美理愛の傍に近寄った。
俊洋と美理愛は得意気にトウモロコシを掲げる。
「おいしそうなトウモロコシだね」
「大きいのとれてよかったね」
春香が近寄って行くと、俊洋と美理愛の後ろから理保が夏野菜が山盛りになった籠を差し出した。
ピーマンやキュウリ、ミニトマトやパプリカなど、新鮮な野菜達に春香は嬉しそうに笑って受け取った。
「茄子は明日だと思うわ。糠の様子はどう?」
「はい。今日も良い感じです」
「そう。水っぽくなったら小屋に置いてある糠を足しなさいね」
「ありがとうございます」
理保の糠床を分けてもらって大切にしている春香の糠床も慎一郎が太鼓判を押すぐらいになっている。
野菜を手渡した理保が自宅に戻ろうとするのを春香は呼び止めた。
「お義母さん。ちょっと待ってください」
そう声を掛けて春香は冷蔵庫に走った。中からタッパーを取り出して理保の元に戻った。
「こっちが茄子の煮浸しで、こっちがジャコ唐辛子で、これが鮪の尾肉の大和煮です」
「あら、ありがとう。うちの人に食い尽くされないようにしなきゃ」
嬉しそうに笑った理保は自宅に戻って行った。春香が理保とやり取りをしている間に、俊洋と美理愛は手を洗いに洗面所へ向かっていた。
テーブルの上に置いてある大きなトウモロコシは俊洋がどうしてもと言い水やりをしたりして育てた物だ。
(茹でトウモロコシを植えるぐらいに大好きで、自分でお世話した採りたてだもんね。きっと、今までで一番美味しいって思うんだろうな)
宿題をしていた凱央と悠助。収穫作業をしていた俊洋と美理愛が、手洗いを終えてダイニングに戻ってくる。
「さぁ、お昼にしようね」
春香はキッチンに入り、子供達は箸や茶碗を出したりとお手伝いを始めた。
(ふふふ。何も言わなくてもお手伝いしてくれる良い子ばかりで嬉しいな)
ふと雄太は今頃どこだろうなと春香は思った。
その頃、雄太は小倉へ向かう新幹線の車内にいた。
(フンフン。ソルがいないと、安心して春香の手作り弁当が食えるぞぉ〜)
雄太は鼻歌混じりでトートバッグから弁当箱とお茶のペットボトルを取り出した。
(俺の大好きな物ばっかりだぞ。幸せだぁ〜)
パクリと口にした鮪の尾肉の大和煮の旨さにニンマリしてしまい、周りの視線が気になってキョロキョロしてしまった。
(うまっ! ソルに取られないからゆっくり食おう)
その頃の純也は新潟で大きなクシャミをしていた。
「ブエックショーイっ!」
周りの後輩達がビクリと体をビクつかせているのを見ながら鼻をグシグシと擦った。
(可愛い女の子が噂してんのかなぁ〜)
相変わらず呑気な純也である。




