1037話
嬉し涙を目一杯流した春香は洗面所に向かい顔を洗った。
(嬉しいな……。雄太くんがこんなに早く二回目のダービーを勝てたなんて夢みたい……)
また雄太への好きが増えた春香は、ニッコリと笑ってリビングに戻った。
「パパが帰ってくる前にお買い物に行くよ。今夜、何が食べたい?」
テレビを消したリビングで遊んでいた子供達に声をかけると、パタパタと春香の傍に近寄って夕飯のリクエストをする。
「ぼくね、ハンバーグが良いな。中にチーズが入ってるヤツ」
「ぼくもハンバーグがいい〜」
「ボクハ、コーンクリームコロッケ〜」
「ワタチ、フリャイドポチェト〜」
春香は頭の中でメニューを組み立てて、買い物する物をパパパッと考える。
「うん。じゃあ、ママは買い物に行ってくるからお兄ちゃん達はお留守番よろしくね。美理愛、行くよ」
「ハ〜イ」
美理愛を連れて春香は買い物へと向かった。
「パパ、おめでとうっ!」
「パパ、すごかったぁ〜」
「オメデトウ、パパ」
「パー。オメデト〜」
雄太が帰宅すると子供達はワァーっと駆け寄り抱きついた。
「お〜、ただいま。皆、良い子にしてたか?」
晴れやかな顔の雄太は膝をついて子供達をまとめて抱き締めていた。子供達の後ろで立っていた春香を見上げた。
「雄太くん。おめでとう」
「ありがとう、春香」
ニッコリと笑う春香の目には薄っすらと涙が浮かんでいた。
(泣いて喜んでもらえるなんて、俺は幸せ者だよな)
雄太は美理愛を抱き上げて、春香と凱央達と共にダービー二連覇の余韻を噛み締めていた。
「パパ、キョウハオオキイハンバーグダヨ」
「トマトノサラダモアルノ」
俊洋と美理愛が夕飯の話しをしてくれる。そんな子供達の様子から、喜んでくれているのも伝わってきて雄太は頑張って良かったと思った。
「雄太くん。サインありがとう」
「ああ」
子供達が寝静まってから、雄太は春香にサインを書いてやった。
『ダービー二連覇』と書いてやると、春香はニコニコと笑っていた。
「ダービー獲りたいって、何度も春香に言ってたのに、二連覇出来るなんてな」
「うん。夢見てるみたいって思っちゃった」
春香は色紙をビニール袋にしまってからも嬉しそうに眺めている。
「ダービー二連覇なんて無理だろって言われたら、俺も『そうだよな』って思うぐらいの出来事だったぞ。まぁ、どんなレースでも『勝つぞ』って思ってるけどな」
「うん」
昨年、インポータントデイとダービーを獲れた時、地下のコレクションルームで思いの丈を叫んだ雄太の姿を昨日のように春香は覚えている。
「春香。毎日、俺を支えてくれてありがとう。調教師や担当厩務員さんや調教助手さん達にも感謝してるけど、やっぱり一番は体重管理や精神的なケアやマッサージで体を整えてくれる春香に一番感謝してる」
雄太は春香の肩をギュッと抱き寄せた。
「私こそ、いっぱい感動させてもらってありがとう」
「ああ」
雄太は春香が夕飯の後片付けをしている時に、凱央から春香が号泣していた事をコッソリと教えてもらっていた。
「そんなに……か?」
「うん。ボロボロなみだ流してたよ。本当にうれしかったんだと思う」
凱央は昨年の時もだが、『史上初の二連覇』に感動したのだろうと言っていた。
「ぼくも、人をよろこばせる事が出来るジョッキーになりたいな。一番最初はママかな」
「ああ。凱央が初勝利を上げたら、ママもバァバも号泣するぞ」
「うん」
数年後、初勝利を上げる凱央を想像すると、雄太もドキドキワクワクするのだ。
「あ、そうだ。今年は北海道行けたら良いなって思ってるんだけど」
「そうなの?」
「騎乗依頼次第だけどさ。春香もカームに会いたいだろ? で、凱央は特番の時にアルを見て会いたそうな顔をしてたからさ」
撮影の時期は種付けシーズンだったから、ゾルテアレックスに会わせるシーンは撮影が出来なかった。
映像を撮影しに撮影班が北海道に行っていただけなのだ。
「そうだね。行けたら良いな」
「ああ。きっとカームもアルも喜ぶぞ」
「うん」
夏が待ち遠しい雄太と春香だった。




