第40章 雄太の思いと未来への思い 1036話
6月6日(日曜日)
東京競馬場 9R 第66回東京優駿 G1 15:30発走 芝2400m
昨年、インポータントデイと優勝を飾った東京優駿に、今年も雄太は出場させてもらえる事になっている。
(雄太くん、頑張ってね)
子供達と一緒に競馬中継を見ながら雄太の活躍を祈っていた。
昨年、インポータントデイとダービーを勝ち、晴れてダービージョッキーの称号を得た雄太はパドックで大きく息を吸い込んだ。
(一回勝ったからって、また勝ちたいのがダービーなんだよな)
『ダービージョッキー』という子供の頃からの夢を叶えたのに、やはり『もっとだ』という欲は増えていくばかりだ。
(俺は欲張りだからな。まだ、ダービー獲れてない先輩もいるけど、俺は遠慮なく獲りにいく。勝ちたいからな、どんなレースだって)
パドックで周回している純也も梅野も鈴掛もきっと同じ思いだろうなと思う。
勝ちたいG1は違っても、やはり『ダービージョッキー』と呼ばれたいのは同じだ。
梅雨入り前の晴れた空を見上げて、もう一度大きく息を吸い込んだ。
「パパァ〜。がんばれぇ〜」
「パパァ〜、パパァ〜」
「ガンバレ、ガンバレ。パー」
悠助達がポンポンを振って声援を送っているが、凱央はソファーに座っている春香の隣に腰掛けジッと画面を見ていた。
(凱央は雄太くんを応援するって感じから、レースの分析をしたりする事に集中し始めた……のかな?)
真剣な顔をする凱央の横顔は雄太に似ていて、きっと雄太もこんな風に慎一郎のレースを見ていたのだろうかと春香は思った。
危ない事、非常識な事、子供為にならない事以外は止めない主義の春香は、テレビの中の雄太と共に自分の夢に向かう凱央の未来を応援していた。
綺麗なスタートを切って、雄太は後方につけていた。
ずっと後方にいた雄太が動いたのは4コーナーを周り直線コースに入ってからだった。
数頭との激しい争い。抜きつ抜かれつの叩き合いがゴール板の所まで続く接戦だ。
掲示板には『写』の文字が点った。
(一着は……? 雄太くん……)
何度かスロー再生が流れるがはっきりとは分からない。
「首の上げ下げ……。鼻先が前に出ているほうが勝ち……」
(え?)
真剣な顔でテレビを見ている凱央が小さく呟いている。
(雄太くんを見てるみたい……)
春香の視線に気づいた凱央が照れくさそうに笑った。
まだ一着と二着は写真判定中だが判定出来た順位を見ると、純也の馬番が四着の所に表示されてた。
(ソルは四着か)
鈴掛と梅野は掲示板を外してしまったようだ。
今までダービーを連覇した騎手はいない。だから、雄太が勝てる可能性は低いだろうと言われてはいた。
そんな事を考えていると、観客席から大歓声が沸き上がった。
「あ……。雄太くん……」
春香の目から大粒の涙がポロポロと溢れ出した。
「ママ。パパ、かっこう良かったね」
「ママ。パパ、かったね」
「パパ、スゴイネ」
「マー、ナイチャタメヨ。イイコ、イイコ」
子供達はワラワラと春香の周りに来て頭を撫でたり、抱きついてくる。
「うん……。パパ、格好良かったね。勝ってくれたね」
「ママ。なみだふいて」
「凱央、ありがとう」
凱央は洗面所に行きタオルを持ってきて、春香に手渡してくれた。
テレビから雄太の勝利騎手インタビューが聞こえる。
『鷹羽騎手、ダービー二連覇おめでとうございます。史上初ですね』
『ありがとうございます。最後まで酷しいレースでしたが、馬は頑張って走ってくれたし、調教師達にも感謝です』
昨年、インポータントデイでダービーを獲るまで『他のG1は獲れてもダービーは獲れないのはなぜか?』と言われていた雄太が、本当ににこやかにインタビューを受けている。
(本当に嬉しい……)
溢れる涙を拭っていると、美理愛が大きなウサギのぬいぐるみを運んできた。
「マー。ウサチャンカシテアゲル」
「ありがとう、美理愛」
雄太のダービー二連覇と子供達の優しさに涙が止められない春香だった。




