1034話
5月5日(水曜日)
早めに夕飯と風呂を済ませた春香と子供達はドキドキとしながらテレビの前に座っていた。
雄太はソワソワして何度も録画の確認をしていた。
「雄太くん。落ち着いて?」
「え? あ……ああ。分かっているんだけど、気になっちゃってさ」
春香に呆れたように言われて、苦笑いを浮かべ雄太はソファーに座った。
悠助達は雄太以上にワクワクしていたが、凱央は緊張をしているようだった。春香はそっと凱央の肩に手を置いた。
「あ……。ママ……」
振り返った凱央は照れくさそうに笑った。
「あ、ほら。始まるよ」
「うん」
凱央は頷いてテレビのほうに向き直った。
『こどもの日特番ーぼくは騎手になるー』
オープニングはトレセンの風景やゾルテアレックスがいる牧場の遠景が映った。
そして、乗馬教室が真剣な顔でポニーに乗る凱央と熱心に指導をしている雄太と慎一郎の姿。
ナレーションは鮎川が務めてくれていた。
『彼の名前は鷹羽凱央。彼の父は競馬界で知らない人はいない鷹羽雄太。日本のみならず海外でも活躍する父の背中を凱央くんは追い掛けている』
凱央が新しく相棒となったポニーのケイタの体にブラッシングしたり、人参をやったり世話をしている姿が映る。
(モモちゃんやチコちゃんより大きなポニーだけど、凱央が背が伸びたからあんまり大きく感じないな)
そして、またポニーに乗り練習場を駆けている姿が映った後、乗馬教室の馬房近くの芝生の所でのインタビュー映像が流れて来た。
「凱央くんが騎手になりたいと思ったのはいつですか?」
「はっきりと『いつ』って言うのはおぼえてないんです。父といっしょに馬を見に行ったり、ふれさせてもらったりして馬が身近なそんざいだったのがあったのはたしかなんですけど」
ニッコリと笑いながら話す凱央が大人びて見える。
「お父さんのようになりたいっていうのは自然な事だったの?」
「自然でしたね。父も母も、『しょうらいはきしゅに』とか言った事はないです。ぼくがやりたい事を危なくないか見守ってくれている感じです」
雄太と春香は子供達には子供達の人生があるからとレールを敷く事はしなかった。実際、三男の俊洋が乗馬教室に行きたいと言ったのはつい二日前の事だ。
「お祖父さんも騎手だったし、今調教師なのも影響あった?」
「祖父のえいきょうがまったくないとは言えないですね。ふだんはいそがしくて、なかなかいっしょにレースを見たりは出来ないですが、教室につきそってくれていろいろと教えてくれます」
凱央は話している声が聞こえるが、映像は慎一郎が凱央に指導しているところが流れている。
キリリっとした顔をした慎一郎が凱央にアドバイスをして、真剣な凱央が頷いている。
『お祖父さんも元騎手、お父さんは現役の騎手の凱央くん。自ら騎手の道を選んだ彼には、とても大切にしている馬がいます』
場面は模様替えが済んだ凱央の部屋に移った。
「ここがぼくの部屋です。父と母が『子どもがようちえんに行くようになったら、自分の部屋を持たせる』と言うのが考えだという事で、ようちえんから一人部屋です」
凱央の部屋をグルリと映り、写真が飾ってある壁で止まった。
『この馬の名前はゾルテアレックス。父の雄太騎手と共にG1含む重賞を八勝した名馬だ。今は北海道で種牡馬として生活している』
写真を見詰める凱央の横顔はゾルテアレックスへの想いが溢れているように見える。
「凱央くんはゾルテアレックスが好きなんだね」
「大好きです。大きな体で甘えてくるし、かわいいです」
凱央の部屋にあるゾルテアレックスに似た芦毛のぬいぐるみの数々と写真の数々が映し出されている。
ゾルテアレックスの馬房前で撮られた写真や牧場での写真。どれも凱央の宝物になっている。
(凱央って、父さんに抱っこされて競馬場の大勢の観客からの声援に動じる事もなかったんだよな。度胸があるのは春香もだし、凱央がテレビの撮影でこんな風に話してるのも変じゃないんだよな)
撮影した時は緊張したと言ってはいたが、堂々と話している凱央を誇らしく思う雄太だった。




