1031話
リビングで子供達がキャッキャと遊んでいるのをニコニコと見ていた春香が、車用のシャッターが開いたランプが点いたのに気づいて立ち上がった。
「パパ帰って来たよ。ほら、皆。準備して」
「うん。ほら、皆これ持って」
凱央が一つずつ悠助達にある物を持たせていく。
「ときおにいちゃん、ありがとう」
「アリガトウ、トキオニイチャン」
「ン。ガンバル」
悠助達はお礼を言って、春香と一緒に玄関に向かった。
「ちょくせつパパにむけちゃダメだよ? あぶないからね? 上にむけてやるんだよ。良いね?」
「うんっ!」
「ハ〜イ」
「ハイっ!」
凱央が言うと悠助達はニッコリと笑って返事をする。子供達がドキドキしながら雄太がドアを開けるのを待っていると、カチャカチャと鍵の音がしてドアが開いた。
「た……」
パンッ! パンッ! パンッ! パンッ!
『ただいま』と言おうとした雄太は破裂音と共にカラフルな細い紙テープが宙を舞っているのを見て固まった。
(え? え? え? えぇ〜っ⁉)
目を真ん丸にして春香と子供達を見ると、美理愛がンションショとクラッカーの紐を引いている。
凱央がそっと手を重ねてやり一緒に引くと美理愛の分のクラッカーが破裂音を響かせた。
パンッ!
「デキタァ〜」
「良かったね、みりあ」
「ウン」
ニッコリと笑った美理愛と凱央をジッと雄太が見ていると、春香が子供達の背中をポンと叩いた。
それを合図に雄太を出迎える声がする。
「お帰りなさい、雄太くん」
「おめでとう、パパ」
「パパ、おめでとう」
「パパ、オメデトウ〜」
「パー、オメデトウ」
遅れた美理愛の分の紙テープを手に受けていた雄太は、ハッと我に返って春香を見た。
「ただいま……。ありがとう……。てか、これ何事……?」
「天皇賞春を走り切ってお疲れ様と、優勝おめでとうって思って」
苦笑いを浮かべながら訊ねる雄太に、春香は満面の笑みで答えた。子供達もニコニコだ。
雄太は足元に散らばった紙テープをクルクルと巻き取った後、膝をついて子供達を抱き締めた。
「皆、ありがとうな」
四人の宝物に抱き締められ、雄太はインポータントデイと共に優勝が出来た事を嬉しく思った。
子供達が寝静まった後の夫婦水入らずの時間だ。
「お疲れ様、雄太くん」
「ありがとう、春香」
雄太は差し出されたコーヒーカップを受け取り、一口飲んでホッと息を吐いた。
「まさか、玄関開けたらクラッカー鳴らされるなんて思ってなくてビックリしたよ」
「あはは。明日、悠助達のお祝いする時に使うクラッカー買ってたから、雄太くんおめでとうに少し使っちゃった」
明日、悠助の小学校入学と誕生日と俊洋の幼稚園入園のお祝いをする。
それ用にと買っていたクラッカーを使ったのは分かったが、今までこんな事はなかったのになと雄太は思った。
「美理愛がね、クラッカーを買いに行ってから、何度も何度もリビングボードの上に置いてあるのを指差して、『マー。マダ?』って言ってて。鳴らしたくてウズウズしてるから、『パパがデイと優勝したら良いよ』って」
「成る程な」
鳴らしてみたいと思っていた美理愛だったが、一人ではまだ紐が引けなかった。
どうやらそれが悔しかったようで、寝る前にも引く練習のような動きをしていたのだ。
「負けず嫌いはうちの子は全員のようだな」
「うん」
「俺もだけど、春香もだけどさ」
「う……」
心当たりがあり過ぎる春香は言葉に詰まり、ほんのり頬をピンクに染めてそっぽを向いた。
見かけは大人しそうでニコニコとしている春香だが、かなり負けず嫌いだ。
自転車に乗れなかった春香の時が最たるものだ。
「明日は悠助の入園祝いと俊洋の入園祝いと悠助の誕生祝いの上に、雄太くんとデイの天皇賞春の優勝祝いだね」
「そうだな」
お祝い事がある事がたくさんあるのは嬉しい事だ。
『おめでとう』の言葉は心が温かくなる。
『ありがとう』の言葉も心が温かくなる。
リビングボードの上に置いてある雄太に書いてもらったサイン色紙をニコニコと眺めニコニコと笑う春香をギュッと抱き締めた。




