1030話
5月2日(日曜日)
京都競馬場 11R 第119回天皇賞(春)G1 15:40発走 芝3200m
雄太はパドックで堂々と歩いているインポータントデイを真剣な目で見詰めた。
(マジで良い調子って感じなんだよな)
五月の陽射しを受けて、インポータントデイは艶々としている。
ダービー以降G1に乗れていなかったインポータントデイに天皇賞に挑戦出来る事が嬉しい。
騎乗号令がかかり、雄太と純也と梅野はパドックに出た。
シャカシャカと雄太宅のリビングに響いている。
「パパ、がんばれ。デイ、がんばれ」
「パパ〜。デイ〜」
「パパ、ガンバッテ〜。デイ、ガンバッテ〜」
「パー、パー」
春香は両手を握り締めてテレビを見ていた。
(雄太くん、気をつけて頑張ってね。デイ、無事に帰って来てね)
雄太もインポータントデイもキリリとしていて、春香は見惚れていた。
(格好良いなぁ……。うん。本当に……格好良いなぁ……)
春香は一番人気で注目されているえ雄太とインポータントデイがパドックで周回しているのが嬉しくてたまらない。
そして、雄太への『好き』が増えていく。
インポータントデイの最終オッズは2.3倍で一番人気だ。
ゲートに入ったインポータントデイはスッと綺麗にスタートを切った。
晴れていて乾燥しているから、蹴り上げた芝以上に土埃が舞い上がっている。
インポータントデイは一周目のスタンド前を三番手で過ぎて行った。
観客席の大歓声と同じように下三人は雄太とインポータントデイに声援を送っている。
「パパァ〜。デイ〜」
「ガンバレェ〜」
「パー。ガンバェ〜」
悠助と俊洋、美理愛が大きな声で応援しているが、凱央はジッと画面を見詰めている。
「パパは、あせらないでペースを考えてるんだ……」
春香は、凱央が雄太を騎手の見本にしようとしている事は知ってはいたが口に出されるとドキリとした。
(凱央……。凱央が競馬学校に行くようになるまで丸六年もないんだ……。六年……長くないよね……。あっという間だよ……)
凱央が夢を叶えて欲しい気持ちとほんの少し淋しい気がしてしまった。だが、今考える事ではないとテレビに集中した。
2コーナー、3コーナーとレースは進んで行った。インポータントデイを抜かす馬があったが、途中で力尽きたのか少し下げようと思ったのか、順位は入れ替わっていた。
4コーナーを周り直線コースに入り少しすると、インポータントデイはグングンと前に出る。
大歓声が湧くスタンド前に差し掛かると三頭の争いになった。
「パパっ! デイっ! がんばってっ!」
「パパァ〜っ! パパァ〜!」
「パーっ! デイ〜っ!」
悠助達がポンポンを放り投げて声援を送る。凱央は一瞬も目を離すまいと画面を見詰めていた。
「雄太くんっ! デイっ! 後少しっ!」
春香も思わず立ち上がり、両手の拳を握り締めて画面の中の雄太とインポータントデイに声援を送る。
三頭の争いはしばらく続いたが、インポータントデイがグングンと他馬を突き放し出した。
スタンドから叫びににも似た大歓声が沸き上がる。
そのままインポータントデイは一着でゴール板を駆け抜けた。
「デイ、よく頑張ったな。お疲れ様。お前、やっぱり凄いよ」
荒い息を吐いているインポータントデイの首筋をポンポンと叩いて、雄太は三千二百メートルを走り切った相棒の力に嬉しさが込み上げていた。
雄太はゆっくりとスピードを落としてやり、空を見上げた。
(こんなに良い状態に仕上げてもらって、調教師にも厩務員さんにも感謝しなきゃな)
競馬は騎手だけで成り立つものではない。どんなに良い血統が良く走る力がある馬でも調教がきちんと出来ていなかったり、適切な飼料を適切な状態で与えたりしなければならない。
更には蹄鉄を装着してくれる装蹄師やストレスが少ないように運んでくれる馬運車の運転手などの技術力も必要だ。
「さぁ、戻って口取りだぞ。調教師も喜んでくれてるからな」
どんな時でも努力を怠らず感謝を忘れずにいるからこそ雄太に良い馬が集まるのだと分かっている人は少ないのかも知れない。




