1028話
子供達が撫で終わり、雄太は上着のポケットから春香と子供達が作った御守りを壁に打ち付けてある釘に括りつけた。
ダービーの時につけていた物が風などの所為でボロボロになっていたからだ。
(今度は布で作ってあるし、前の折り紙の奴より長持ちするだろう)
インポータントデイの激励をしに行くと分かった時に、春香がしまってあった余り布でせっせと作っている姿を見て微笑ましく思っていた。
縦長に切られた布に幼いが丁寧な文字が並んでいる。
『デイ。パパといっしょにがんばれ。テレビの前でおうえんするからね。ときお』
『おうえんしてるから、がんばれデイ。ゆうすけ』
小学生の凱央と悠助は自分の分を書いて、凱央は俊洋の分を書き、悠助は美理愛の分を書いてやった。
『がんばれ、デイ。としひろ』
『デイ。がんばれ、がんばれ。みりあ』
デイへの激励ではあるが、雄太への激励でもあるんだなと受け取った雄太は子供達の願いが叶うように頑張らなきゃと思う。
(よし、これで良いな)
御守りを括り終え、ふと横を向くとまたインポータントデイは春香に甘えていた。
「撫でて欲しいのはここかな? デイは甘えん坊さんだね。いっぱい撫でてあげるから、頑張るんだよ?」
子供達を撫でさせる前、春香に撫でられる事に満足したと見えたインポータントデイだったが、また春香の手や顔にスリスリと鼻や顔を擦り付けている。
「デイ……。お前、まさかマーキングしてるんじゃないだろうな? 何度も言うが、春香は俺のだからな?」
雄太が言うとインポータントデイはチラリと見た後にフンッと鼻を鳴らした。
「おまっ! おまっ! 生意気だぞっ⁉」
このやり取りも何回目だろう。当番厩務員は顔を背けて、薄っすらと涙を浮かべて忍び笑いをしている。
どういう風に見ても馬相手にムキになっている雄太はG1をいくつも獲っている騎手には見えない。
そして、雄太を華麗にスルーしながら春香にベタベタと甘えてはドヤ顔をし、雄太をチラ見しているインポータントデイは馬には思えない。
「俺はこの先も馬に……。いや、やめとこ……」
雄太は何度も何度も口にしたセリフを途中で飲み込んだ。
根岸厩舎を後にして乗馬教室に移動した春香は、凱央と悠助が慎一郎と雄太にあれこれ指導を受けているのを見詰めていた。
凱央はこの春からポニーしにては馬格の良い牡馬のケイタに乗るようになっている。悠助は牝馬のチコに乗るようになった。
「ネェ、ママ。モモチャンハ?」
「ももちゃん? 馬房にいると思うよ。今日は小さい生徒さん居ないからね」
「ソッカ」
俊洋はそう言って、また凱央と悠助がポニーに跨っている姿を見ている。
(そう言えば、俊洋は乗馬習いたいって言わないな……。凱央や悠助のヘルメットかぶったりしてるから乗馬に興味あるのかなって思ってたけど)
雄太も春香も子供達のやりたい事をやらせると決めている。決して親がレールを引かないとも決めている。
もし俊洋が『習いたい』と言うなら反対はしないし、喜んで習わせる。それを急かしたりしないで、俊洋のタイミングでと思っている。
「ニィニ〜。ガンハレ〜」
美理愛は両手を挙げて、かなり離れた所でポニーに乗っている二人の兄をピョンピョンと跳ねながら応援している。
(美理愛はどうなのかな。まぁ、私も雄太くんも見守るだけだけど)
ピョンピョン飛び跳ねてる美理愛の髪から、ウサギの髪飾りがスルリと落ちた。
それに気づいた俊洋はしゃがんで拾ってやる。
「ミリア。ウサギチャンオチタヨ」
「ン?」
美理愛が頭に手をやった後、俊洋が拾ってくれたウサギの髪飾りを手に取った。
「ニィニ、アリガトウ。ママ、ウサチャンツケテ」
「はいはい」
春香が落ちたウサギの髪飾りについた砂を手で払い、美理愛の髪に着けてやった。
(そう言えば俊洋、入園式の時に隣の子が泣いてるのに気づいて励ましてやってたっけ)
凱央も悠助も俊洋も優しく思いやりに溢れた子に育って良かったなと思う春香だった。




