1026話
4月8日(木曜日)
昨日に引き続き仕事を早く終わらせた雄太と慎一郎は、幼稚園の制服を着た俊洋に何度も何度も訊ねられていた。
「パッパ。ボクモ、オニイチャン?」
「ああ。俊洋も立派なお兄ちゃんだぞ」
「ジィジ。ボクモ、オニイチャン?」
「もちろんだとも」
悠助の幼稚園の制服を羨ましがっていた俊洋が、真新しい幼稚園の制服を着てはしゃいでいる。
「ジィジトバァバガカッテクレタクツハイテ、ヨウチエンイクンダヨ」
「そうだな。頑張って幼稚園に行くんだぞ」
「ウンっ!」
慎一郎は満面の笑みを浮かべる俊洋の頭を撫でていた。
昨日同様、純也達が来てくれた。門扉の前で写真を撮ってもらったが、凱央と悠助は学校に行っていていない。
(少し淋しい気もするけど、これが子供達が成長していってるって事なんだよな。てか、美理愛の入園式の時はもっと少ないんだよな)
雄太はそんな事を考えながら、慎一郎に抱っこをされている美理愛を見た。
美理愛が幼稚園に入る一年前に俊洋が小学生になっている。つまりは美理愛の入園式の時には兄達は一緒に写真を撮る事はない。
だが、それは考えても仕方ない事ではある。
「じゃあ、そろそろ行ってくるから。美理愛、良い子にしてろよ?」
「ウン。イイコシテユヨ」
「お義父さん、お義母さん。美理愛をよろしくお願いします」
慎一郎と理保は深く頷き、美理愛は小さな手を振っていた。
俊洋は大きく手を振りながら先頭を歩いていて、幼稚園に通うのが楽しみだというのが伝わってくる。
「なぁなぁ、雄太ぁ〜」
「何ですか?」
「悠助の入学祝いと俊洋の入園祝いのパーティーとか予定してるぅ〜? 予定空けたいからさぁ〜」
「あ、それ言ってなかったですよね。俺が休みで子供達が揃う5月3日にします。あ、悠助の誕生日の祝いも一緒です」
前を歩きながら会話を聞いていた純也も健人もニッと笑って頷いた。
「俺も予定入れねぇからな」
「俺も。春ねぇちゃんの料理楽しみだし」
にこやかに言う純也と健人に春香は嬉しそうに笑った。
梅野に看板前で写真を撮ってもらい、雄太達は園内に入った。
雄太と春香は並んで椅子に座り、最前列に座っている俊洋の背中を見詰めていた。
しばらくすると俊洋が隣を見て、驚いた顔をした後、なにやら隣の子に話しかけている。
「あれ、何やってんだろな?」
「うん。何か話してるみたいだけど……」
雄太と春香は他の人達に聞こえないように話していたが、その間も俊洋は隣の子に話しかけている。
その子が俯き加減にしていた顔を上げて袖で顔を拭った。
「もしかして幼稚園に来て親と離れて不安で泣いてた……?」
「そうじゃないかな? 入園したての頃は門の所で泣いてる子たまにいるもん」
入園式が始まり、俊洋は大きな声で返事をした。そして、隣の子が呼ばれる時には両手の拳を握り締めて励ましていて、雄太と春香は俊洋の優しさに顔をほころばせた。
(あいつ……。本当に良いお兄ちゃんになったよな。美理愛が産まれるまでは甘えん坊の末っ子だったのに)
きっと美理愛のお世話をしたり、遊んでやったりしてきた事で俊洋はお兄ちゃんとして成長したのだろう。
(泣いてる子を放っておけなかったんだな)
返事をし終わった隣の子の肩を優しくポンポンとしていた俊洋と隣の子の笑顔が雄太も春香も嬉しかった。
「俊洋〜」
「バァバ〜、バァバ〜」
里美の姿を見つけた俊洋は雄太と春香をその場に置き去りにして駆け出して行った。
「なぁ、俊洋って足速くないか?」
「そうなんだよね。多分、走れるようになった頃から凱央と悠助と走り周ってるっていうのが原因じゃない?」
「あ〜。日々の鍛錬だな」
俊洋はニコニコと笑って里美に甘えている。梅野はいつも通りに里美と俊洋の写真を撮影した。
「里美先生は若く見えるから俊洋のママに見えますよぉ〜」
「梅野くん。あなた凱央の時もそう言ってなかった?」
「あの時から全然変わらず若くて美人って言いたいだけですよぉ〜」
それを聞いていた純也と健人のウンザリした顔がおかしくて、雄太と春香は涙を浮かべながら笑っていた。




