1024話
俊洋の部屋もほぼ完成し、凱央と悠助の部屋の壁紙と天井の施工が終わり、雄太宅の子供達は新しい生活が始まろうとしていた。
春香は、毎日子供達が寝静まってから少しずつ、悠助の入学準備と俊洋の入園準備を出来る範囲でしていた。
(えっと……。これとこれ……。うん。後は教科書とか入学式が終わってからだよね)
春香は『ときお』から『ゆうすけ』と名前を書き換えたお道具箱をそっと撫でた。
(ふふふ。悠助は本当に凱央が好きなんだなぁ〜)
お古のお道具箱の傍には理保の手作りの新しい袋が置いてある。
二月の半ば、俊洋の部屋を造るのと同時に凱央と悠助の部屋の壁や天井を張り替える前の事だ。
自分の荷物を空きスペースに移動させていた凱央が要る物と要らない物を仕分けていた所に来た悠助の目に止まったのは黄色の箱だ。
「ニイチャン。コレナニ?」
「お道具箱だよ。ぼくはもう使わないんだけど、すてるのもどうかなって考えてたんだ」
「ガッコウデツカウヤツ?」
「そう。一年生の算数に使うやつだよ」
そう言って凱央はお道具箱を床に置いて蓋を開けた。中には赤や黄色などの算数用の教材が綺麗に並べられていた。
「コレ、ボクモツカウノ?」
「うん。一年生の内は使うと思うよ」
「ジャア、モラッテモイイ?」
「良いよ。じゃあ、ママに『もらった』って言っといで」
「ウンっ! アリガトウ」
悠助は凱央からもらったお道具箱を抱えて階下へと向かった。
「マーマァ〜。コレ、トキオニイチャンニモラッタ〜」
「え? あ、凱央のお道具箱じゃない」
「ウン。ボクネ、コレガッコウニモッテイク」
「え? お古で良いの?」
「ウンっ!」
確かに凱央は丁寧に使っていたし、数も揃っているが、お古を使わせるのもなと春香は考えていたが、悠助が満面の笑みを浮かべ頷いたのだ。
「じゃあ、名前を書き換えるからママが預かるね」
「ウン。オネガイネ、マーマ」
預かった春香は後日学校に電話をして、お道具箱の中身が大幅に変わるかを訊ねた。
そして、箱の絵柄以外は変わりがないというので、一つ一つ名前を書き換えたのだ。
「あれ? まだ起きてたのか?」
「あ、雄太くん。どうしたの?」
リビングのドアが開き雄太が入ってきて、リビングテーブルの上に広げられた細々な物を手に取った。
「これ、悠助と俊洋の……だよな?」
「うん。今回は二人分だから、お義母さんにもいっぱい手伝ってもらっちゃった」
お裾分けをもって来た理保がダイニングテーブルの上に広げられた物を見て目を丸くしたのだ。
『春香さん。俊洋と美理愛の世話をやきながらじゃ大変でしょう?』
優しく微笑んだ理保は一緒に昼食を食べてから、名前の書き換えを手伝ってくれた上に、後日お道具箱の新しい袋と雑巾をたくさん作ってきてくれた。
「母さん、春香と孫達の世話するのが楽しいんだな」
「私、お義母さんがお隣にいてくださって本当に助かってるの。私や子供達が体調が悪い時も、雄太くんが海外遠征に行ってる時も寄り添ってくださってるから」
雄太が安心して海外遠征に行けるのも理保が春香と仲が良くしてくれているからだ。
一緒に家庭菜園をしたり、お互いにオカズをお裾分けしたり、春香がマッサージをしたりして良い関係を築けている。
「そうか。俺がもっと手伝ってやれれば良いけど……」
「雄太くんは凱央との番組の事で忙しいんだから」
「まぁ、それはそうだけど」
凱央が騎手になる夢を叶える為に頑張る姿を追う特番の話はしっかりと進んでいる。
「私、楽しみにしてるんだぁ〜。小さい頃の雄太くんが出ていた番組とかを見るような気持ちになれるって思って」
「正直、俺より凱央のほうがしっかりしてるし、乗馬を始めるのも凱央のほうが早いしな。凱央がデビューしたら負けないように、今よりずっと頑張らなきゃって思ってるんだからな?」
雄太が乗馬教室に通い始めたのは小学生になってからだ。
凱央や悠助のように幼稚園児の頃から乗っていた訳じゃない。
「ふふふ。私はもちろん雄太くんも応援するからね」
「ああ」
凱央がデビューする頃に雄太が現役でいるとも限らないが、それでもヤル気が湧き上がってくる雄太だった。




