1023話
3月21日(日曜日)
阪神競馬場 11R 第47回阪神大賞典 G2 15:40発走 芝3000m
昨日から振り続いている雨の所為で馬場状態はお世辞にも良いとは言えない。
「まだ雨に打たれても大丈夫って気温じゃないよなぁ〜」
「ですね。しっかり温まらないと風邪引きますよ」
「だなぁ〜。お前も風邪に気をつけろよぉ〜?」
二人は騎手控室の最前列で話しながら、パドックで雨に濡れながら歩いている騎乗馬を見た。
やむ気配を見せず振り続く雨に、渋い馬場を嫌う馬の鞍上の騎手は眉間に皺が寄っていた。
インポータントデイの最終オッズは単勝2.1倍の二番人気だ。
振りしきる雨が鬣から滴り落ちている。
「頑張ろうな、デイ」
インポータントデイはブルブルと首を振り鬣に溜まった雨を振り飛ばした。
ゲートに入ったインポータントデイはタイミング良くゲートを出た後、先行集団に位置取った。
「パパァ〜、デイ〜。がんばれぇ〜」
「パーパ、デイ。ガンバッテ〜」
「パッパ、デイ〜」
「パー、ジェイ〜」
子供達がフリフリするポンポンのシャカシャカという音がリビングに広がる。
春香は雨に煙る馬場をジッと見詰めていた。
(雄太くん、デイ。頑張ってね)
九頭の馬達は泥混じりの水飛沫を跳ね上げながら一周目のスタンド前を過ぎて行った。既に雄太もインポータントデイも泥だらけになっている。
(レース終わったらシャワー浴びたくなるぐらいの泥まみれだ……)
雄太の体も心配だが、インポータントデイの目や口に泥が入ってはいないかが心配だった。
一周目のゴール板を過ぎ1コーナーにかかったインポータントデイは少しずつ順位を上げていき、先頭を走っている馬の横につけた。
先頭を走る馬の横に並んだから泥をかぶる事はなくなったが、かぶってしまった泥は落ちる事はなく貼り付いている。
バシャバシャ
インポータントデイの後ろの馬達は泥水をかぶり続けていて、走る気持ちが萎えてしまったのか、少しずつ差がつき始めていた。
「がんばれ、がんばれパパ〜。がんばれ、がんばれデイ〜」
「パーパ、パーパ。デイ、デイ。ガンバレェ〜」
「パッパァ〜。デイィ〜」
「ジェイ〜、ジェイ〜」
画面の中、泥だらけのインポータントデイが4コーナーを周り直線コースに入った。
先頭を走っていた馬とインポータントデイがグングンと加速をして、二頭の競り合いが続く。
どちらもが抜かせまいと競り合っていて、観客席から大歓声が湧く。
「雄太くんっ! デイっ! 頑張ってっ!」
春香は両手をギュッと握り締めて、画面に向かって声援を送る。
グンッとインポータントデイが前に出た。
「デイっ! そのまま行ってっ!」
思わず声が出た春香の後に続くように子供達の声援が大きくなる。
「デイっ! がんばれっ!」
「デイィ〜っ!」
「ガンバレェ〜っ!」
「ジェイ〜、ジェイ〜」
泥だらけのインポータントデイが一歩また一歩と駆けると泥混じりの雨水が大きく跳ね上がる。
一騎打ちといった感じの競り合いを征したのはインポータントデイだった。
「うへぇ……。マジ泥だらけだ。デイ、お疲れ」
ポンポンと首筋を叩いてやると、ブルブルと首を振った。その瞬間に泥が跳ね飛んだ。
(ん? あ……)
雄太は自分の顔にも泥がつきまくっているのに気づき、雨で洗い流せはしないかと上を向いた。
そこに梅野が近づき、苦笑いを浮かべていた。
「雄太ぁ〜。泥まみれだなぁ〜」
「梅野さんも水も滴る良い男が泥まみれですよ」
「あぁ〜。途中でスタミナ切れて後退したからなぁ〜」
途中まで先頭を走っていた梅野の騎乗馬は渋い馬場の所為で力を使い果たしてしまっていた。
ゆっくりスタンドのほうに向けて走り出した梅野の騎乗馬は疲れ切っている。
「こいつなりに精一杯頑張ったからなぁ〜。体を洗ったら、目一杯褒めてやるさぁ〜」
「ですね」
雄太も三千メートルを走り切り、まだ荒い息をしているインポータントデイの首筋をもう一度ポンポンと叩いて労をねぎらった。




