1021話
3月15日(月曜日)
前日、G2報知杯で優勝し、誕生日だった雄太は春香の部屋で目を覚ました。
(よっしゃ! 今日は美理愛目覚ましはなかったぞ)
ここのところ春香の部屋で寝た時には、美理愛のキックや平手打ちで目を覚ます事が多かったのだが、今日は無事に朝まで眠れた。
(今日は久し振りに春香と二人きりでデートだ)
正月に理保から『もう美理愛も大きくなったんだし、たまには春香さんと二人っきりでデートしてきたら?』と言われ、良いホテルのランチコースを予約していたのだ。
純也達が見たらウンザリする程にニマニマとした顔をした雄太は、スキップするかのような軽やかな足取りで洗面所へと向かった。
「じゃあ、母さん。子供達を頼むな」
「お願いします、お義母さん」
「ええ。任せなさい」
紺色のスーツの雄太と、濃紺のワンピースの春香に着替えた二人は膝をついて俊洋と美理愛の頭を撫でる。
「良い子にしてるんだぞ?」
「お土産買って来るからね」
「パッパ、マッマ。イッテラッシャイ〜」
「パー、マー。イッチェラッシャイ」
俊洋と美理愛はピョンピョンと跳ねながら手を振っている。雄太と春香は軽く手を振り車に乗り込んだ。
京都にあるホテルで雄太が予約した豪華なランチコースに春香は目を輝かせた。
「うわぁ……。華やかだね」
春を意識した盛り付けに目から楽しめるようだ。
「美味しいぃ〜」
「うん。美味い」
幸せそうな笑顔を浮かべる春香を見ていて、雄太は幸せな気持ちになる。
(普段は子供の世話でゆっくり食べられないんだもんな。今日はゆっくり食べて欲しいんだよな)
たった一日で良いから、まだまだ慌ただしい日常を忘れて欲しいのだ。
「ん〜。美味しい。幸せ〜」
「満足してくれたか?」
「うん。美味しくてほっぺ落ちそうだし、雄太くんと二人でデートって幸せ過ぎ」
頬を薄っすらとピンクに染めて、ニッコリと笑う春香の笑顔が嬉しい。
(たまに曇らせる時もあるけど、俺は春香に笑ってて欲しい気持ちは変わってないんだよな。もう三十歳になったのにおかしいかな? けど、四十になっても五十になっても、ずっとずっと春香を笑顔にしてやりたいんだ……)
幸せにしてやりたいと思っていたが、なんだかんだと気苦労をかけてしまっている。
盗聴器事件や香水女や調教師との諍い。騎乗の降着や予後不良など、どれだけ心労をかけてきたのかと思ってしまう。
(それでも、春香は前を向いて笑ってくれてる。本当、ありがたいよな)
雄太はポケットから小箱を取り出してテーブルの上に置いた。それに気づいた春香が雄太と小箱を交互に見る。
「春香。これからも俺と一緒に夢を追いかけてくれよな」
そう言って雄太は小箱の蓋を開けた。そこにあったのはダイヤモンドが十粒並んでいる指輪だ。
「え? え?」
「毎年、一粒ずつ買ってたんだ。十年目の結婚記念日に渡そうと思ってさ。けど、ゲイルの事があってそれどころじゃなかったろ?」
雄太は春香の手を取り、指輪を取り出して人差し指にはめた。
「これから先も苦労かけたりすると思うけど、ずっと一緒にいてくれよな」
「ありがとう……、雄太くん……」
雄太が毎年ダイヤモンドを買っているなど夢にも思っていなかった春香は、自分の左の人差し指でキラキラと輝いている指輪を見詰めた。
「ねぇ、雄太くん。この真ん中の重なってる所の石、ピンクとブルーじゃない?」
「ああ。春香は指が細いから十個のダイヤを一列にすると全部が並ばないから真ん中を重ねるデザインにしてもらったんだよ。で、上のブルーダイヤの石言葉は『絆』。で、ピンクダイヤは『永遠の愛』なんだ」
雄太の言葉に春香の目がウルウルと潤む。
「ガキだった俺の事を信じて、支えてくれてくれて、一緒に歩いてくれたお礼と、これからも一緒にいて欲しいっていう俺の気持ちだよ」
「うん、ありがとう……。凄く嬉しいよ。私もずっといるって思ってるからね」
雄太は春香の手をギュッと握った。
小さくて華奢な手に助けられ、癒やされてきた事を感謝する雄太だった。




