1018話
全てのレースを終えた雄太は京都競馬場から出て自宅へと向かっていた。
純也と健人と梅野が揃って東京で騎乗があり、鈴掛が中京といつものメンバーが京都におらず、雄太は一人で京都にいたのだ。
(ソルも健人も居ないと、調整ルームの中って……って言うか、俺の部屋静かなんだよな)
最近は純也も後輩からの相談にのるとか言って、雄太の部屋で寝る事も減った。
純也が居ると、健人も『先輩と一緒だから』という言い訳が出来るという事を覚えて入り浸る事も多くなったのだが、純也が居ない時は雄太の部屋には一人で来る事はない。
(東京でソルの部屋に行ってたのか、他の後輩達とつるんでたのかは分からないけど、静かだったのは嬉しかったぞ)
皆とワイワイするのも好きだが、一人で考え事をしたい時もある。たがらといって、今回のように一人っきりになると少し淋しい気持ちにもなるから人間というのは勝手なものだなと雄太は思う。
(ま、良いっか。家に帰って春香のチョコをもらうぞぉ〜)
鼻歌混じりに運転をしながら雄太はウキウキと自宅へと向かった。
「パパ。おかえりなさ〜い」
「パーパ、オカエリ〜」
「パッパァ〜、パッパァ〜」
「パー、オタエリ〜。ダッコォ〜」
騎乗した競馬場が京都や阪神や中京だった場合、子供達が起きている時間に帰って来られるのが雄太には嬉しい事だった。
「おぉ〜。ただいま。良い子にしてたか?」
雄太が膝をついて満面の笑みで順番に子供達の頭を撫でると、子供達全員でギュッと抱きついてくれる。
小学生の凱央からまだ幼児の美理愛までに抱きつかれ雄太の顔もデレデレで、春香も嬉しくなった。
ニコニコと笑っている春香を見上げて雄太も嬉しくなった。
「おぉ〜。これ凱央と悠助がもらったチョコ?」
「うん。さすが雄太くんの子供だね。モテモテだよね」
「正直、俺のガキの頃よりモテモテだよな」
「そうなの?」
春香がキョトンとした顔で雄太を見詰めると、年齢より可愛く見えてなぜかニマニマと笑ってしまった。
「え? 何で笑うの?」
「春香が可愛いなって思ってさ」
「意味分かんない。凱央が雄太くんよりモテるって話で、何で私が可愛いって話になるの?」
拗ねたような顔をすると更に可愛くなる春香を抱き締めて耳元に口を寄せた。
「春香はいくつになっても可愛いんだよ」
「んもぉ〜」
出会った頃よりお互い歳を重ねた顔を見合わせてキスをした。
「キスで誤魔化そうとしてる?」
「誤魔化されてくれる?」
「仕方ないなぁ〜」
春香は笑って雄太の胸に頭をコツンと当てた。
「あ、そうだ。小野寺先生から電話あったの。凱央の密着特番の撮影OKですって」
「そっか。父さんも嬉しそうだったしな」
騎手を目指す特番を凱央が了承し、撮影スケジュールを組む為に乗馬教室の交渉もされていたのだ。
「乗馬教室の撮影が出たし、後はどこだろ?」
「ん〜。トレセンは?」
「今回はトレセンの撮影ってあるのかな? ほら、アルがいたらトレセンでの撮影はあっただろうけどさ」
「うん。騎手になりたいって思ったのがアルの子供に乗りたいっていうのだったらトレセンでの撮影は必須だよね」
凱央が幼い頃から大好きなゾルテアレックスは今は種牡馬として北海道で暮らしている。
番組としたら凱央とゾルテアレックスを会わせたいのかも知れないが、春は種付けシーズンであり、種牡馬としての役目があるので無理だ。
「アルに会わせてあげたいけど、さすがに春はな。夏ぐらいまで待たないと」
「夏休みに北海道行けたら会えるかな?」
「春香はカームにも会いたいんだろ?」
「えへへ」
カームマリンもゾルテアレックスも種牡馬になり、気性が変わるのではと思っていた雄太だが、相変わらず春香にはデレデレと甘えるのだから、馬の性格はそれぞれなのだと思う。
雄太は春香の手作りチョコが入っている可愛い小箱を手に取った。
「まぁ、カームとアルがどれだけ春香に懐いていようが、春香からのバレンタインチョコは俺だけだしな」
「ふふふ」
馬にまでヤキモチを焼かなくても良いのにと思いながらも、春香は雄太の愛情を嬉しく思いスリスリと雄太の胸に甘えていた。




