1017話
2月14日(日曜日)
朝から凱央は大忙しだ。たびたび鳴るインターホンに出ては門扉の所に行っては女の子達とのやり取りをして家に戻るという事を繰り返し疲れたのだろう。
ダイニングテーブルにプレゼントを置いて、椅子に崩れるように座り込み大きな溜め息を吐いていた。
「ぼく……疲れた……」
「うん。お疲れ様、凱央」
春香は凱央の背中をそっと撫でた。
少し不機嫌そうにムスッとしていた凱央は、春香の優しい手の温もりにホッと息を吐いた。
そして、春香を見上げた。
「ありがとう、ママ」
「ん? これぐらい何て事ないわよ」
「うん。でも、ママになでてもらうと気持ちが落ち着くって言うか、ホッとするんだ」
「そう?」
春香はニッコリと笑って凱央の背中を何度も撫でてやっていた。
凱央はチラリとダイニングテーブルの上に山積みになっている可愛い紙袋や華やかなラッピングがされた小箱を見た。
「ママ。もらったチョコって、クッキーにしたりとか、チョコケーキにしたり出来ない?」
「出来るけど……。凱央食べないの?」
「ほら、去年もチョコクッキーとかガトーショコラとかあったし、今年のもあると思うんだ。それは食べるよ。けど、こんなにあってもいつ食べ終わるか分からないしさ」
凱央は女の子からの心がこもったプレゼントを無下に扱う事はしたくないのだろう。
そもそも食べ物を粗末にしてはいけないと雄太も春香も教えているし、慎一郎達も直樹達も教えている。
「ガトーショコラにするとかチョコクッキーにして、純也兄ちゃんにも食べてもらうほうが良いかな」
「分かったわ。凱央が良いならそうするね。作れたら塩崎さんに来てもらおうね」
「うん。おねがい」
凱央はそう言ってから、リビングに行って俊洋達と遊んでいる。
(それにしてもたくさんだなぁ……)
凱央だけでなく悠助にもチョコのプレゼントもあり、俊洋と美理愛は興味津々で眺めていたが、送り主の名前をチェックしていないからと言われて、少し残念そうな顔をしていた。
そこに悠助がドアを開けて入ってきた。
悠助は凱央が外にいる時に悠助にとチョコを持ってきた女の子に呼ばれて外に出ていたのだ。
「マーマ。コレモラッタ」
「はいはい。じゃあ、悠助の分って印をつけておくね」
春香はピンクのリボンがついた小箱の隅に『悠助』とボールペンで書いた。
「マーマ。トシヒロニモワケテアゲルカラネ」
「そうね。悠助も凱央に似て優しいね」
悠助は大好きなお兄ちゃんに似てると言ってもらえて満面の笑みを浮かべた。そして、凱央達が遊んでいるリビングに走って行った。
昼食を終えてからも、時折インターホンが鳴っていて春香は応対をしていたが、凱央と悠助は競馬中継が始まる頃になるとソワソワしていた。
雄太の応援がしたい時に女の子の対応をするのが億劫なのだろう。
もうあまりチョコを持ってくる子も少ないだろうと予想した春香は、凱央と悠助の手を握った。
「パパの応援してて良いからね? インターホンが鳴ったらママが行くから」
「良いの? ママもパパのおうえんしたいでしょ?」
「大丈夫。もしパパがレースに出ている時だったとしても、ママは心の中で応援してるから」
凱央と悠助はホッとした顔をして、ポンポンをしまってある引き出しからそれぞれのポンポンを取り出した。
「パー。バンバエシュルノ〜」
「ソウダヨ。イッショニガンバレスルンダヨ」
美理愛が大好きなトマトレッドのポンポンを手にテレビの前に陣取ると、凱央が美理愛を抱っこしてテレビから離す。
「みりあ。あんまり前に行っちゃダメだよ。目が悪くなるからね」
「アイ。ニィニ」
凱央は素直に言う事をきいた美理愛の頭を撫でてやり、隣に座ってやっていた。
悠助は俊洋と並んで座り、なにやら話していた。
(多分、もらったチョコとか分けてあげるって言ってるんだろうな)
悠助自身も凱央のもらったバレンタインチョコを分けてもらったりしていた事もあったからだ。
(形は変わっちゃうけど、ありがたくいただくからね)
送り主の女の子に心から感謝をする春香だった。




