1016話
鮎川との通話が終わってから、雄太は振り返り庭で遊んでいる春香と子供達を見詰めた。
(凱央をテレビに出す……。ん〜。まぁ、俺もテレビには出た事あったしなぁ〜)
慎一郎が有名だったからというのもあり、何度かテレビを出演をした。
(まぁ良いか。春香と凱央に訊いて、二人がOKなら父さんにも訊いてみるか)
雄太は凱央が帰って来るのを待って訪ねてみようと思った。
凱央が学校から帰ってきて、ダイニングにオヤツを食べに来た時に雄太は凱央の斜向かいに座って撮影の話を切り出した。
「え? テレビ? ぼくが? パパじゃなくて?」
「ああ。鮎川のおじさんが凱央が騎手になりたいって話の番組を撮影したいんだって」
「ぼくだけ?」
「いや、パパも出るよ。凱央が出るならお祖父ちゃんにも話さないと駄目なんだけどな」
凱央はオヤツの春香の手作りドーナツをジッと見詰めていた。
「凱央が嫌なら断っても良いんだぞ? 凱央はまだ小学生だしな。撮影で友達と遊ぶ時間が減ったりしたら嫌とかあるだろ?」
「撮影って、そんなに長くするの?」
小学生の凱央にとって友達と遊んだりする時間も大切だろう。
「まだ、はっきりと期間が決まってはいないんだ。凱央は学校もあるしな」
「乗馬教室に行く時間もへっちゃう?」
友達と遊ぶ時間も乗馬教室に行く時間も大切なのだなと雄太は思った。
「大丈夫だ。凱央が乗馬教室に通ったりポニーに乗ってるシーンも撮りたいらしいから乗馬教室には影響はないはずだ。ただ、カメラがあったりして気が散るとかはあるかも知れないけどな」
「カメラかぁ〜。気にならなかったけど」
凱央はポスター撮影の時の事を言っているのだろう。
「そうか。まぁ、直ぐって事じゃないし、少し考えてから決めたら良いぞ?」
「うん。いつまでに返事すれば良い?」
「一週間ぐらいかな」
「分かった。ちゃんと考えてみるね」
そう言った後、凱央はドーナツを美味しそうに食べた。春香の手作りドーナツは油で揚げたものではなくオーブンで焼いたものだ。
雄太が食べても体重に影響がないようにという事だ。
(春香はこういうのを考えたり、レシピを探したりするのも楽しそうなんだよな。俺、やっぱり春香には頭が上がらないな)
そして、ダイニングテーブルで宿題を始めた凱央の真剣な顔を見ていると、真面目に勉強をするところは春香に似たんだなと思う。
(俺、勉強が嫌いだった訳じゃないけどさ。……ん? さっき凱央はカメラが気にならなかったって言ってたよな?)
サラッと口にしていたが、凱央の年齢でカメラでの撮影が気にならないとかあるだろうかと思った。
(んん〜。そこは俺に似たのかな?)
雄太と春香、両方の良いところを受け継いでくれているのなら、それは良い事だと思う。
「パパ」
「ん?」
「この計算出来る?」
「お……おまっ! パパが小学生の算数が出来ないと思ってんのかぁ〜っ⁉」
「えへへへ」
いたずらっ子のような表情は春香にそっくりだ。普段『雄太似』だと言われているのにだ。
「しゅくだい終わり。じゃあ、着替えて来るね」
「ああ。悠助にも声をかけてくれ」
「うん」
凱央はノートなどを手にして二階へと向かった。
「凱央のか?」
「そう。今から俺の息子として注目されるのは凱央のプレッシャーになったりしたりしないかって、俺も春香も思うんだけど、凱央がやっても良いって言うならって考えてる」
乗馬教室へ向かう道すがら雄太は慎一郎に凱央の特番の話をした。
凱央は悠助と話をしながら数十メートル先を歩いている。
「もし凱央が騎手にならなかったら、『昔、テレビで言ってたクセに』って言われやしないだろうか?」
「言う奴等は言うだろうな。けど、俺の目から見て凱央は騎手になるんだって本気で考えてると思うんだ」
雄太はそう言って凱央の背中を見詰める。
「やるかやらないかは凱央が決める事だしな。俺はもしやるとなった時に父さんが凱央とテレビに出る気があるか確認したかっただけだよ」
「そうか」
慎一郎も前を歩く凱央の背中を真剣な顔で見詰めていた。




