1015話
1月18日(月曜日)
前日のG3シンザン記念を勝った雄太は春香の部屋で目を覚ました。
「ん……? ん?」
顔に軽い衝撃があり目を開けると顔面にあったのは美理愛の小さな掌だった。
またもや美理愛は雄太と俊洋の寝ていたベッドに移ってきていたのだ。
(美理愛……。パパの顎に蹴りを喰らわせた次は顔面に平手打ちか?)
苦笑いを浮かべながら雄太は起き上がり、自分の寝ていた場所に美理愛を寝かせた。
「ン……。ンン……」
俊洋がコロンと寝返りをうち、美理愛と寄り添うように眠っている姿は愛らしい。
ふと春香のベッドを見ると、昨夜帰ってきてから美理愛に手渡したトマトの髪飾りがあった。
(余程嬉しかったんだろうな)
手渡した時からギュッと握り締めていて、パジャマに着替えてからも手放さずにベッドに持ち込んでいたのだ。
(梅野さんが聞いたら喜ぶだろうな。今度会ったら教えてあげなきゃな)
雄太は温かい気持ちで廊下側のドアを開けて洗面所へと向かった。
珍しく何の予定も入っておらず、雄太は悠助を幼稚園に送って行き、昼食を食べてから俊洋と美理愛とウッドデッキに置いてあるブランコで遊んでいた時だ。
ドアを開けて春香が声をかけてきた。
「雄太くん。鮎川さんからお電話だよ」
「え? 分かった」
雄太はブランコをゆっくりと止めてから家に入った。春香はブランコに乗り、雄太の代わりにユラユラと揺らした。
「もしもし、鮎川さん。お待たせしました」
『いやいや。せっかくの休みにすまんな』
「いえ。もしかして……去年の撮影がなくなった事ですか?」
『あ……うん。それ絡みの……な』
昨年、メイゲイルをメインとした特番の話があったのだ。
メイゲイルならジャパンカップや有馬記念も勝てると見込んでの話で、メイゲイルの天皇賞秋も撮影許可を得ていた。
だが、メイゲイルの予後不良で企画は流れた。
『そのままお流れって事だったんだが、局側がちょいとばかり趣旨を変えて特番をって事なんだよ』
つまりは視聴率を取れる『騎手鷹羽雄太』を使いたいと言う事なのだと鮎川は隠しもしないで口にした。
「ははは……。喜んで良いのか困りますが……」
『騎手が数字を取れると言われても気持ちとしちゃ微妙だよな』
雄太は芸能人ではない。だが、競馬というスポーツを広く認知されたいという気持ちがある。
だから苦手なテレビの仕事も受けているのだ。
「まぁ……。で、どんな番組にって事なんですか?」
『ほら、凱央くんが騎手になるって宣言したろ? だから、鷹羽雄太二世の姿とそれに向き合う鷹羽くんって感じの番組にしたいらしい』
「凱央を……ですか?」
雄太は悩んでしまった。凱央は口取り写真をしたり、乗馬教室のポスターに起用されたりとして来たのは事実だが、テレビとなるとどうなのだろうと思ったのだ。
「とりあえず本人の意思を確認してからでも良いですか?」
『もちろんだ。後、嬢ちゃんと鷹羽くんのお父上にも』
「父さん……ですか?」
『凱央くんの乗馬は鷹羽くんのお父上が面倒を見てると聞いたんだが。違ったか?』
どこからともなく慎一郎が凱央の乗馬に心血を注いでいると聞いたのだろう。
「分かりました。とりあえず春香と父さんに話してみます」
母親である春香が凱央のテレビ出演をどう思うのかも、祖父である慎一郎がどう思うのかは分からない。
『誰か一人でも嫌なら断ってくれて良いからな?』
「まぁ、そうなんですけど。鮎川さんが何で番組の出演交渉してるんですか? 今更ですけど」
『俺が窓口になれば何とかなるって思ってるみたいだぞ?』
鮎川はゲラゲラと笑うが、前に雄太が女性タレントに共演NGを出した事から、ご機嫌取りに鮎川が使われているのだと想像は出来る。
「出演交渉のギャラをもらってくださいね」
『お? それ良いな。今度、局に請求してみるかな』
なんだかんだと付き合いが続いている鮎川と笑い合う。
(鮎川さんってかなり年上なんだけど、裏表がないし付き合いやすいんだよな)
それと凱央のテレビ出演は別だなと思いながら雄太は電話を切った。




