1012話
慎一郎と雄太は、来客が退席した後ソファーに沈み込んでいた。
「ゆ……ゆ……雄太……。美理愛が来るとか……」
「お……俺も知らなかった……。凱央達が三人いるから、まさか美理愛が来るとは思ってなかったんだよぉ……」
軽いノックの音がして、春香が茶器などを下げに応接間に入ってきた。
「お湯飲み下げますね」
春香はテーブルの上の湯飲みを盆に乗せていく。体を起こした雄太は春香に訊ねた。
「春香。何で美理愛が……」
「お兄ちゃん達の真似がしたかったみたいよ。それで、お義母さんがお茶は無理って言ってくれたの。で、お菓子なら良いかなって」
何て事はないと話す春香に雄太は苦笑いを浮かべ、慎一郎はハァと大きく息を吐いた。
「春香さん。美理愛はまた手伝いするようかね?」
「どうでしょうか。今は俊洋と遊んでいますが」
「ん〜。孫が手伝い出来る良い子なのは嬉しいが、毎年ドキドキするんだが……」
慎一郎は騎手をしていたし、今は凱央と悠助の乗馬の指導をしているのに、お茶運びをしたりする孫達の心配は想像以上だ。
「美理愛ぐらいの歳の子は気紛れなので、遊びたいと思ったら来ないかも知れないですね」
「出来れば、そうして欲しいが……」
心底疲れた顔をした慎一郎に春香が笑ってしまいそうになった時、インターホンが鳴り春香は足早に応接間を出た。
(凱央達なら良いが、もう美理愛は……)
慎一郎の願いも虚しく、ノックの後ドアを開いた凱央の後に続いて入って来たのは、またまた真剣な顔をした美理愛だった。
「おやおや。鷹羽家のお姫様もお手伝いが出来る歳になったんですな」
「は……ははは。子供の成長は早いもんですな」
必死で引きつっているのを誤魔化そうとしている慎一郎の視線は美理愛に釘付けだ。
「ドード」
「ありがとう、美理愛ちゃん」
テーブルに菓子器を置いた美理愛は頭を撫でてもらいパヤッと笑っている。
凱央は美理愛がちゃんと菓子器を置けたのを確認していた。
(凱央、本当に成長したなぁ〜)
雄太は美理愛を見守る凱央の姿に感動をしていた。
(俺が小学生の頃って、もっとガキだったよな。いや、俺の傍にいたのがソルだったから悪いんだ。うん)
純也が聞いたら『お互い様だぁ〜っ!』と言いそうな事を考えていた。
お昼を少し過ぎて、雄太と慎一郎はお昼を食べようと和室に行った。子供達はテーブルに座り、雄太達を待っていた。
襖を開けた雄太達を見て美理愛は両手を挙げた。
「ジィー」
結局、何度もお手伝いをしていた美理愛に可愛い笑顔を向けられ慎一郎の目尻は下がりまくっている。
慎一郎が座ると美理愛は立ち上がり慎一郎のほうへ近づいた。
「ジィー。シュワル」
「ん? おお、そうか」
美理愛は慎一郎の胡座の足の間に座り、ニコニコと笑っていた。
「あらあら。美理愛はおじいちゃんが大好きなのね」
「ン」
理保と春香は料理を運び込み、昼食にした。
「美理愛。ご飯を食べ終わったら、お兄ちゃん達と遊んでて良いんだからな?」
「ウ?」
美理愛は釜揚げしらすの混ぜご飯を食べながら、美理愛は慎一郎を見上げた。
「あなた。もう四人目なんですから慣れてくださいな」
「うう……」
孫の事となったら雄太の子育てをしている頃とは全く違って、あれこれと心配をしている慎一郎に苦笑いを浮かべている。
雄太も何か言いたげだったが、春香の視線に気がついて右手でポリポリと頬を掻いた。
「ふふふ」
「はぁ〜るぅ〜かぁ〜」
「ふふ。ごめんなさい。でも、私は何も言ってないけど?」
「全く……」
雄太は小さく笑うと理保の作った煮しめを口にして満足気に頷きながら食べていた。
「ママ。バァバのおりょうりおいしいね」
「ボクモ、バァバノゴハンスキダヨ〜」
「ボクモ」
「そうね。バァバのお料理はママも大好きよ」
孫達に料理を好きだと言ってもらって理保はニコニコと笑い、慎一郎は美理愛に甘えられてデレデレしていた。
雄太は幸せだなと思いながら、テーブルの下で春香の手を握り締めていた。




