1007話
12月25日(金曜日)
「サンタサン、キテクレタァ〜」
「サンタサン、サンタサン〜」
「タンタタン、キチャ〜」
25日の朝、雄太宅のリビングは子供達の声で大賑わいだ。
美理愛には大きなトマト型のビーズクッションだ。
「トマチョっ!」
ボフッと音を立てて美理愛はクッションにダイブをした。
「クレヨン、イッパイ〜」
俊洋はカラフルなクレヨンの箱の蓋を開けて、目を輝かせている。持ちきれない程の量の画用紙をスリスリと撫でている。
「コレ、ゲイルダァ〜」
悠助が両手で掲げている額の中にあるのはメイゲイルのメンコだ。そして、メイゲイルの馬房や牧場で寛いでいる姿やレース映像を収めたDVDも入っていた。
雄太は調整ルームに行く前に子供達が喜ぶ姿を見せられホッとしていた。
リビングテーブルに置いてあるコーヒーを飲み干してソファーを立とうとした時、凱央がプレゼントの袋を抱えて雄太の隣に座った。
「どうした? 凱央」
凱央は雄太の耳元に口を寄せた。
「パパ。もうぼくにはサンタさんしなくて良いよ。たんじょう日だけでうれしいから」
「凱央……」
少し大人っぽくなった凱央はニッコリと笑った。
「ゆうすけ達は、まだサンタさん信じてるからおくってあげてね」
「分かった」
「うん。ジョッキーブーツありがとう、パパ」
凱央は真新しい乗馬用のブーツを抱えてて嬉しそうに笑う。
凱央の誕生日は23日だから、クリスマスプレゼントとは別でプレゼントを渡していた。
(凱央もサンタさんが誰なのか分かる歳になったんだなぁ……)
雄太は凱央の成長が嬉しくもあり、ほんの少し淋しい気がしてしまった。
「じゃあ、いってくるな」
「パパ。いってらっしゃい」
「パーパ、ガンバッテネ」
「パッパ、ガンバレェ〜」
「パー。イッタラッタイ」
子供達は調整ルームに行く雄太を元気いっぱいで見送っている。
「いってらっしゃい、雄太くん」
「ああ。頑張ってくるよ」
「うん」
雄太は春香をギュッと抱き締めた。春香も雄太の背に腕を回して無事を祈った。
「マーマ。ゲイルノミタイ」
雄太が阪神競馬場へと向かってしばらくすると、悠助がDVDを持って洗い物をしていた春香の元へやってきた。
「せっかくサンタさんが持ってきてくれたんだもんね」
「ウンっ!」
春香はタオルで手を拭き、リビングへ向かった。
DVDの準備をしていると悠助はポンポンをしまってある引き出しを開けて自分のポンポンを取り出した。
(悠助……)
春香が再生ボタンを押すと広い放牧地でゆっくりと草を食んでいるメイゲイルの姿が映った。
(雄太くん、牧場の人やテレビ局の人達にお願いしたんだって言ってたもんな)
圧倒的な速さを誇るメイゲイルの特集や牧場長達にお願いして映像データをもらい、プロに編集をお願いしたDVDは世界で一つの物だ。
穏やかなオルゴール音楽が流れる中、優しい顔をしたメイゲイルの姿に春香の胸も熱くなる。
そして、レース映像が流れ出すと、悠助はポンポンを振っていた。
「ゲイル〜。ゲイル〜、ガンバレェ〜」
気がつけば凱央達もテレビの前に集まり、在りし日のメイゲイルを見ていた。
「ア、パッパダァ〜」
「パー」
パドックでのメイゲイル。レースで悠々と先頭を駆けるメイゲイル。
春香は悠助の顔をチラリと見た。
そこには悲しそうでも淋しそうでもなく、元気に画面の中のメイゲイルを応援している悠助がいた。
(夢でゲイルと会って背中に乗せてもらったって言ってたよね……。それでゲイルと会えないって悲しみから解放されたのかな……? てか、凱央も小さい頃にアルに乗ったって言ってたし……)
悠助も凱央達も一番でゴールしたメイゲイルに拍手をしている。
春香はどういう理由があったにしろ、悠助が本当に元気にメイゲイルの姿を見られるようになったんだと安心した。
「じゃあ、ママはお昼ご飯の準備するから、後は凱央お願いね」
「うん」
DVDの操作は凱央が出来るから任せる事が出来る。
子供達が楽しそうにしていて春香も嬉しくなったのだった。




