1006話
12月24日(木曜日)
『ゆうすけ……』
悠助が自室で寝ていると誰かが呼んでいる声が微かに聞こえた。
「ンン……。ダレ……? パーパ……?」
悠助は眠い目を擦りながら起き上がり、部屋の中を見回した。部屋のドアもカーテンも閉まっている。
「ン……? ユメ……?」
『ゆうすけ、そとだよ』
「ソト……?」
悠助はベッドから下りて窓に近寄りカーテンを開け、キョロキョロと見回し、庭に視線を向けた。
少ない街灯の薄明かりで悠助の目に映ったのは庭にいる一頭の栗毛の馬だった。
悠助は窓を開けて身を乗り出した。
「ゲイルっ⁉」
『ゆうすけ』
栗毛の馬体のメイゲイルが悠然と尻尾を振って、二階の窓を見上げていた。
「ゲイルっ! ゲイルっ! マッテテ。イマ、イクカラっ!」
悠助は大急ぎで部屋を出て、階段を駆け下りウッドデッキに出た。
メイゲイルはゆっくりとウッドデッキに近づいてきて、悠助の手が届くところで止まった。
「ゲイル、ボクニアイニキテクレタンダネ」
『そうだよ。ゆうすけ、きゅうにいなくなってごめんよ』
「ウン。ゲイル、モウアシハイタクナイ? ダイジョーブ?」
悠助はメイゲイルの後ろ足に視線を移した。
『だいじょうぶだよ。ほら』
メイゲイルは骨折をしたはずの後ろ足をカツカツと庭に打ち付けた。
「ホントダ。ゲイル、モウハシリマワレルンダヨネ? パーパガ、テンゴクデハシリマワッテルッテイッテタ」
『そうだよ。もう足もいたくないし』
悠助はメイゲイルに腕を伸ばして、首筋に抱きついた。
「ゲイル。アイニキテクレテアリガトウ」
『ゆうすけにあいたいって思ったからきたんだ』
「ウン」
メイゲイルは悠助の小さな手の温もりを感じて鼻を鳴らした。
『ゆうすけ。せなかに乗る?』
「イイノ?」
『ゆうすけは、ポニーに乗ってるんだろ? なら乗れるさ』
「ウンっ!」
悠助はウッドデッキの高さを利用して、メイゲイルの背中に跨った。
鞍も鐙も手綱もないメイゲイルの背中に跨った悠助は、ポニーよりもうんと高い背中から見る景色に目を輝かせた。
『良いかい? 行くよ』
メイゲイルは悠助を乗せたまま駆け出した。
「ウワァ〜。ゲイル、ハヤイハヤイ〜」
いつの間にかメイゲイルの顔には黄緑色のメンコがあり、鬣には勝負服とお揃いの色のボンボンが揺れている。
速度を上げたメイゲイルはグングンと空へ駆け上がった。
「スゴイ、スゴイ。オウチモ、トレセンモチイサクナッタァ〜」
悠助とメイゲイルは空の散歩を存分に楽しんだ。
「ゲイル……。ダイスキダヨ……」
目を覚ました悠助は起き上がり自分が部屋にいる事に目を丸くした。
(アレ? ゲイル……?)
何度見回しても見慣れた自室である事に、悠助は夢だったのかと思って起き上がった。
ポソッ
小さな音がして床を見るとメイゲイルのボンボンが落ちていた。
「コレ……ゲイルノ……?」
悠助はパァーっと顔を輝かせて階段を駆け下りてリビングに向かった。
「マーマ。コレ、ミテっ!」
「なぁに?」
春香はタオルで手を拭きながら悠助に近づいた。そして、悠助が手にしているボンボンを見て目を丸くした。
「え……? これって……ゲイルの……」
「ウンっ! キノウノヨル、ゲイルガキテクレタンダヨ。ソレデネ、ゲイルニノッタンダヨ」
「昨日の夜……? ゲイルに乗った……?」
凱央も幼い頃、ゾルテアレックスに乗ったと言ってはいたが、今回はメイゲイルのボンボンが目の前にある。
(そんな事が……? でも……)
凱央と悠助が二人揃ってゾルテアレックスの夢を見た事は偶然だった可能性はあるが、目の前のボンボンは説明がつかないと思った。
「マーマ。ゲイル、ゲンキニハシッテタヨ。モウイタクナイッテ」
「そう。良かったね、悠助」
「ウンっ! マタアエルカナァ〜」
悠助は大切そうにボンボンを見詰めていた。
(マタアオウネ、ゲイル。ダイスキダヨ)
メイゲイルとの思い出と共に悠助は心が一つ大きく成長した。




