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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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999話


 いつの間にか競馬中継が終わっていた事に気づいた春香はリモコンを手に取りテレビを消した。


 春香も子供達も初めて雄太が乗った馬が競走中止をするのを見た事がなかったのだ。


 まだドキドキが治まらない春香だったが、子供達の不安気な顔を少しでも早く解消してあげたいと思った。


「今日の晩御飯は何が良いかな?」


 明るく訊ねた春香の笑顔に、子供達は一瞬固まったようだったが、晩御飯のオカズをあれこれ考え始めた。


「えっとね、ハンバーグかなぁ〜」

「ボクハ、オムレツ〜」

「オムエツ、アンバーウ。トマチョテチャップ」


 春香は冷蔵庫の中身を思い出し、足りない食材はないなと思って頷いた。


「うん。ハンバーグとオムレツね。ママ、頑張って作るからね」


 凱央と俊洋と美理愛は嬉しそうな顔をしたが、まだ悠助は浮かない顔をしていた。


 まだメイゲイルの事が心配なのだろう。


 春香は悠助の前に膝をついた。


「悠助」

「エ……?」

「晩御飯、何が食べたい?」


 泣きそうな顔をした悠助は、前にしゃがんだ春香にギュッと抱きついた。


「マーマ……。ゲイル……ダイジョーブダヨネ……?」


 春香は大丈夫だと言ってあげたくても、まだ何も分かっていないから、軽々に『大丈夫』とは言えなかった。


「とりあえず、悠助。ちゃんとご飯食べようね。パパが帰ってきたら、ちゃんと教えてもらおう。ね?」


 そう言って春香は悠助をそっと抱き締めた。悠助は春香の背中に腕を回して小さく頷いた。


 小さな体が小さく震えている。


 春香は胸が痛くなったが、子供達を不安にさせてはならないと思って、懸命に明るい笑顔でキッチンへと向かった。




「いただきま〜す」

「イタダキマス」

「タタキマチュ」


 春香は夕飯を凱央達のリクエストに応えてハンバーグとオムレツにした。


 少しでも気分が上がるようにと、ハンバーグをクマにして、オムレツはチーズ入りだ。


 悠助は蚊の鳴くような小さな声で『イタダキマス』と言って、ゆっくりと食べはじめた。


(悠助……。不安なんだよね……。私だってゲイルがどうなったのか気になるよ……。どうしたら良いんだろう……)


 いつもよりチビチビと食べている悠助は本当に辛そうで、春香の胸は痛んだ。


 風呂に入る時間になっても、悠助はまだションボリとしていた。




「ゆうすけ。今日はいっしょにねような」

「トキオニイチャン……」


 寝る為に二階に行った凱央は悠助に声をかけたのだ。


「ほら。へやからマクラ持っておいで」

「ウン」


 悠助は自室に入り、ベッドから枕を手にして凱央の部屋に向かった。


 夕飯の時も風呂でも元気がなかった悠助を凱央は一人に出来ないと思ったのだろう。


「ゆうすけ。マクラ、ここに置いて」

「ウン」


 凱央は自分の枕を少しズラした。悠助は自分の枕を置いて、ベッドに入った。


「トキオニイチャン……」

「ん?」

「ゲイル……、ドウシテルノカナ……」

「ん〜。ぼくにも分からないよ。ママもまだ分かってないし。パパが帰ってくるまでガマンしようね」

「ウン……」


 凱央は照明を常夜灯にして、悠助の隣に体を滑り込ませた。


 凱央は悠助にしっかりと布団を掛けてやった。


「ゆうすけ。馬は……サラブレッドはあの細い足であの大きな体をささえながら、もうスピードで走るんだよ。だから、足のケガをする事もあるんだ」

「ウン……」

「ゆうすけの気持ちも分かるけど、これからも馬となかよくしていくなら、こういう事はあるって思ってなきゃダメだよ?」


 悠助はジッと凱央を見詰めている。言われている事を完璧に理解は出来ないかも知れない。


 それは凱央も分かっていたが、なるべく優しい言葉を選んで話した。


 こういうところは雄太や春香に似ている上に、雄太達が悠助達を叱っているところを見ていて、小さな子供に言って聞かせるにはこうするんだと凱央は覚えたのだ。


「自分の中で色々と考えてきめちゃダメだよ? ちゃんと見る事をおぼえなきゃ馬には乗れないからね?」

「ウン」


 分かったか分からなかったかは凱央には判断出来なかったが、目を閉じた悠助の顔を見てから自分も目を閉じた。






 

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