997話
10月26日(月曜日)
乗馬教室に行く前に、雄太はメイゲイルの激励をしたいと言う春香と子供達を連れてトレセンの江川厩舎を訪れていた。
「ゲイル〜。ゲイル、ボクキタヨ〜」
悠助はタッタッタと馬房前に行き、メイゲイルに声をかけた。
メイゲイルは悠助のほうに首を伸ばして、耳をピコピコさせている。
「うわぁ……。ゲイル、馬房の中でも艶々でピカピカしてるのが分かるね」
「だろ?」
雄太と春香が並んで歩いているほうに向かって悠助は声をかける。
「パーパ。ハヤクハヤク〜。ハヤクゲイルヲナデサセテ〜」
「ははは。分かった、分かった」
雄太が早足で馬房に向かうのを俊洋と手を繋いでいた美理愛が追おうとする。
「ミリア。パッパカマッマガイイッテイウマデ、オウマサンノオウチニハイッチャダメダヨ」
「ン。ニーニ。マチュ」
「良い子だね、みりあ」
駆け出しそうな美理愛の空いていた手を凱央がギュッと握ってやる。
(俊洋と手を繋いで歩くって言うから歩かせてたけど、今の危なかったなぁ……。馬房に走り込んだりしたら危ないから、トレセンの中に入ったら抱っこしなきゃ)
春香は上の三人が大丈夫だったから美理愛も大丈夫と思って油断していた事を自覚した。
それと共に、美理愛を注意してくれた俊洋とサポートしてくれた凱央の成長に感謝をした。
「馬房の近くに行こうね」
凱央達は頷いて、メイゲイルの馬房の外側へと移動した。
「ゲイル、ゲイル。テンノーショーガンバッテネ。ボク、オウエンスルカラ」
雄太に抱き上げられた悠助はメイゲイルを撫でながら一生懸命に話している。
メイゲイルは悠助に鼻筋を撫でられながら優しい目をしている。
「テンノーショーガンバッタラ、リンゴトバナナイッパイモッテクルカラネ」
どの程度、メイゲイルが悠助の言葉を理解しているのかは分からない。
馬の知能は人間の子供の三歳程度だと言われているからだ。
「パーパモガンバルッテイッテクレタンダヨ。ダカラ、ゲイルモガンバッテイチバンニナッテネ」
メイゲイルは頭を上下させていて、まるで頷いているようだと雄太は思った。
「じゃあ、次は……」
雄太は悠助が存分に撫でたと思って、馬房の外にいる凱央達のほうを振り返った。
凱央も俊洋も、そして美理愛もメイゲイルを撫でたくてウズウズしている。その姿があまりにも可愛くて吹き出しそうになった。
(まぁ、凱央達の気持ちも分かるが、一番我慢が出来ない美理愛からだな)
雄太は悠助を地面に下ろすと、美理愛を抱き上げた。
「美理愛。優しく優しくナデナデだぞ?」
「ン。ゲイユ、イーコイーコ」
美理愛が手を差し出すとメイゲイルがクイッと顔を美理愛のほうへ近づけて、鼻面を美理愛のほっぺたにくっつけた。
一瞬、美理愛は目を真ん丸にした後、キャッキャと声をあげて笑い、メイゲイルの鼻面を両手で挟んだ。
「ゲイユ、ゲイユ」
髭でチクチクしそうな鼻面に頬擦りする美理愛に雄太も、馬房の外でみていた春香も目が点状態だ。
そこに歩いてきた当番厩務員も目を真ん丸にしていた。
「は……春香さん。美理愛ちゃん、大胆っすね……」
「あはは……。私もビックリしてます」
春香は苦笑いを浮かべた。
初めて馬を見た時からしばらくは馬に興味がなさそうな美理愛が馬と楽しそうに触れ合うのが雄太も春香も嬉しかったのだが、今の美理愛の行動には驚いていた。
「美理愛。あんまり強くギューッしたら駄目だ。ゲイルが痛い痛いなるからな?」
「ン。ヤチャチクシュル。ゲイユ、メンネ」
美理愛の大胆行動にもメイゲイルは嫌がる事もなかったが、雄太にはメイゲイルが若干驚いた表情をしたような気がした。
「ごめんな、ゲイル。でも、怒らずにいてくれてありがとうな」
雄太はメイゲイルに声をかけた。メイゲイルにしてみれば美理愛の力でギュッとされても痛くはないだろうが、『されて嫌な事』はあるから美理愛にも教えなきゃいけないのだ。
美理愛は言ってもまだ理解出来ない歳ではあるが、しっかりと言い聞かせた。
凱央達もメイゲイルを激励して穏やかな時間を過ごした。




