996話
11月1日の天皇賞(秋)にメイゲイルが出る事が決まったと、トレセンから帰ってきた雄太が春香に報告をしていた。
その話をリビングで遊びながら聞いていた悠助が駆け寄ってきた。
「パーパ、パーパ。ゲイルニガンバレッテイイタイっ!」
「ははは。悠助がそう言うだろうなって思ったから、江川調教師にお願いしておいたぞ」
「アリガトウ、パーパ。ダイスキ〜」
悠助は雄太の足にギュッと抱きついた。
「レースの日までに新しいポンポンも作らなきゃね」
「ウン。マーマ、オネガイネ〜」
週末二日間テレビの中継を見ながら雄太を応援するだけで、ボロボロになってしまうぐらいに子供達の応援は激しいのだ。
子供達の好みの色でポンポンを作る事が春香も楽しかった。
そんな時、リビングとダイニングを縦横無尽に手押し車に乗って走り周っていた美理愛が雄太の横で止まった。
「パー。ンマタン、ンマタン?」
「ああ。ゲイルに会いに行こうな」
「ン。ゲイユナデナデシュル」
美理愛も話が聞こえたのだろう。両手を挙げて話す美理愛を悠助がしゃがんで頭を撫でる。
「ミリア。イッショニ、ゲイルヲナデナデシヨウネ」
「ン、ユーニィニ。ゲイユナデナデシュ」
嬉しそうに笑いながら話す悠助と美理愛を見て、雄太と春香は顔を見合わせて笑う。そして、窓の外を見た。
庭では、凱央と俊洋が走り周っている。
「凱央と俊洋は寒さなんて関係ないんだな」
「だね〜。もう虫なんていないから、ただ走り回るのが楽しいのかな? 鬼ごっこしてるのかも」
「どうだろな。まぁ、体力作りになってそうだよな」
二人で話していると、美理愛が手押し車で窓に近づいた。
「パー。ブアンコシチャイ」
「ブランコか。分かった。じゃあ、ママに上着を着せてもらえよ?」
「ン」
ウッドデッキにあるブランコを指差す美理愛に笑って答えた雄太は上着を取りに自室へ向かった。春香は美理愛に上着を着せながら、仕事が終わった後なのに子供達と遊んでくれる雄太の父親っぷりと優しさに笑顔が溢れた。
雄太は上着を羽織り、玄関に行って自分の靴と美理愛の靴を持ってリビングに戻った。
「ほら、美理愛。ブランコするぞ」
「ン。ブアンコ〜ブアンコ〜」
雄太と美理愛が外に出てから、春香はリビングにいた悠助の傍にいき手元を覗いた。
画用紙に向かって悠助が真剣な顔をして描いていたからだ。
(あれ? これって……)
茶色の馬だが、顔が黄緑色に塗られている。
「ゲイル描いてるんだね」
春香の言葉に悠助はパッと顔を上げて嬉しそうに笑った。
「ウンっ! ゲイルダヨ。ゲイルガイチバンニナッタトコロダヨ」
「そっか。ゲイル速いもんね」
「ウン。ゲイルハビューンッテハヤインダヨ。ツギモカッテ、リンゴアゲルンダヨ」
クレヨンでグリグリと描いてあるのはゲイルにあげるリンゴだろう。オレンジ色のは人参で、黄色いのはバナナだろう。
悠助はゲイルの上に人を描いている。きっと雄太だろうなと春香は思った。
「ゲイル嬉しそうだね」
「ゲイルハ、ハシルノダイスキナンダヨ。イツモ、タノシイタノシイッテハシッテルンダヨ」
「そう。ゲイルが楽しいと悠助も楽しいね」
「ウンっ!」
凱央もゾルテアレックスの絵を描いていた事を思い出した。
(うちの子はお気に入りの馬の絵を描くのが当たり前になってるんだよね。うちの子だけでなく、トレセン関係のお子さんもか)
悠助が鼻歌混じりでクレヨンを動かしている。ふと春香は画用紙の横に置いてあるクレヨンの箱を見た。
(ん? 茶色のクレヨンがなくなりそうだな。次、買い物に出たらポンポンの材料と茶色のクレヨン買わなきゃな)
春香は悠助の向かい側に座って、窓の外へと視線を向けた。
凱央と俊洋が走っていて、その後を美理愛を肩車した雄太が追いかけていた。
(え? え? ゆ……雄太くん、肩車して走るとか疲れちゃわないっ⁉ 最近、美理愛も重くなってるんだけど)
雄太の姿を目を真ん丸にしてドキドキして見ていたが、寝る前にしっかりマッサージしてあげなきゃなと思った春香だった。




