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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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994話


 雄太達は江川にお礼を述べて、根岸厩舎へと向かった。


 そして、根岸厩舎がもう直ぐというところでガッガッガッと聞こえた。


「またデイの奴……」

「あはは……」

「挨拶してくるから、先に行って止めてくれ」

「うん」


 雄太は美理愛を抱っこしたまま挨拶に向かい、春香は凱央達を連れて馬房に走った。


 インポータントデイの馬房が見える位置から春香が声をかける。


「デイ、落ち着いて。激しく前搔きして足を痛めたら困るからね?」


 ピタッと前搔きをやめたインポータントデイは春香のほうに精一杯首を伸ばし『撫でて』アピールをしている。


 我儘な甘えん坊といった感じのインポータントデイの鼻筋を撫でてやる。


「デイは良い子ね」

「デイはママが大すきなんだね」


 インポータントデイが春香に甘えまくる姿を見て、凱央がニコニコと言う。


「パパだってママが大好きだし、ママが大好きなのはパパだぞ」


 挨拶を終えた雄太が歩きながらドヤ顔で言うのを聞いて春香は目を真ん丸にした。


 雄太の後から歩いて来た根岸と当番厩務員は口元を押さえてクスクスと笑っている。


「まったく。目を離すと春香にベッタリだな、お前は」

「だんだん甘え方が何とも言えんようになったな」


 ブツクサと愚痴る雄太とニマニマしている根岸に凱央達はキョトンとした顔をして見ている。


「パー。ジェイナデユ」

「美理愛ちゃんもデイに慣れてくれたなぁ〜」

「ン」


 根岸はインポータントデイのほうに手を伸ばしている美理愛の愛らしい姿に目を細めている。


「デイ。美理愛に撫でさせてやってね」


 春香が馬房から出て、雄太が美理愛とインポータントデイの前に立つ。


「ジェイ、カーイー」


 美理愛の手が届く位置に鼻面を持っていくインポータントデイの優しさに春香は嬉しくなった。


「雄太くんの子供は皆馬が好きになるんだなぁ」

「ふふふ。他の動物にも触れ合わせたりしてるんですけど、一番は馬みたいです」

「凱央くんが騎手になりたいってのも、雄太くんの背中を見とるからだろうな」


 インポータントデイを撫でさせてもらうのをウキウキしながら待っている凱央達に視線を移す。


「凱央が騎手になったら……」

「ん?」

「雄太くんと比べられて大変な思いをするだろうなって思う気持ちもあるんです」

「そう……だろうな。才能と実力のある父親の後を追うのは辛い事のほうが多いかも知れん」


 優しく子煩悩な雄太が我が子の壁となり立ち塞がるのだろうと思うと、春香は胸が締め付けられるのだ。


「悠助は乗馬にも通ってるから、いつか凱央のように『騎手になる』って言うかなって覚悟はしてます。俊洋もいつか言うかも知れないですね」

「まぁな。美理愛ちゃん以外はその内春香さんを悩ませるだろう」


 美理愛の次は俊洋を撫でさせようと雄太が近づいてきた。


「ほら、美理愛。ママに抱っこしてもらいな」

「ン」


 美理愛は春香に手を伸ばす。


「美理愛ももう少し大きくなったら、何か自分なりに興味を持つものが出てくるかも知れませんね」

「そうだな。美理愛ちゃんは大きくなったら何になるんだろうな」


 まだ意味が理解出来ない美理愛はキョトンとして春香と根岸を交互に見ていた。


 順番にインポータントデイを撫でた子供達が春香のほうに走ってくる。


「凱央くん」

「はい。根岸せんせい」

「俺は凱央くんに騎手デビューを楽しみにしてるんだ」


 凱央がニッコリと笑う。


「ぼく、パパに負けないきしゅになります」

「そうか。パパのライバルになって、パパに背中を見せてやらなきゃな」


 その言葉に歩いて来た雄太が目を真ん丸にする。


「今からライバル宣言されちゃ、俺うかうかしてらんないな」

「ぼくがデビューした時はパパは引たいしてるかも知れないよね」

「え? あぁ……。いや、俺は引退してない。凱央と一緒にレースに出るぞ」


 負けず嫌いの雄太のセリフに凱央も胸を張る。


「その時のぼくは若いから、パパに負けないよ」

「う……。凱央がデビューする時、三十七歳か……。いや、パパは負けないからな」


 いつの間にか雄太と凱央のライバルとしてのやり取りに春香も根岸も忍び笑いをしていた。









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