987話
食事も進み、そろそろだなとダイスカットにした白桃と黄桃がびっしりと乗ったケーキを雄太はテーブルの真ん中に置いた。
純也と子供達の目がキラキラと輝いているのを見た春香が口元を押さえてクスクスと笑っている。
「ソル……」
「はっ⁉ いや、今は油断してた顔だからっ!」
「何だよ、それ。まぁ、良いけどさ」
「良くない。俺はイケメンなんだぞ」
「はいはい。今更……」
呆れ顔をしながら雄太は綺麗にカットして皿に乗せていく。カットしたケーキから甘い桃の香りがふんわりと鼻をくすぐる。
「うわぁ……。桃の良い香りがするね」
「本当だな」
桃好きな春香は本当に嬉しそうに、皿を置いてくれた雄太を見上げた。
「いただきます」
春香は幸せそうに口に運んでパクリと食べる。その幸せそうな顔を見ると、雄太は幸せだなと思った。
子供達もパクパクと夢中でケーキを食べていた。
ケーキを食べ終えた凱央に健人が声をかけた。
「なぁなぁ、凱央。俺、凱央に聞きたい事あるんだよ」
「なぁに? けんと兄ちゃん」
「凱央さ、将来騎手になりたいんだろ? 目標にしてる騎手っているのか?」
訊ねられた凱央ではなく、雄太の肩がピクリと震えた。
(と……凱央の目標にする騎手……? 俺みたいな騎手になりたいとは言ってたけど、目標にする騎手って別にいるのかな……?)
雄太の頭の中で様々な騎手の名前が巡る。もちろん父親として自分の名前を答えてくれるのが一番だとは思う。
(梅野さんだとしたら納得はいくよな。スマートで荒くない騎乗だしな。鈴掛さんは年上過ぎるか……? いや、目標とする騎手だし鈴掛さんでもおかしくないよな)
そして、チラリと純也を見た。純也はケーキを食べ終わり、満足そうな顔で梅野が淹れてくれたコーヒーを飲んでいる。
雄太だけでなく、純也達も凱央の答えに注目しているようだ。
(ソルは……。まぁ、G1も獲ってるしリーディングも上位だけど……。父親として、りんご飴みたいな頭のソルを目標にされたらどうしたら良いんだぁ〜っ⁉)
ここにいる誰よりも雄太が一番心拍数が上がっていた。
「ん〜。まだね、目標にしてる人はいないよ。見本にしてるのは、やっぱりパパだよ」
凱央はニコニコと笑いながら答えた。
「そっか。やっぱりパパなんだ」
「うん。ぼくはまだポニーにしか乗れてないけど、パパのきじょうしせいはキレイだから、見本にしてるんだよ」
健人は憧れの雄太が凱央の目標ではないと言われ、一瞬固まったが見本にしていると聞いて満足気に頷いた。
そして、雄太はホッとして息を吐いた。
(よ……良かった……。目標が俺じゃなくても見本って言ってもらえて良かった……)
凱央の答えに春香もニコニコと嬉しそうに笑っていた。
「じゅんや兄ちゃんもまさき兄ちゃんも見本だよ。由おじちゃんも」
「え? 俺は?」
「けんと兄ちゃんは、まだまだだね」
「ちょっ! 凱央ぉ〜」
凱央に見本じゃないと言われて、健人はアワアワと大慌てをしている。
純也も梅野も腹を抱えて大笑いをしている。
「ま……まだまだってぇ……。俺、かなりショックなんだけどぉ……」
いたずらっ子のような顔をしている凱央の顔は雄太に似てるなぁ〜と思いながら春香は笑って見ていた。
「まぁ、まだまだの健人は頑張れって事だな」
「純也ぁ〜」
「せめてG1を一つ獲ってからだな、うん」
「くぅ〜っ! 絶対、凱央の見本になって、目標になってやるからっ!」
純也と健人は似てるよなと雄太と梅野はゲラゲラと腹を抱えて大笑いをした。
夜になり、春香は雄太からもらったプレゼントを開けた。
「うわぁ……、綺麗……」
小さな箱の中にあったのはプラチナのブローチだった。
馬が駆けている形のブローチを取り出して春香はそっと指で撫でた。
そして、裏側を見ると『6月7日』と『Y&H』と刻印があった。
(6月7日……? あ、雄太くんがダービー獲った日だ。じゃあ、この子は……デイ?)
雄太の夢のダービーを叶えたインポータントデイを模したプラチナのブローチは春香の宝物になった。




