985話
9月15日(火曜日)
春香の誕生日当日、凱央と悠助は祝日で休みだ。折り紙で飾りを作り、リビングは既に華やかになっている。
誕生日の主役の春香は地下のコレクションルームに美理愛といるようにと雄太に言われ、美理愛が退屈しないようにとたくさんのオモチャを持ち込んだ。
「美理愛、オモチャで遊ばないの?」
春香が声をかけたが、テレビの前にチョコンと座り込み、雄太のレース映像を見ながらキャッキャと応援している。
(ん〜。オモチャよりパパの応援したいのかぁ〜)
何気なく春香が雄太のレース映像を流したら、美理愛はそちらに夢中になってしまった。流しているのはインポータントデイとのダービーの映像である。
(雄太くんを応援するの好きなんだなぁ〜。てか、雄太くんはリビングにいるのに)
春香はクスクスと笑って、テレビの前で全身を大きく使って雄太の応援をしている美理愛を眺めていた。
「凱央。これ冷蔵庫に入れてくれ」
「はい。パパ」
「悠助。レタス千切れたか?」
「デキタヨ、パーパ」
「俊洋。炊飯器の数字いくつだ?」
「ントネ、ハチダヨ」
キッチンから雄太が声をかけると、子供達はテキパキと動いていた。
インターホンが鳴り、凱央が走って行く。
「あ、パパ。じゅんや兄ちゃんとけんと兄ちゃんとまさき兄ちゃんだよ」
「鍵を解除してやってくれ」
「はぁ〜い」
凱央はモニターを切って、解除ボタンを押してから玄関に走って行った。
(背が伸びたから、もう踏み台なくても大丈夫なんだなぁ〜。大きくなったよな)
雄太は包丁で食材を切りながら、凱央の成長を噛み締めていた。
純也、健人、梅野が来てくれたおかげで、パーティーの準備は一気に進んだ。
「その薄焼き玉子、春さんが焼いたのか?」
「さすがに、薄焼き玉子は俺にはハードルが高いんだよ」
「成る程な。多分、雄太が焼いたら厚焼き玉子になりそうだもんな」
「ソルだって薄焼き玉子なんて焼けないだろ?」
雄太は薄焼き玉子を切りながら苦笑いを浮かべ、純也はツナ缶をマヨネーズで和えている。
梅野は鮮やかな手つきでサクの鮪やイカを細切りにしながら、雄太達の会話を聞いていた。
健人はリビングにテーブルを並べてセッティングをしながら、雄太達をチラチラ見ていた。
(ん〜。俺より年上の雄太兄ちゃん達が包丁使えるのな。俺も料理出来るかな?)
健人の料理経験は学校の調理実習や学校の行事で行ったキャンプぐらいだ。
包丁を使った覚えはなくはないが、いつだったか……とつらつら考えてみたが、三人の男性の先輩が手際よく何かを作っているのが格好良く見える。
(寮にいたら料理しないもんな。寮母のおばちゃんに任せてるし。けど、料理出来たほうが良いよな? うん。大した物は作れなくても良いから、少しずつ覚えよう)
昔は男が台所に立つのは……などと言われていたが、今はそんな時代ではないと健人も思っている。
「健人。テーブルセッティング出来たか?」
「うん。雄太兄ちゃん」
「じゃあ、食器棚から皿出して並べていってくれ」
「分かった」
健人が食器棚から雄太の指定した皿を出していると、凱央が手伝ってくれる。
「ぼく、美理愛のお皿とか運ぶよ」
「ありがとな、凱央」
「うん」
凱央は美理愛と俊洋の皿やカップを出してリビングに運んでいる。
(あ、あのカップ……)
健人が美理愛にプレゼントしたカップを凱央が手にしているのに気がついた。
(使ってくれてんだな。てか、プレゼントしたのを使ってくれてるだけで、こんなにも嬉しいなんて……)
雄太や純也達が初勝利や初重賞勝利の時に贈ってくれたトレーニングウェアは大切にしまってある。
(あれしまい込んでないで使おう。この先、体形が大幅に変わるとかはないからってのと、もったいないって思ってたんだよな。雄太兄ちゃんも純也も『何で着ないんだ?』って思ってるかも知んないしな。もしかしたら『気に入らなかったのか』って思ってるかも)
雄太にもらったサイン入りのゴーグルはさすがに使えないが、Tシャツやトレーニングウェアは使っていこうと思った健人だった。




