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美少女勇者はワシが操縦しています。  作者: オレイカルコス松村
【第1章】美少女勇者誕生
20/25

shoes-20「迷宮者施設と逃げるワシ」

 無理矢理に手を引っ張られながら歩くこと十数分。ワシらは『迷宮者施設(メイザー)』にたどり着いた。



「着いたわ。ここがそうよ」



 目の前にはワシの乗り物からでも見上げるほど巨大な建物が建っている。入り口に取り付けられているプレートには巨人種の言葉で『国立迷宮調査及び冒険者支援施設』と彫られており、どうやらここが迷宮者施設(メイザー)という冒険者どもの言っていた施設であるらしい。



「……ワシの知らぬ間にこんなものが建っていたとはな」



 ワシが巨人の街を退いてから約五十年が経つが、小人飼いの森(そと)から見た時はさほど変化があるようには見えなかった。だが近くで見ると、この様に変わった箇所もあるようじゃ。



「まぁ、美的センスは皆無じゃがな」



 巨人の街の外壁に密着して建てられたこの建物は、外壁と同じ石材で造られたようにみえる。その為か、先程遠くから見た時には外壁が一部飛び出している様じゃった。

 巨人の街の中にではなく外にある理由は横に居るエルフ曰く、他の国から迷宮に潜った者が、国に入らなくとも利用し易くする為だとか。

 まぁそんな事などどうでも良い。それよりも物作りを生業としていたワシにとって、この建物のデザインが気に食わん。街の外に建てられたという事と、外壁と同様の造りから察するに、頑丈が売りなのは分かるが、そこには一変の装飾もない。建物の顔である入り口でさえも石造りを四角に切り取った中に分厚い材木で格子状にした開き戸があるだけじゃ。これを作った者のセンスも工夫も一切感じられない。

 ワシならば、これの数百倍は素晴らしい建物を建てられるわい。所詮は巨人種の建築物じゃな。


 鼻で笑っていると、肩に竜の首の包みを担ぎながら、乗り物(ワシ)の腕を未だに掴んでいるエルフが話しかけてくる。



「そんなに心配しなくて大丈夫よ? お姉さんが付いてるから! じゃ、中に入りましょ」



 建物の入り口を通り中に入ると殺風景な外観とは裏腹に、様々な物が目に飛び込んできた。


 石造りの外観とは裏腹に材木で覆われた広い室内は、天井からぶら下げられたいくつもの光る玉によって外よりも明るく照らされている。壁際には、迷宮で見た事のある魔物が数体、今にも襲おうとするかのような態勢で停止したまま並んでいるが……どれも死んだ目をしているので恐らく剥製じゃろう。広い室内の両脇には長いテーブルと椅子が設置され、そこに多くの冒険者と思われる巨人種らが腰かけ、物書きをしたり談笑したりしているのが見える。そのいくらかはワシらを横目で見ているが、乗り物とはバレていない……はずじゃ。迷宮内で魔物から拝借した外套が顔の半分まで覆っているので、それが役に立っているようじゃな。


 エルフに引っ張られながらついて行くと、広間の突き当たりに薄い板で仕切られた場所にたどり着く。そこには仕切りごとにテーブルが設けられ、巨人種のオンナどもが座っている。その中の一人がこっちに目を向ける。



「あれ、ヴィアーナどうしたの? 今日は随分と早いじゃない。……と、その子は?」


「うん、ちょっとね。で、コレ(・・)を見て欲しいんだけど」



 気軽な雰囲気で話す二人。どうやらこのエルフは目の前のオンナと知り合いらしい。確か冒険者とか言っておったからその関係じゃろう。

 エルフは肩に担いでいた包みをテーブルの上に置くと結び目をほどく。すると、瞬時に布の中身が元の大きさに戻り、ワシの竜の首が(あらわ)になる。



「! こ、コレって……!?」


「この子が倒したみたいなんだけど、鑑定して貰える?」


「……え? その子が!?」


「うん。だけど、その戦いの後遺症で声が出なくなっちゃったみたいなの」


「それでヴィアーナが?」


「そーゆーワケ」


「…………ま、いーわ。ヴィアーナだもんね」



 オンナは納得がいかない顔をしつつも、このエルフだからしょーがないとでも言うような顔でうなづく。



「え、ソレどーゆー意味よ?」


「なんでもないわ。さ、鑑定、鑑定」


「ちょっと」



 不満げなエルフをよそに、ニヤニヤとしながらオンナは鑑定を始めた。テーブルに立て掛けていた杖を持ち、呪文を唱える。すると、杖の頭部にある輪っかの中に小さな魔法陣が現れる。魔法陣が安定すると、杖を両手に持ち、虫眼鏡のように片目で魔法陣を凝視する。



「……?」



「あの杖の魔法陣で、ラビス迷宮に棲むモンスターの情報と照らし合わせているのよ」



 オンナの行動が何を意味するのか分からんかったがエルフが教えてくれる。意外と気の利くヤツじゃ。じゃが、ラビス迷宮とはなんじゃ?

 鑑定を続けるオンナは、うーんうーんと唸っていたが、暫くするとため息をついて杖を置く。



「ふぅ。……見たこと無いモンスターだったらもしかしてと思ったけど、やっぱりこの杖には記録されてないわ。ヴィアーナ、これ本当にラビス迷宮のなの?」


「え? あ、うん。多分」


「多分て。…………ま、いいわ。ちょっと待ってて」



 曖昧にうなづくエルフに呆れた顔をしたオンナは、奥の部屋の扉を開き消える。


 話から察するに、ラビス迷宮とは恐らくワシが潜っていた魔創迷宮の事なのじゃろう。ワシの倒した魔物は間違いなくその迷宮の中に居たものじゃが、オンナの使った鑑定の魔法では記録されていないらしい。どういう事じゃ?



「いつもならその杖でパパッと鑑定して換金できるんだけど、流石にドラゴンはそうはいかないみたいね。彼女の言う通り買取り一覧にも載ってないみたいだし」



 オンナを見送ったエルフは、ひと息つくとワシの方へ振り向き、テーブルの横に置いてある結晶体の形をした大きな水晶の表面に手を触れる。すると、触れた部分から波紋のように魔法陣が広がり、そこから魔物が浮かび上がる。



「……ッ!」



 一瞬身構えるが、目の前の魔物は動こうとしない。しかも迷宮で見たものより小さく、向こう側が透けているような……。



「なんじゃこれは……?」



 呆然としていると



「あは。初めてみた人はみんなそうなるわ。これ、勇者が残した魔法らしいわよ?」



 透明な魔物を右へ退けるように手を払うと、その方向へ魔物が移動し消え、別の魔物が左から現れる。



「これが買い取ってくれる魔物と買取り金額の一覧表よ」



 よく見ると、直立不動の魔物の足元には何行にも渡って文字が表示されており、そこに魔物の各部首と買取り金額が記載されていた。どういう原理かはわからんが、この魔法は、魔物とその特徴をいっぺんに見ることが出来るらしい。文字が巨人種語なのは、同じ巨人種語を使う勇者が作り出したからなのか?

 さらにエルフが手を払うと、裸の巨人種が牛の頭をかぶったような魔物があらわれる。



「最近人気のミノタウロスね。ラビス迷宮の中層の主で、まだ限られたパーティしか倒した事がない強いモンスターなんだけど、これの(つの)がもの凄い強壮剤の素材になるっていうのが分かって、買い取り価格が大上昇しているの。噂によると、ある国の百歳を超えた王様が二十代の体を取り戻したらしいわよ? 嘘っぽいけど」



 エルフの話を流しつつ、ワシが潜った時にはこんな魔物なぞ居たか? と、記憶を探りながら魔物の説明欄を眺めていると、受付のオンナが初老の巨人種を連れて戻ってくる。



「おま……たせ! んしょっ!」



 両腕にあるデカい物を抱えてよろめきながらも、ガシャンッとテーブルの上に置き深い息をつくオンナ。



「こら、もう少し大事に扱いなさい」


「えぇ〜〜? だったら主任も一緒に持って下さいよぉ〜。これすっごく重いんですから」



 初老のオトコはシュニンというらしい。その見た目と喋り方からオンナよりは格上のようじゃ。オンナが息を切らしながら持って来たのは杖。それもオンナが扱っていた物とは異なり、杖の頭の部分がふた回りほど分厚く大きい。見た目は鉄のようじゃが、微かに青黒い光を放っているところを見ると、別の金属かもしれん。輪っかの周りには細かい装飾が施され、その中に赤く光る宝石がいくつも嵌め込まれている。その為それが普通の杖とは比較にならないほど、貴重なものだと伺わせる。



「で、例の物というのはコレか」


「あ、そうですそうです。ね? ヤバくないですかコレ?」



 初老のオトコはオンナの言葉には答えず、テーブル上に置かれた竜の首を繁々と見つめると、ゆっくり椅子に腰をかける。



「……これは、私も初めてみるな」



 オトコはオンナが運んできた大きな杖を手にし、先ほどのオンナと同じように覗き込む。



「その杖は?」


「“本物”の鑑定杖よ」



 よほどその杖が重かったのか、オトコの後ろで床にしゃがみ込んでいたオンナが、エルフの質問に答える。



「本物?」


「そう。私たちが普段使ってるのは複製版(レプリカ)なの。本物はその一本しか無いし、使う魔力も段違いだから、普段は奥に保管してるのよ。レプリカはラビス迷宮の低層までの魔物しか記録してないから、主任に頼んでこの杖を持ってきたってワケ」


「……じゃあこの魔物の死骸はラビス迷宮の中層以上の魔物ってこと?」


「うーん、流石にそれは無いんじゃない? ラビス国(うち)の中で一番深くまで潜っている後継者(アントラ)だって深層はまだなんだから。まぁ、この杖で反応しなかったらラビス産じゃないって事ね」



 要はワシの持って来た死骸がラビス迷宮の物ではない偽物と証明したいワケじゃな。意地の悪いヤツじゃ。



「で、その子ってどこから来たの? 新人? ラビス迷宮者施設(うち)登録者()じゃないわよね?」


「あ、うん。えっとねぇ……。わかんない」



 挙動不審に答えるエルフ。まぁ、分からんじゃろな。なにせ何も聞かずに勝手に勘違いしてワシをここまで引っ張ってきたんじゃからな。



「はぁ!? 連れて来たのヴィアーナでしょ!?」


「だ、だってぇ。喋れないし……」


「そんなの羊皮紙(かみ)に書いてもらうとかか、首肯で判断すればいーでしょーが!」


「あ……、そうよね! お姉さんすっかり失念してたわ!」


「いやいや、お姉さん(・・・・)じゃねーだろ」



 コヤツらの会話を聞いていると仲が良いのか悪いのか分からんな。だが、ワシと古き親友(ペケノ)の関係と似ているかもしれん。

 とりあえずオンナの提案で首肯で答えることになった。羊皮紙(かみ)に書くとなると、操作がやたら難しいからのう。安心したわい。



「それじゃあ貴女に質問ね? 貴女はラビスで登録している冒険者?」



 ワシは冒険者ではないからな。と、乗り物の首をブンブンと横に動かす。



「じゃあ、メイローン?」



 じゃから冒険者ではない。

 ブンブンブブン。



「え、違うの? まさかケーブグレート……じゃないわよね?」



 違うと言っておるじゃろ。面倒なのでレバーを固定して首を振り続けさせる。

 ブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブン。

 その後もエルフとオンナが他の国の名をあげるが、ワシはレバーをそのままに首を振り続ける。



「そんな……もう他に国なんてないわよ……」


「……もしかしてだけど、冒険者登録してないとかじゃない?」



 ようやく気付いたらしい。



「え? そ、そうなの!?」



 オンナの答えにエルフが驚きワシを見る。

 ワシはレバーを動かし首を上下に振る。

 コクコク。



「ごめんなさい! お姉さんてっきりその格好で冒険者だと思っちゃってたわ! そうよね! 貴女みたいな子がそんなわけないわよね!」


「そんなわけない子が、こんなでっかいモンスターの頭持ってくるなんてどんな子よ」



 このオンナの言う通りじゃ。というかワシの乗り物はどう見られておるんじゃ? 少なくともこのエルフには好印象みたいじゃが。



「じゃあ主任が調べてくれてる間に冒険者登録しておきましょうか? アナタがもし本当にこのモンスターを狩ったのだとしたらこれからも必要だと思うし」


「そうね! それがいいわ!」



 ……ふむ。冒険者になるつもりはないが、狩った魔物を換金できるというのは嬉しい。金が無ければ物も満足に作れんからの。それにこの一覧表とかいう魔法、これにはかなり唆られるものがある。迷宮に潜っていた時も倒した魔物を素材に乗り物を改良していたが、もしかしたら捨てたものの中に良い素材があったやも知れん。これを読めるならば、冒険者になっても良いと思うほど魅力的じゃ。



「やる気みたいね」



 ワシの意思が乗り物にあらわれたのか、オンナはテーブルの下をゴソゴソと漁り出す。



「そそそしたらパーティを作るのよね! ふふふふつつつかものですが、宜しくお願いします!!」



 なぜか顔を赤く染めてもじもじするエルフ。



「こいつの事は気にしなくて良いわよ。んじゃ、こっちで登録するから服脱いで」



 ……は? 服を脱げだと?

 それはこの乗り物に着せている服のことじゃよな? なぜ冒険者登録をするのに服を脱がなければいかんのじゃ?



「…………」


「ん? どうしたの?」


「あ、えっとね! この石板は登録石(レジェル)って言って、鏡面部分に映した物を登録する魔法が組み込まれてるのよ! さっきの水晶みたいに!」


「冒険者は身体を欠損させる事がよくあるから、指紋とか一部分の認証では不十分なのよ。だから全身を認証登録する必要があるの。さ、早く服を脱いで。大丈夫、この衝立には衝立の中が見えない魔法がかかっているから」



 ワシの沈黙を疑問と受け取ったのか、エルフとオンナが説明をしてくれる。

 確かに、手形をとったとしても腕がなくなってしまえばその判別はできん。ワシの乗り物も改造を繰り返したお陰で今ではかなり強靭な物となったが、始めの頃は何度手足を壊されたことか。そう考えれば、全身の登録というのも納得出来る。

 だが、改造に改造を重ねたワシの乗り物は、顔こそ巨人種にバレない程度の見た目になっているが、身体はもはやその領域を超えている。見た瞬間に巨人種ではないとバレてしまうじゃろう。一度目の迷宮で遭遇した冒険者(ラルク)どもと同様にワシを亡霊や化け物と勘違いするやもしれん。



「登録早く早くぅ! じゃあお姉さんが手伝ってあげる! まずはその野暮ったい外套を——」



 迫るエルフが外套に手を伸ばす。じゃが、このまま服を脱がされればワシの乗り物が作り物だとバレてしまう。

 先程は油断したせいで腕を掴まれてしまったが、迷宮の最下層まで辿り着いたワシの本気の操縦はフゴフゴと荒い鼻息を吐きながら突進するエルフの手を難なく掻い潜る。



「!」


「悪いが、捕まる訳にはいかんのう」



 躱した状態から軽やかに反転し、施設から逃走。



「あ! なんで逃げるのぉぉ!? 待ってぇ!」


「ちょっヴィアーナ! これどーすんのよ!」



 服を脱ぐよう指示した途端に逃げた少女を追いかけるエルフ。オンナはテーブルに置いたままのモンスターの頭を見てため息をつく。

 だが、そのモンスターを鑑定していた主任と呼ばれたオトコは眉間にしわをよせる。



「……むむぅ。これは……本当なのか?」



 杖の魔方陣から何度も魔物を見直し、その後諦めたかのように肩を落とす。

 


「……まさか、こんな日が来るとはな……」


「主任、どうしました?」



 鑑定を終え、席を立つ主任。その怪訝な顔つきに思わず声をかけるオンナ。



「……迷宮主が倒された。施設長に報告しに行く」


「……え、め迷宮主? 迷宮主って、最下層に居るとか言うあの? ま、まさか」


「そのまさかだったら良かったのだかな……。他のスタッフにも収集をかけておいてくれ。大至急だ!」


「は、はぃいい!!」

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