shoes-19「何故かひっぱられるワシ」
勇者の怪しげな魔法?によって、気付けば緑一面に覆われた森の中のような場所に移動させられたようだが……ここはどこじゃ?
周りを見渡せば、なんとなく見覚えがあるような木々。見上げれば目を開けられないほどの眩しい太陽の光りがワシの目を焼く。
「くっ……ここは、迷宮の外か?」
転移させられたという事は、勇者の“後は頼んだぞ”の言葉通り、勇者の能力を得た事により、復活するであろう魔王の討伐を勝手に任されたという事なのじゃろうが……。
「勇者め……」
勇者のいたずらなのかは知らんが、何故か勇者の能力の証である紋様は、ワシではなくワシの乗り物に刻まれている。そこから推察すると……
「まぁ、先ずは検証じゃな」
周囲を見回し誰もいない事を確認すると、乗り物に膝をつかせ操縦席の後ろにある梯子を降りる。壁に取り付けてあるレバーを回転させ、乗り物の口を開ける。
すると真っ暗だった室内に、迷宮暮らしで久しく浴びていなかった強い日差しが注ぎ込まれ、たまらず顔を背ける。
「くぅ……久しぶりの太陽はキツいのう」
だが、それと同時に気持ちの良い深緑の香りとさわやかな風が全身をつつむ。
暫くぶりの緑豊かな香りを楽しむと、足元にいた赤いゼリー状の生物に乗り、餌を与える。
「大雑食、下まで頼むぞ」
ソコナシと呼ばれた赤い粘液状の生物は、投げ込まれた餌を体内に溶かすとスモルを乗せたまま、自らの身体を乗り物の外の地面までにょーっと伸ばす。スモルはソコからよっこらせと降り立つと、その場で寝転び目を瞑る。
一時間ほど経って目を覚ますと、自らの身体を確かめる。
「ふむ……ちとまだ早かったかのう」
ワシの予想が正しければ『状態異常遮断』の能力はワシ自身では無く、乗り物が得ている。とすれば、乗り物の外でしばらく待っていれば再びワシに“呪い”が発生するはずじゃと思っていたのだが、迷宮の最下層で戦った竜の化け物との戦闘が相当良かったらしく、呪いが発生する気配がない。
約半年の迷宮生活の中で分かった限りでは、“例の呪い”は、魔物との戦うことで一旦収まるようだ。そして、その魔物との戦いが苛烈であればあるほど再びが呪いが発生するまでの時間が伸びる……ということらしい。
先程倒した竜の化け物は、言うまでもなく迷宮内で最強の魔物じゃった。それ故に戦ってから二時間近くが経つが、未だにチクリとも呪いの感じが湧かない。まぁ、倒すのに一ヶ月かかったからの。もしかしたら一週間くらいは平気かもしれん。
仕方がないので呪いの検証は後回しにするかと、乗り物の横に置かれてある巨大な物体を見る。
「コレをどうするかじゃな」
迷宮の外に転移されたのはワシと乗り物だけでは無かった。そこには、先程言った最強の魔物——巨大な“竜の化け物の首”が置かれていた。
「これが勇者の言った“報酬”……なんじゃろうが、どーすりゃ良いんじゃ?」
と言いながら、以前共に行動した冒険者どもの話を思い出す。たしか“迷宮者施設”とか言う所に持って行けば、倒した魔物を素材として換金してくれると。じゃがそうなると、ワシがその施設にいるであろう巨人種と言葉を交わさなければならない。
「巨人種らがワシの言葉を理解出来ればよいが……面倒じゃのう。いや、黙って渡せば良いのか?」
巨人種との関わりを断つために巨人の街を出たというのに、何故また巨人種と話さねばならんのだ。出来るならこのまま竜の首を放置して、久しぶりの我が家に帰ってたらふく酒とタバコを満喫したい所だが、この乗り物を作る為に使用した材料費や消費した食料を考えると、勿体ない気もする。はてさてどうしたものか……。
「あ、あら? 貴女、こんな所でどうしたの?」
「……ッ! (誰じゃ!?)」
くっ、しまった……! ワシとしたことが、久方ぶりに迷宮の外に出たこともあって、気を抜いてしまってたようじゃ。じゃがそうだとしても、ワシが気づく間も無く近づくとは……何者じゃ?
幸いにもソヤツは乗り物の後ろから話しかけて来た。ワシは死角になっていた乗り物の正面から素早く大雑食の上に乗り、口の中から操縦席へと移ると、乗り物に警戒態勢を取らせる。
操作をしながら横目で臆病毛玉の方を見るが、腹立たしも何事もなかったかのように巣籠の中でスヤスヤと気持ちよさそうに寝ておる。……と言うことは、敵意が無いのか、それともワシにとって脅威では無いのか……どっちじゃ?
「あ、き、急に話しかけて御免なさい。貴女、冒険者よね? お姉さんもそうなの。何か困ってそうだったから声をかけたのだけど……迷惑だった?」
逆光でよく見えなかったが、そこには大きめの荷物を背負った軽鎧のオンナの巨人が立っていた。腰には細い剣を携えている。確かに冒険者と同じような格好のようだ。じゃが、巨人種ではない。
ワシと同じように横に長く尖った耳、シワが少なく整った顔立ち、鎧の間から見える肌は白く、胸と尻は大きく膨らんでいる。
「……コヤツ、両精種か?」
【両精種】
両精種とは、ワシら小人妖精と同様に自然の力を与えられた種族じゃが、その中でも“二つの属性”を持った両精種じゃ。しかも忌々しいことに、ワシらは気持ち程度の“恩恵”しか貰ってないのに関わらず、奴ら両精種は“加護”を与えられておる。恩恵は自ら行使することが出来ず、ちまちまとした体力や空腹の回復ぐらいじゃが、加護は冒険者の使うような魔法として使役出来る。両精種の場合は“風属性”と“水属性”の魔法を使えるらしい。そのせいか、自分らは特別だと勘違いしている面倒くさい種族じゃ。
そのエルフがワシに何の用じゃ? エルフは見た目の清楚さとは裏腹に元精ばりの変人だと聞いておる。噂ではその美貌を活かして冒険者パーティのアイドル的存在を拐かし、女同士の快楽に目覚めさせて男の冒険者を悔しがらせたり、巨人種の王を豊満な乳で赤ちゃんプレイの虜にし、その国の公用語を“赤ちゃん言葉”にしたらしいではないか。
「……ん? どうしたの?」
じゃがコヤツの狙いはなんじゃ? ……は!? まさかこの竜の首を横取りしようとしてるのか?
そう思いながら竜の首に顔を向けると、その視線——というか顔の動きを追ったエルフが目を見開く。
「……え? な、なんなのコレ……。単なる獣かと思ったら……も、もしかしてドラゴン?」
「ふん、白々しいの。初めから気づいておったくせに」
下手な演技で誤魔化そうとしてもワシには効かんぞ! 別に要らんと思っておったが、盗られるとなると惜しくなるもんじゃ!
これはワシが倒した獲物じゃ! お主には渡さん!
盗られてたまるかと竜の首に手を出すと、その腕をガシッとエルフに掴まれる。
「……! な、何を!」
「ま、待って! 貴女、どうやってこれを……!!」
ふぁ!? なんじゃコヤツ! 狙いは竜の首のでは無くてワシ——いや、ワシの乗り物だと言うのか!?
「ええい、離せ!」
掴まれた手を振りほどこうとレバーを動かすが、意外にもがっしりと掴まれておりビクともせん。……コヤツ、エルフのくせになんて力じゃ! 激しく身体をよじると、纏っていた外套が少しはだけ、乗り物の首元があらわになる。
「……!? 貴女!」
くっ! しもうた! 長い迷宮生活のなかで修理と改造をくりかえした結果、乗り物の身体を覆う為に強い魔物の皮を継ぎ接ぎしたのだが、それを見てしまったか!
ちょっとよく見せてと、もう片方の腕で触ろうとするが、なんとか回避!
……乗り物だとバレたか?
だがエルフは、そこで動きを止め、思い詰めたような目でワシを見る。
「……その身体……呪いなのね?」
「!」
「どうやって倒したかは分からないけど、ドラゴンは倒した相手に呪いをかけると聞いた事があるわ。もしかして貴女のその身体もそうなのね!? こんなに可愛いのに……許せない!」
一瞬ワシの事かと思ったが……なんじゃコヤツ? 可愛い? 何を怒っておるのだ? よくわからんが、ワシの乗り物の身体を見てそう思ったらしい。全くの勘違いじゃが面倒なのでここは、そういう事にしておこう。
とりあえずコクコクと顔を上下に揺らし、うなづいてみる。
「やっぱりそうなのね……」
何がやっぱりじゃ。
「もしかして、さっきから喋らないのもそのせいなの?」
さっきからなんなんじゃ? 色々聞きおって面倒なヤツじゃのう。あーはいはい、その通りじゃよ。声が出せないのはその機能を取り付けていないだけじゃが、適当にうなづいてみせる。すると、
「……可愛そうに。つまり貴女は、このドラゴン? を倒したは良いけどその時の呪いのせいで声が出なくなって換金出来ずに困ってた、って事なのね?」
……まぁ似たようなもんじゃが、なんなんじゃ? というか、早く手を離さんか!
振りほどこうとしても依然としてビクともしない。それどころか目を輝かせ、先程よりも強い力で腕を引っ張る。エルフのくせにさっきからなんなんじゃこの力は!?
「じゃあ、お姉さんが手伝ってあげる! 迷宮者施設で良いのよね!!」
そう言ったそばからエルフは、腰に取り付けてある小振りの鞄から緑色の布を取り出すと、竜の首にかぶせる。
すると、緑色の布の糸一本一本が急激に伸び始め、巨大な竜の首を包み込んでいく。
「!」
全て覆い尽くし、巨大な緑色の玉が出来たかと思ったその瞬間、ワシの乗り物よりも大きかったソレは、ふた回りほど小さくなっていた。
エルフはその小さくなった竜の首を包んだ布の端を結び、片手で肩に抱えると、ワシに向き直る。
「ささ、行きましょ!!」
呆気にとられたワシは、抵抗虚しく引きづられていく。
「ぐう、くそ! 離せ! 離さんかぁーー!!」




