二戦目
輪投げの屋台は、前の市と同じ場所に出ていた。
木の杭が九本。手前から三本ずつ、奥へ行くほど景品がいい。屋台の主人は私たちの顔を覚えていたらしく、銅貨を受け取りながら、二列目の鳥はもうありませんよ、と言った。
「今日の二列目は、何ですか」
「独楽です」
鳥より少し格が下がった気がした。
ルシアン殿は、今日は杭の並びを眺めなかった。輪を受け取ると、手の中で一度だけ回して、すぐに構えた。
「理屈は」
「今日は、持ってきていません」
輪は手首から離れて、低く、まっすぐに飛んだ。手前の杭に当たって、かん、と鳴り、そのまま根元に落ちた。
前の市で、彼の輪は杭の手前で跳ねて転がっていた。
「練習なさいました?」
ルシアン殿は二本目の輪を構えたまま、少し黙った。
「……少しだけ」
「どこで」
「公邸の裏庭に、杭を一本」
「一本」
「九本立てようとしたら、執事に止められまして」
二本目の輪は、手前の杭の頭をかすめて外れた。ルシアン殿は、それについては何も言わなかった。
私の番だった。
ベアトリスの言ったことを思い出す。ここの主人は、二列目の杭を指一本ぶん奥に打つ。私は二列目のいちばん右の杭の頭を見て、それより指一本ぶん、奥を見た。
一投目は、杭の頭に当たって跳ね返り、私の足元近くまで戻ってきた。
「今のは」
「練習ですね」
ルシアン殿が先に言った。
「……確認です」
「確認」
「指一本ぶんが、本当かどうかの」
二投目で、輪は二列目の杭にかかった。屋台の主人が、はい独楽、と言って、赤く塗った小さな独楽を私の手のひらに載せた。
指一本ぶんは、本当だった。
私は独楽を持ったまま、三投目を三列目に向けた。ここまで来たら、鳥より上を取りたかった。輪は三列目の杭の手前で落ちた。四投目も落ちた。五投目は、三列目の杭の横をすり抜けて、奥の幕に当たった。
ルシアン殿は、三投目と四投目を手前の列で一本ずつ取り、五投目を構える前に、私の顔を一度見た。
それから、三列目へ投げた。
輪は、杭の頭の上で一度揺れて、すとんと落ちた。
屋台の主人が、ほう、と言った。三列目の景品は、尻尾の大きな栗鼠だった。木彫りで、どんぐりを両手で抱えている。
「私の勝ちですね」
ルシアン殿が言った。
私は独楽を見て、栗鼠を見た。
「景品の格で言えば、そうなりますね」
ルシアン殿は、少し驚いた顔をして、それから笑った。
「栗鼠は、鳥より少し小さいですね」
「格は上です」
「格は、屋台の主人が決めたものです」
「では、主人に伺いましょうか」
主人は、こちらを見もせずに、三列目は三列目ですよ、と言った。
ルシアン殿は栗鼠を上着の懐にしまいかけて、途中で手を止め、もう一度、手のひらに載せて眺めた。どんぐりを抱えた前足の彫りが細かい。
「まだ眺めるんですか」
「せっかくですので」
「次の市でも、ここに出ていますね」
「出ていると思います」
「では、次の市で」
「三戦目ですね」
彼が嬉しそうなのが、少し腹立たしかった。それより少しだけ多く、私も嬉しかった。
広場の鐘が、昼を告げた。侍女が、少し離れたところで籠を持ち直した。
昼は、市の外れの食堂で取った。窓際の席で、ルシアン殿は豆のスープを、私は焼いた腸詰めを頼んだ。
「父への挨拶ですけれど」
私が言うと、ルシアン殿は匙を置いた。置いたまま、しばらく取り上げなかった。
「はい」
「来週の、どこかでいかがでしょう。父は午後なら空いているそうです」
「来週」
「早すぎますか」
「いえ。いえ、早くはありません」
ルシアン殿は懐から手帳を出して、来週の頁を開いた。開いたまま、私を見た。
「閣下は、何がお好きですか」
「なぜです」
「手土産を」
「父は手土産より、時間どおりに来る人が好きです」
ルシアン殿は手帳に何か書きつけた。覗くと、時間どおり、と書いてあった。
「それは、書くことですか」
「書いておかないと、早く着きすぎそうなので」
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