第9話
はじめての新宿タワー攻略から数日後。甥っ子の様子がおかしい。
ある日の夕飯時。
サイは変わらず、妹の家に向かい妹家族や両親と食事をとっている。
そんな時、甥っ子はすごくキラキラした目でサイを見てくるのだ。
「おじさん、あんなに強かったんだ!」
単純な強さの話もあるのだろうが、テッタやソウマを助けた手際の良さが彼の心を打ったらしい。
妹の旦那さん(甥っ子の父)はおだやかな性格で、まっとうに会社員を続け、妹と結婚して、義両親であるサイの両親を養っている。
サイからすると、そんな旦那さんの方が素晴らしく恰好良い。
恋愛はすれど、まともな結婚も……な四十代になってしまったのだ。
サイに比べて、妹の旦那さんのなんと立派なことか。
そう考えてしまうサイだった。
「あの男の子、ケガから回復したみたいで良かったね」
そう言ってソウマたちの状況に安心する母。
サイが新宿タワーに行く事に心配はあれど、立派に頑張っている姿が見れて嬉しいようだ。
「それで兄さん、次はいつ行くの?」
そう聞いてくるのは妹だった。
妹も妹で兄の仕事ぶり(?)が見られて嬉しいらしい。
「あまり危ないことはしてほしくないけど、お仕事だものねぇ……」
そう心配してくれる母にありがたさを感じつつ、予定を話す。
「明日か明後日には、また行こうと思っているよ」
「ねね、おじさん! フロアボスにチャレンジするの!?」
甥っ子は嬉しそうに聞いてくる。
「フロアボスか。たしか色々規則があるんだよな」
フロアボスとは五階層や十階層に出てくる強敵だ。
五の倍数の階層で出てくるのだが、上層へ向かう唯一の階段の前、そこに鎮座し、倒さないと上層へは行けないルールらしい。
フロアボスと戦わずに六階層に行った場合、その冒険者は悲惨な目にあう。
過去、フロアボスと戦わず他のパーティーに倒させて五階層から六階層へ上った冒険者がいた。
その冒険者はラクして六階層へ来られたわけだが、直後制裁のため、倍に増えたフロアボスが、該当の冒険者を襲撃。
どこまでも追いかけてきたらしく、追いかけてきたフロアボスを他の冒険者が倒したら、更に倍になって襲いかかられたそうだ。
そうして亡くなった冒険者がいるらしい。
新宿タワー自体に「五階を超えるに値する」と評価されないといけないのだ。
似たようなズルとして、とある冒険者は五階のフロアボスに対して、大量の冒険者を引き連れて立ち向かったらしいが、そのうち戦わなかった者たちには、先ほどと同様の制裁があった。逆に直接戦ったわけではなくても、支援でも戦闘に参加した者は「五階を超えるに値する」となる。
システムの穴をつこうとする者を徹底的に嫌う。
新宿タワーの意思が、そこにあった。
「普通に戦えばいいわけだから、規則については問題ないよな。五階層のフロアボスって……」
「大型のスケルトンナイト!」
容姿は文字通りスケルトンだが、サイズは三メートルあり、鎧を着こみ、剣と盾を持っている。
異世界にいた巨人種のスケルトンであり、戦い方はわかっている。
面倒なのは三メートルというサイズに合わせた剣のリーチと、巨大な盾によるシールドバッシュだ。だがスキルも魔法攻撃もないため、戦い方さえわかっていれば、そこまで問題はない。
「そうだな……行ってみるか」
幸い前回の冒険で三階層まで確認済みであるし、あの感じであれば四階層も五階層も問題ないだろう。
そんな風に飄々と行くことを決めていると、甥っ子の目がキラキラと輝く。
「すげぇ。もう先輩たちに追いつく……!」
「先輩?」
「うちの学校に冒険者をやってる先輩たちがいるんです!」
なんでも甥っ子の通う学校には『覚醒』した先輩たちがいるらしい。免許制度の特別条件である「覚醒していて十八歳になった者」に該当するらしく、二十歳になる前から新宿タワーに通っているとの事だった。
ふたりとも女子高生ながら才能があるらしく、まだ新宿タワーを攻略し始めて数か月程度だが、ふたりだけのパーティーで八階層まで攻略しているらしい。
未成年でこのペースはかなり早いそうで、ファンも多く結構な人たちが注目してるのだとか。
そんなわけで夕飯を終えた後、居間で一緒にその噂のふたりの配信を見る事になった。今日は攻略してないようで配信はしていないようだが、アーカイブ化された配信がたくさん出てきた。
配信のふたりは随分とかわいらしかった。
背景が新宿タワーという危険なダンジョン内だというのに、ちょっとしたアイドルのようにも見える。配信が始まってすぐに視聴者へ向けて、笑顔で話しだす。
女子高生らしいというべきか元気で楽しそうだ。
「やっほー見てる~?」
「何やってるんですか。行きますよ」
「八階層も頑張っていこー!」
元気そうな赤い髪の子は剣士だろう。赤くて長い髪に日本刀という、漫画かゲームで見たような姿をしている。
真面目そうな青っぽい黒髪の子は魔法使いだ。肩にかかる髪が、きりっとした印象を与え似合っている。彼女はガンロッドと呼ばれる銃型の魔法杖を使っていた。
ふたりとも早速ゴブリン相手に戦闘を始めているが、連携がしっかり取れている。
とても数か月前から冒険を始めた子たちとは思えない。
「この子たち、前々から訓練……いや戦ってたタイプだな」
「おじさん、そんなの見ただけでわかるの?」
「うん。足の置き方とか立ち位置からの予想だけど、剣士の子は数年ぐらいかな。命の取り合い……んん、試合形式以外の戦闘に慣れてるし、剣士としての修行もしてるね。魔法使いの子は、アシストにしても攻撃にしても剣士の子の邪魔にならないように、より動きやすくなるように意識して動いてる」
戦いというのは何も強いスキルや魔法をポンと打てば勝てるというものではない。
後衛が強い魔法を放った時、前衛の動きを見ていなかったら、後衛が前衛を撃つフレンドリーファイアになる可能性がある。
逆にそれぞれが強みを活かすように動けば、自分よりも強いモンスターを倒せるようになるのだ。
「兄さん、よく知ってるね」
「そりゃ教官やってたからっていうのもあるけど、大型のモンスターと戦う時なんて、そういうノウハウがないと大ケガして終わるからな」
「おお、本職っぽい」
「だから本職なんだって」
そんな益体もない話を妹としていると、サイの父が甥っ子に向けて「こういう娘たちが好みか」とデリカシーのない発言をしていた。
そんな父を母が窘め、日は暮れていった。
翌日の朝。サイの自宅。
祖父の町工場跡をリフォームしたサイの拠点。
ひとり暮らしの自宅にしては広くて使いやすく、サイは満足している。
二階は居住スペースとして使われ、一階は冒険者のためのガレージとなっている。
壁にレンガを配置したり異世界から持ち込んだ照明器具を使ったりと、異世界での自宅を思い出すようなレイアウトにしていた。
この場所は武器や防具の手入れに、ちょっとしたアイテムの制作などができる場所となっている。更に一角は訓練用のスペースだ。
その訓練用のスペースで、サイは日課をこなしていた。
自身の体内魔力を活性化させ、体内で魔力を走らせる。
肉体内部に宿る魔力に負荷をかけていく。
右手に強い魔力を走らせる横で、左手に弱い魔力を走らせる。
右足に弱い魔力を走らせつつ、左足に強い魔力を走らせる。
順繰り魔力を循環させていくと、より魔力が身体に順応し、魔法を使う時により良い効果を発揮するのだ。
そうして魔力を走らせつつ、仮想の敵を相手にシャドーを始める。
今日の相手は巨人種のスケルトンナイト。
五階層のフロアボスだ。
異世界で何度となく倒しているし、ソロでも楽に倒せるモンスターだ。
しかし、油断してはいけない。
何が起こるか分からないからダンジョンなのだ。
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