第5話
家族から新宿タワーについて教えてもらった。
配信の件は驚かされたが、サイの中で新宿タワーへの興味は強くなっていった。
日本に帰還してからも冒険者をやるというのは因果的なものを感じるが、あの程度の脅威であればソロでもケガせずにかなりのところまでいけるだろう。
両親は心配そうにしていたが、そこは強引に押し切った。
心配してもらえる事に嬉しく感じるが、サイは異世界ではベテランの冒険者だ。
モンスターと戦う事に関しては、日本でもトップランクの経験者だと自信をもって言えた。
塔について教わってから数日。さまざまな冒険者の配信をチェックしたり、新宿タワーの攻略情報を調べつつ、自身の装備を整えていた。
愛用のブレードは異世界に置いてきてしまったが、それでもアイテムボックスの中には代わりとなるブレードがあるし、他にも武器・防具が大量にしまってある。
キャンプ装備やコンロなどの一部は日本で購入したものを使う事にした。
モンスターとの戦闘については異世界の方が進んでいる印象を受けるが、日常生活で使うものについては地球産の方が進んでいるように見える。
新宿タワーの情報を改めて確認する。
まだ完全攻略した冒険者はおらず、二十六階層以降の情報はない。
塔の外側は二十階以上になると強い霧に覆われ、何階建てかすら明かしていない。
しかし一階の広さや各階の高さから概ね三十階建てと予想されている。
神秘に包まれた塔だ。
塔の中は電気・電波が通るのに、なぜか飛行機やドローンで外観を調べようとすると電波障害や計器不良が起きたり、突如現れたワイバーンによって落とされる。
ワイバーンは、飛行機やドローンを落とした後で悠々と塔の霧の中に消えていくという。「外部から情報を得ようとすること」を嫌悪しているのだ。
そこから言える事は「塔には何者かの意思がある」という事だけだ。
何者かはわからないし、何を求めているのかわからない。
ただ、何者かが介在している事だけは確かだと、サイは想定した。
そういったダンジョンは、異世界で何度か見ている。
そう言った意味でも、サイは新宿タワーの攻略に向いていると言える。
準備が整った翌日。
サイは新宿の冒険者ギルドに向かった。
新宿タワーに併設される形で新宿冒険者ギルドは建てられている。
「異世界でも日本でもやる事は変わらないか」
異世界でも大きなダンジョン付近に冒険者ギルドが建てられている事があった。
人は違えど、思考は似るものなのだろう。
そんな風にひとりごちて冒険者ギルドの中に入っていった。
内部には大きな受付があり、周囲のテーブルでは冒険者やその関係者たちが雑然と会話している。異世界でも見た事のある光景だ。
この冒険者ギルドは異世界の冒険者ギルドに比べて広く大きい。
雰囲気的には区役所や市役所のような場所に似ている。
案内板を見ると、冒険者に必要な各種窓口や施設があり、武器や防具、ダンジョンで使える道具の販売もされている。中には入浴施設などもあるようだ。
サイは受付に声をかけてタワーに入るための免許を取得したい旨を伝えた。
「え、冒険者の方じゃないんですか?」
「はは、お恥ずかしながら初めてなんです」
「それでは隣の冒険者免許センターの方で申請をお願いします」
苦笑いでかわしていたら、冒険者免許センターへの案内を出された。
異世界の冒険者ライセンスなんて、日本では使えない。
ギルドの別館。冒険者免許センター。
ここでは冒険者免許を取得するための講習や実技が毎日行われている。
てっきり、申請したらすぐに新宿タワーに入れるものと思っていたが、どうやら免許取得のために数日この別館に通う必要があるようだった。
異世界でも冒険者のための講義はあったが、最初の講習は数時間程度のものであったし、より詳しい講義は希望者だけだった。
現代日本で講習受けてさくっとダンジョン……というわけにはいかない。
このあたりは異世界と日本の違いだろう。
異世界でも日本でも、冒険者という名前は同じでも役割が違う。
常識なども違うのだから学ぶ事も多いのかもしれない。
その違いにワクワクしながら、サイは講習会に向かった。
最初の講習に向かうとサイの他にも十五人ほどの受講者がいた。
成人して冒険者を目指そうという子なのだろう。受講者は若い子が中心だった。
二十代ばかりであり、四十代はサイだけであった。
サイを見て、若者たちはギョッとしているのは、そのせいだろう。
若い子の中におじさんがひとり。
講習が始まった。
内容は異世界の講義と似たような内容だった。
冒険者がどれぐらい危険な仕事か、ケガの可能性やトラブルについて事例込みで説明が行われた。
説教にも聞こえるせいか、若い受講生は一部眠そうにしていた。
異世界でもこの手の話を軽んじる者はいる。
いつの世も、地球でも異世界でも変わらない話だ。
続けて、配信のための規則やカメラの使い方なども教えてもらう。
配信用カメラは頭部、首元、耳元などにつけるものが主流らしい。
手で持つタイプの高性能なカメラもあるらしいが、サイには関係のない話だ。
配信用カメラのバッテリーは大体八時間もつらしい。八時間以上、ダンジョンに籠る場合はバッテリー交換が必須のようだ。もしカメラが止まった状態で新宿タワーにいるとアラームが鳴るという仕組みとも教本には書かれていた。
講習は五回。サイは免許センターに通い続けた。
講習のコマ数に手厚さを感じるが知識は武器だ。
異世界と日本での違いもあるだろう。
特にダンジョンの情報はしっかり聞くようにした。
テストもあったが、講習内容を覚えていれば解ける問題ばかりだった。
実技も五回。簡単な戦闘訓練とダンジョンでの歩き方の講習だ。
歩き方については斥候役もやっていたサイにとっては常識だ。むしろ教壇に立つ方とも自負している。
この実技系の講習で関心したのは免許センター内に仮想ダンジョンが作られている事だ。内部にはロボットが配置されており、一定のダメージを与えると倒れる仕組みらしい。
叩く場所が決められており、そこを叩くと判定によって倒れる。
威力が弱いと起き上がるため、ここで実力が測れる仕組みだった。
ダンジョン内での歩き方もわかるし勉強になる。
異世界に戻れたら、この仕組みは冒険者ギルドに共有したいところだ。
ゴーレムを使えば、同様の事はできるだろう。
そんな事をサイは考えていた。
彼の心には、今も異世界が残っている。
戦闘訓練では人型モンスターとの戦闘を想定して、模擬戦も行われた。
初心者用の武器防具が貸し出され、全員と戦う流れだ。
武器はどれも木製だが、防具をつけていない箇所に当たれば痛打となる。
更に試合形式は一対一もあれば、一対複数もある。
塔の中を観光したいだけの人には、この模擬戦は大変かもしれない。
だが新宿タワー内にはスケルトンやゴブリンのような人型モンスターも多くいる。
人同士の戦闘訓練は、戦闘の経験を重ねる上で重要だ。
こうして数日かけて行われた講習と資格試験をクリアして、めでたくサイは日本の冒険者となった。
免許には「F」ランク冒険者と記載されている。
Fからスタートして、E、D、C、B、Aと続くらしい。
更に上としてSランクもあるらしい。
異世界でいう特級と同じだろうとサイは予測する。
替えのきかない唯一無二の冒険者に送られる特別な称号だ。
冒険者基準は日本どころか世界基準らしく、諸外国と同じ評価基準を採用しているらしい。
受付でもらった真新しい冒険者免許をかざして見る。
サイは、ひさしぶりの初心者スタートに胸を躍らせた。
さて。これでようやく、本当に新宿タワーへの攻略開始である。
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