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異世界帰りの中年冒険者、日本に戻ってもやる事が変わらない  作者: くまき


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第41話

 サイの甥っ子、浅井健二は、この状況が夢か幻想なんじゃないかと考えていた。


 今、健二は両親と共に母方の祖父母と共に暮らしている。

 その祖父母が「サイ君がお嫁さんを連れて挨拶に来る」と言って、珍しくちゃんとした格好をしている。両親にしても、父はいつもどおりのラフな格好だが、母は普段と違ってオシャレをしている。

 相対《あいたい》する準備は出来ている。


 健二にとって、サイこと彩人おじさんはヒーローだ。

 学校の先輩であり、学校一の人気者。女子高生冒険者。健二からしたら先輩にあたる一条ひよりや九里澪を救った件は学校を賑わせた。

 更におじさんは新宿タワーのソロ攻略で初めて十八階層まで到達したという事で、健二の通う高校でも注目される冒険者だ。


 最近ではメディアのインタビューも受けており、すっかり時の人となっている。

 甥っ子の健二にとって、自慢の伯父だった。

 

 さて、そんな伯父のサイがお嫁さんを紹介すると言ってきた。

 最近は冒険者としても時の人となったおじさん。

 一体、どんな人をお嫁さんに連れて来るのか。


 おじさんが連れてきた女性は、今世間で話題沸騰中のハイエルフだった。


 数日前にテレビやネットで存在が明らかにされるも情報規制なのか、情報がメディアに出回らない謎の女性。どこの筋からか入手された数枚の写真だけが公開された。

 どれも盗撮か、監視カメラの写真だった。

 だが、そんな写真だけでもその美貌が伝わり、特徴的な長い耳とスタイルの良さも相まって評判となった。

 しかも、彼女は異世界人であり、魔力についての講義をするのだという。



 新宿タワーが出現した当時、流行った言葉がある。

『テレビゲームの世界がやってきた』


 高校生の健二でも、よく知っている昔の流行語だ。

 ヘクサリアというハイエルフを見て、健二はその言葉を思い出した。

 あまりにも人間離れした美しさに、つい見惚れてしまう。


 ゲームの世界から飛び出してきたような女性が、今の目の前にいるのだ。


 サイの隣に座るヘクサリアは、美しく華麗だった。

 年齢的には二十代ぐらいにしか見えず、綺麗なお姉さんにしか見えない。

 そのくせ、四十代のおじさんの隣にいるのが当然と思えるぐらい似合っている。


 ふと、健二は家族の様子を見た。

 家族の反応が気になったからだ。


 おじいちゃんが過去一デレデレしてる! っておばあちゃんもデレてる!?

 お父さんもお母さんも、目がハートになってる!?


 なお、健二は自分の顔がデレデレになっている事に気づいていない。

 今この場でデレデレしてないのは、サイとヘクサリアだけだった。


 健二は思う。

 この数日、SNSあたりではハイエルフはかなり怖い存在なのでは? だとかなんとか言われていたけど、全部嘘じゃないか。

 ちょっと上からな物言いもあるけど、こちらに配慮してる事もわかるし。

 いつものジョーホーソーサってやつか。

 そんな風に考えるのだった。


 ちなみに、ハイエルフのお嫁さんの件は、当然のように周囲に話せない内容だ。


 過去に健二はやらかした経験もあるため、固く口止めされた。

 またひとつ友達には話せない大きな秘密を抱える事になった。


 ひとつ気になったのは、サイが申し訳無さそうにしていた事だ。

「彼女がこちらに来たし、俺も異世界に行っていた事を公表するかもしれない。迷惑がかからないようにするけど、万が一の場合はごめん……」

 と謝っていた。


 そう言っていたけど、きっと大丈夫だと思う。

 だって、おじさんはヒーローなのだから。


◇

 

 ピュアな高校生が悶々とする、その時。

 千代田区霞が関あたりの役人たちも悶々とした日々が続いていた。

 異世界人のハイエルフ、ヘクサリアの存在だ。


 紛糾しまくりだった。抜粋してもキリのないレベルだ。

 ヘクサリアからのオーダーは「新宿タワーに入りたい。代わりに魔導技術の基礎を供与する」というものだけなのに、異世界からの特使として扱え~、国会に招聘しろ~、エルフの身体はどうなっている~などなど、未知の相手だと言うのにアレコレと言ってくる人が多かったのだ。


 更に海外からも――どこで情報を掴んだのか――いくつもの国から、是非我が国に~、日本に置いておくのは遺憾~などの意見が届いている。


 ヘクサリアが政府とコンタクトを取ってから、まだ二週間も経っていないというのに、上から下までこの大騒ぎだ。

 情報統制を敷いていたはずなのに、ドシドシ情報が漏れている。


 これで彼女の講義が始まったら一体どうなるのか。


 霞が関の人々は頭を抱える結果となった。


◇


 そして、その時。

 サイの自宅。

 サイとヘクサリアのふたりはあやしげなモニターの前でのんびりお茶をしていた。

 モニターは複数あり、ボタンを押すと、画面が切り替わる。

 これは遠見の術式を用いて、遠くの状況をすぐに知るためのモニターだ。

 つまり魔導版の監視装置……スパイカメラのようなものだ。


 以前、挨拶をした加賀や吉村を経由して、ヘクサリア子飼いの監視精霊を放ち、情報の確認をしているのだ。


「なんとも。人間という者は、どの世界にあっても変わらんな」

「そりゃな。どこで嗅ぎつけたのか、うちの住所まで知ってる奴らだし」

 

 全く、どうやって嗅ぎつけたのか。

 一条家の会合の時は、こうやって周囲を嗅ぎ出す人間はいなかった。

 だが、それから一週間、二週間と経つと、どんなルートを使ったのか。

 外国の政府関係者や自称マスメディアを名乗る人間が、サイの自宅周辺を嗅ぎ回り始めたのだ。


 だが、サイもヘクサリアも黙って見逃すような精神をしていない。


「想定どおりの動きだし、大丈夫だろう。父さんと母さん、妹夫婦、それにあの家にもセキュリティ仕込めたし」

 先日、サイの両親や妹夫婦にヘクサリアの紹介を行ったが、家まで行った目的は決してそれだけではない。

 挨拶をしつつ、裏でセキュリティ系の術式を張ったのだ。

 家族への被害を少しでも抑えるための防衛だ。


「我や貴様に接触できないなら、更に外周から。予想できる範疇だな……」

「隠し撮りを狙う奴に、周囲に聞き込みをする奴……本当に多いな」

「向こうからしたら我は未知の相手、未知の技術であろうに。なぜ平然と無遠慮に動こうとするのだろうな」

「トゥアールにいた貴族のナントカと同じだろ。ほら、魂食らいの魔王相手に金貨を持ち出して交渉しようとしてた……」

「フン。ならばこそ一掃されるだけの話よ」


 そう話すふたりの手には写真があった。

 サイの自宅付近を写真で撮ろうとする者。あるいは聞き込みをする者。

 遠見の術式で撮影したものだが、いずれの人間もサイやヘクサリアに対して取材できないからと、更に周囲へ聞き込みを始め、かなり苛烈に行動を起こした人たちだ。

 彼らの言い分は……少しでも良いネタを仕入れたい。報道の権利がある。

 ちょっとウチに来てもらうよう招待状を渡すだけ……とのことだ。


 それで相手が嫌な思いをしてもかまわない。

 否、そこまで考える気もない。


 たったの二週間。されど時間にして三百時間以上。

 異世界のハイエルフという情報は、瞬く間に拡散され話題に上がっている。

 これほどニュースになるのかと驚くレベルだ。


 だが、サイは現状を想定していた。

 いつの世も珍しい情報は拡散されるのだ。

 それが何かのネタになるなら確実に拡散される。

 サイ自身も体験している。

 魔力制御トレーニングの動画が切り抜かれ、動画配信サイトで凄まじいバズを産んだ事を、よく覚えている。


 ゆえに対策を考えていた。

 ヘクサリアの存在が知られれば、必ず良からぬ事を企む者が出てくる。


 思い返せば、異世界でもそうだった。

 なんとかハイエルフの美姫を我が物に、ハイエルフが開発する品々を自身の手に。

 そういった思惑の人々を何度相手にしてきた事か。

 サイがヘクサリアと出会い、ふたりで活動するようになってから何度となくあった話だ。


 相手の思惑はわかっている。

 ならば、いつもどおり罠を仕掛けるだけの話だ。

 ダンジョンが冒険者に罠を仕掛けるのと同じように。

 

 異世界であろうと、日本であろうと、やる事は変わらない。


 未知の相手に欲をかいたら、どうなるのか。

 サイの相棒に手を出したら、どうなるのか。


 ただ、それだけの話なのだ。

お読みいただき、ありがとうございます。

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