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異世界帰りの中年冒険者、日本に戻ってもやる事が変わらない  作者: くまき


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第32話 第二部オープニング

 サイの両親は、現在サイの妹夫婦にお世話になる形で暮らしている。


 山浪家の長男が帰ってきたのだから、長男と一緒にどこかで暮らす……という話は出てこない。もともと家族仲が良く、特にサイの母と妹は仲が良いから、そういった話にならないのだ。

 サイがいない間、三人で頑張って暮らしてきた結果とも言える。

 そんなサイの両親は、息子が冒険者という危険な仕事について心配していた。

 だが同時にダンジョンでのサイの活躍を配信で見て、うちの息子に関しては大丈夫そうとも感じているようだ。


 不安半分、安心半分といった感じか。


 が、その評価が最近、更に変わりつつある。


「なあ母さん。せめて本人がいる前で、この動画見るのやめてくれない?」

「えー、だって……ねえ?」

 母は嬉しそうに父に顔を向ける。

「異世界に行っていたと言われても正直ピンとこなかったが、サイが向こうで頑張った結果、こういう事になったんだろう?」


 両親はそう言ってほほ笑む。

 甥っ子の健二を含む、妹夫婦も面白そうに見ている。


「僕も見ましたけど、本当にお義兄さんってすごい人だったんですね」

 妹の旦那さんもそう言って褒めてくる。


『魔力は鍛えられる。自宅でもできるから、今日はそれを覚えて帰ってもらうからな』


 画面の向こうのサイは、何十人かの若い冒険者たちに向けて話している。

 魔力制御の基本を教えている姿が映し出されているのだ。


「これでよかったのか……」

 以前、ソウマ、ガクト、テッタの大学生三人パーティーから教えを求められた。

 それに対してサイは快諾した。

 異世界で学んだ魔力制御の訓練法や冒険者のイロハを伝授するためだ。


 ひよりや澪のように秘密を共有していないため、異世界の魔法を教えるのは憚られる。そのため、ヘクサシールド辺りは教えない予定だ。

 だが魔力制御や冒険者としてのノウハウは、異世界とも関係ない話だし、これで少しは新人が鍛えられ、冒険のリスクが低減するなら……という想いで承諾したのだ。

 

 けれど、教える日は結局、魔人との戦いや年末年始もあったせいで年明けになってしまった。


 レッスンの数日前。

 ソウマたちが所属する大学の冒険者サークルのメンバーも参加したいと言ってきて、これを承諾。まとめて大人数に教えるという経験はそこまでないが、三十人程度なら、まあいけるだろうと考えていた。

 

 そして当日。

 参加者のひとりがカメラで撮影しても良いか? と聞いてきた。

 なんでも冒険者の配信サイト『Tower Tube』に上げたいらしい。

 確かに『Tower Tube』は、本質的に新宿タワーで戦う冒険者たちのために用意されたサイトだ。そのため、レッスンを載せる目的で動画を載せることもできるらしく、今後も増えるであろう新人冒険者が学ぶ際の参考になるかもと思い、許可した。


 レッスン自体はバッチリ成功した。

 参加者は真剣にやってくれたし、異世界でやっていた教官業がしっかり活きた。


 地球において魔力を鍛える方法というのは、過去から現在にいたるまで、様々に提唱されてきたが(インチキは除外したとしても)どれも非効率的な内容だった。

 定説で有名なのは、ダンジョンで戦い続けると魔力総量が上がる。

 否そもそもダンジョンにいるだけでも、魔力総量が上がる。魔力が豊富なダンジョンにいれば、魔力総量は微々たるものだが、上がっていく。

 この辺りの話は正しいのだが、当然効率が悪い。


 そこへ来て、今回サイが伝えるトレーニング法だ。

 かなり画期的だったらしい。


 そもそも魔力の制御を体系的に教えるという話がなかったのだ。

 従来の話では、テレビゲームのRPGのように魔力の消費量は画一であり――MP十消費だったら、この十は固定――という風に思われていたらしい。


 魔力制御で魔力消費が改善されるなんて話は誰もしてこなかった。

 サイの講義はそこを突いた話だ。

 魔力を制御する事で消費魔力を抑える事ができる――効率的に運用することで無駄な魔力を消費せずに魔力を使いこなせる。

 しかもトレーニングを続けたら、魔力総量も上がる。

 こんな話をして飛びつかないわけがない。


 後日、実際に参加者は参加後、しばらくして自身の魔力制御がうまくなった事を実感した。ついでとばかりに教えた冒険者のイロハも、冒険者ギルドが主催している講習より濃い内容であったため好評を博した。


 うまくいって、サイとしては満足だ。その日は本当に気分が良かった。


 それからしばらくして、ソウマから動画が公開された旨の連絡が来た。

 『Tower Tube』に上がった動画を見て、自身が先生している姿を動画越しに見て「俺こんな声してたのか」と照れたりしたが、まあいいだろうと思っていた。


 新宿タワーで戦っている時も喋る事があり、それは配信に乗っている。

 だというのに、攻略時と講義をしている時で声音が違うのはどうしてなのか。


 そんな風に思っていたが、問題は別の場所から飛んできた。


 別の場所。つまり、このレッスン動画が『Tower Tube』以外の動画サイトに無断転載されたのだ。世界的に普及しているという動画サイトにアップされたレッスン動画は、気づいた時点でものすごい量のコメントと動画切り抜きでバズっていた。

 バズりまくりだった。


 サイ自身が消してくれ! と願っても、もはや当人にも大学サークルのメンバーにも対処できない。様々な言語で翻訳され、転載され、切り抜きまくりなのだ。

 一部海外からのコメントや、試してみた動画的なものもあり、事態の収拾がきかない状況なのだ。


 この状況に対して、すごく喜ぶ人たちがいた。


 両親や妹の家族だ。



 両親曰く。 

 三十年行方不明だった息子。ほんとうに苦しい日々だった。

 行方不明となった息子を探すビラを作って捜索したり、行方を調べるためにテレビに出た事もあるとの話だった。


 そうして苦しい日々を続けていた。

 だが、両親にはもうひとり子どもがいる。

 サイの妹だ。

 妹も兄がいなくなった事はショックだったが、両親が行方不明の兄を探す――行方も知れぬ兄にだけ《《かまけている》》姿というのは苦しかった。


 それから数年後。彼女が成人した姿を見た時、両親は妹をまともに見れていなかった事に気づき、これを謝罪。改めて家族をやり直したらしい。


 それから妹が結婚し、旦那さんが入り婿となり、孫が生まれ……。

 苦しかった事もあるが、それでも今ここにいるみんなで頑張ろう。

 そんな思いで日々を暮らしていく中、ひょっこり息子が帰ってきたのだ。

 行方不明になって三十年経ち、もはや死んだものと思っていた息子が……彩人が帰ってきたのだ。


 どこにいたかと言えば異世界だという。

 嘘をついている可能性もあったが突然消えたという状況と、異世界で手に入れたという――大量の金貨に、異世界の道具だというアレコレ――を見せられれば信じざるを得なかった。

 それに「当面の資金にするため、金貨をインゴットにしたい」なんて相談をされた時、おずおずと言い出す姿は小さかった頃の彩人むすこのままだった。

 大きく逞しくなっても変わらない、あの頃の息子だった。

 

 そうして息子は新宿タワーに通うようになった。

 日本では職歴も何もない息子だが、向こうでは冒険者をやっていたらしく、こちらでもそれを仕事にすると決めた。


 新宿タワーは稼げるが危険なところだと知っている。二〇〇〇年以降、毎日何がしか新宿タワーに関連するニュースがでてくるのだから、嫌が応でも知ってしまう。

 そんなところへ向かう息子が不安でならなかった。けれど、息子に紹介してやれる良い仕事というのも提案できなかった。


 だが、息子はそこで大活躍をした。

 ある時などは孫の高校の先輩を助けたとも言う。息子の配信を見て頑張っている姿が見られて心配はあるけど、嬉しくもあった。



 そうして今回の動画だ。

 若い大学生たち相手の先生をやる姿というのは、両親として相当クるものがあったらしく「息子が頑張っている!」「サイ君すごい!」と、すごく喜ぶのだ。


 喜ばれるとなると、サイは対応に困ってしまう。

 両親のためにも騒ぎにならないようにと思っていたのに、その両親が一番喜んでる状況だからだ。

 今更トラブルの元になるから消す、とは言えない。


 そもそも、異世界転移の件で散々苦労をかけさせてしまったと知っているのに、日本に帰ってきてから、まだちゃんと両親に恩返し的なものができてもいない。

 喜ばせたい相手だが、喜ぶ何かをできていない。

 以前、温泉旅行をプレゼントしたが、多分両親が一番に求めているのはそういう事ではない。

 だからこその迷いだった。


 妹夫婦の家の居間でサイの動画を見ながら、のんびりする家族を見る。

 なごやかで平和な姿に、サイはひとり安堵する。

 ……喜んでくれているならいいのかな。

 そんな風に考えていた。


「これで後は、サイ君にいい人がいてくれたら……」


 サイの母がサイの方を見て、ふっとそんな事を小さくボヤくのだ。

 言い換えると「結婚はまだか」「孫の顔が見たい」という事だ。


 サイは、そんなボヤきをそっと無視することに決めた。

 モニターの自分を見てると思わせた。


 こればかりは両親へ何も言えない、どうにも返しづらい内容だからだ。


 中年のおじさんは、人に話せない秘密のひとつやふたつ持っているものなのだ。

お読みいただき、ありがとうございます。

第二部の開始でございます。

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― 新着の感想 ―
うん、お茶の間で四十路独身男に稼ぎと結婚の話はやめてくれ。 団欒の場が一気に針の筵よ。 スーパー中年でも、出来ないものは出来ないんですよ!
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