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異世界帰りの中年冒険者、日本に戻ってもやる事が変わらない  作者: くまき


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第33話

 その日。サイは、新宿タワーへ冒険に出かけていた。

 新人冒険者の指導もするが、まだまだ現役と言わんばかりに冒険者も続ける。

 どこまでいけるかわからないが、いけるところまで攻略を進めたいおじさんだ。 


 現在は、新宿タワー十七階層。


 この階層ではブラッドタイガーや精霊狼など、異世界で中級冒険者が相手するモンスターが闊歩している。

 更に知能が高く対処が面倒なサンダースパイダーまで配置されているようだ。


 少しずつ、だが確実に強敵が出てきている。

 これまで以上に慎重に戦う必要がある。

 

 十七階層を探索しつつ、出てくるモンスターを倒して回る。


 スピリット系のモンスターを魔法で処理していく。


 新宿タワーは、ダンジョンをいくつも踏破してきたサイからしても特殊だ。

 一階層から五階層は新人冒険者向けで、モンスターはただ突っ込んでくるだけ。

 六階層から十階層はダンジョン初心者向け。モンスターは思考をはじめ、集団で攻撃してくるようになるし、罠も出てくる。

 十一階階層から十五階層から中級者向け。モンスターは少しずつ膂力・魔力共に高くなっていき、いやらしい攻撃もしてくるようになる。

 十六階層から二十階層も中級者向け。日本では上級者と言われるが、異世界ではここも中級者クラスとされる強さだ。

 モンスターは更に強くなっていくし、罠も更にいやらしいものが増えてくる。

 

 だが、十六階層以降で、一番の問題はマッピングだ。


 数日おき程度でダンジョンの道筋が変化していくのだ。

 人がいる場所は変化せず、見えないところから組み変わる。

 組み変わらないのはセーフエリアと転移装置の場所だけだ。

 ゆえにどれだけ緻密なマップを作ろうとも有効期限は数日。


 上の階層にいくのであれば、その数日のうちにマップをまとめて、上階へ向かう階段を見つけなければならない。


 まるでダンジョンが冒険者の成長を促すかのような配置をしている。

 これが新宿タワーの意思だというのか。


 ちなみに十六階層以降からは、サイは宝箱を見つけたら開けるようにしている。

 単純に十六階層以降で手に入るアイテム各種は、高値で売れるからだ。

 特に一番求められているのは様々なポーション関係だろう。

 回復ポーションに毒消しポーション、魔力回復ポーションといったものだ。


 十六階層以降だとポーション系は、上級のものが出てくる。

 売値は、一本で一般的なサラリーマンの年収ぐらいの値段となる。

 えぐい値段で売れるのだから、回収するのも当然だった。


 新宿タワーができて以降、さまざまな産業がダンジョン由来の素材やアイテムを元に開発を進めている。製薬会社のような医療関係企業は、冒険者の取ってくるポーションを元に開発を進め、新薬を開発している。

 当然だろう。ケガや病を驚きの速さで治癒せしめる回復薬だ。

 既存の薬から大きくかけはなれた存在に、手を出さないわけがない。


 だが現状、どの企業も回復ポーションを一から開発する事はできていない。

 元となる素材が手に入らないせいだ。

 どういったものが必要か、ある程度の予想はあるようだが、地球上で見つかっていない素材が必要と言われている。

 作る事のできない奇跡の新薬。それが回復ポーションの立場らしい。


 ……それはそうだ。

 ポーション類に必要な素材は異世界で育つ植物が元になっている。

 ダンジョンに生えている植物でもポーションは作れない。

 つまり、その植物は現在、地球上に存在しない。


 サイからしたら、逆に、なんでこれが地球にあるのだと思ってしまう。

 新宿タワーが異世界と関係している事はわかっている。

 だが、因果関係が読めず困惑してしまう。


 考え事をしながらも、通路をまっすぐ進んだり曲がったりする。

 いくつも進んでいくと小間(小さな部屋)が見つかった。

 サイは宝箱を求めて、入る事に決める。


 ついでに配信を見てくれる人向けにも喋りだす。

「さて、この配信を見てる人のためにちょっとしたレッスンをしようと思う」


「扉を見つけた時、宝箱を求めて、すぐさま入るのだけは絶対にやめてくれ」

 気配察知でモンスターの存在を確認

 脳内でいくつか想定を始める。


「その先に、どんなモンスターがいるか。足音、声、匂い。扉を開ける前の時点でも読める事は結構あるんだ」

 だが、目の前の小間からは足音も声も何もない。

 

「集中して聞いて何も聞こえないから、入っていいってわけじゃないぜ? 待ち伏せや罠の可能性もある。ちなみに十七階層あたりでそういう事をするモンスターっているよな? ……ちょっと集中して動くから、見ててくれ」


 小間の扉を蹴り開く。

 そこはサンダースパイダーの巣穴と化した小間だった。

 素早く罠の気配を確認。……罠は無し。


 糸で扉の開閉を把握していたのだろう。

 開けた瞬間、蜘蛛が糸を吹きかけてきた。

 糸に触れるとキツめの電流を食らう事になるため、絶対に触れてはならない。


 絶縁された手袋があれば問題ないと考えるやつもいるが、そうやって触れると、糸の強い粘着性に頭を抱える事になる。

 糸の処理は風による対処がベストだ。

 

 サイはすぐさま風属性魔法、ウィンドカッターで糸を切断していく。

 これで切断された箇所に魔力は通らず、糸による雷撃をかなり無効化できる。

 とはいえ、切れても足元に糸が残ったままだし、多少の隙間、電気なら伝ってくる可能性がある。

 これがサンダースパイダーの厄介なところだ。


 更に、サンダースパイダーは雷属性の魔力弾を発射してくるため、油断してはならない。ベタなのはヘクサシールドで魔力弾を受け流すことだが、ここは地球だ。視聴者にヘクサシールドを見せても良いが、使えない技を見せるのは教官失格だ。


 今回は地球産の害虫駆除を試してみる。


 カメラに映らない位置でアイテムボックスを開き、特製の道具を取り出す。

 人間でも飲めない程、濃いコーヒーでミントを煮詰めて、瓶に入れたものだ。

 トッピングに細かく砕いたコーヒー豆とミントの葉、殺虫剤が入っている。

 

 このコーヒーと呼ぶにも憚られる産物を水魔法で蒸気化させて小間を満たす。


「ギィィイィィィ!?」

 

 サンダースパイダーが狂った声を吐き出すが、サイはさっさと小間から出た。

 扉のすぐ傍で、しばらく待つ。


 蜘蛛というのはコーヒー……カフェインを摂取すると酩酊状態になる。

 ミントはモンスターに限らず昆虫系全般に有効だ。案の定、奇妙な雄叫びを上げて小間から逃げ出そうとするサンダースパイダ―。


 なまじ知能があるがゆえに、そういう行動を取ってくる。

 知能があるゆえに、その行動は読みやすい。

 サンダースパイダーが小間から飛び出してきた瞬間にブレードで頭胸、腹を二分割にして、トドメとばかりに頭と胸も両断する。

 異世界にいた頃は、このような倒し方を知らなかったサイだったが、ここは地球であり、地球のノウハウが活きた結果だ。


 とある冒険者が、この方法で倒してる姿をみて感銘を受けて、今回はこの道具を用いて戦うようにした次第だ。


「以前、拝見した冒険者の方がやっていた方法を真似させてもらった。ミントカフェイン爆弾。知ってる人も多いと思うが、このとおり、簡単に倒せるな」


 小間の中から濃密なコーヒーとミントを混ぜた匂いがする。

 冒険者たちが日夜戦う新宿タワーをコーヒーとミント臭くするのは、ちょっと罪かもしれない。


 そんな事を思いつつも、道具がうまく再現できて、サイはひとり感動した。


「こっちの人もすごい工夫するな……」

 

 そんな事をぼやきながら、小間の中へ改めて入る。


 いくらかサンダースパイダーの糸が残っていた。


 新宿タワーでは、モンスターの消滅と共にこういった残留物も消えるのだが、時折一部が残っている。この糸も、企業に高額で売れるので回収していく。


 宝箱もあった。手早く罠の確認をするが罠は無し。

 中身は中級の毒消しポーションだった。


 多くの毒を無効化するという万能の消毒液であり、飲んでも効果を発揮するという優れ物だ。これもすごい金額で製薬会社に売れる。


「中年のおじさんにはしんどいけど、攻略を進めていくぞ」


 そろそろ限界と嘯くサイであったが、配信を見る視聴者たちが呆れるほど余裕の手際でモンスターを処理していき、十七階層を進んでいく。


 そうして時計が二十四時を超える前には、十七階層を踏破。


 十八階層まで歩を進めるのだった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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