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異世界帰りの中年冒険者、日本に戻ってもやる事が変わらない  作者: くまき


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第26話 新宿魔人戦線③

 新宿タワーを中心に広域にて、政府より「不自然な魔力反応による避難及び警戒指示」というものが発令された。


 その日。十五時以降、冒険者は新宿タワーで活動している者以外、タワーへの侵入不可。逆に、新宿タワーから外に出る事を禁じられた。C級以上の冒険者は冒険者ギルドの指示に従うこと、D級以下は自宅に帰るよう通達が為された。

 一部の冒険者や一般市民より反対意見もあがったが、過去新宿タワーにて発生した規則違反者に対するガーディアンの制裁という事件もあり、反対意見以上に「死にたくなかったら逃げろ」という意見の方が強かった。


 同十六時、退魔師たちが新宿周辺に出動。

 その中にはひよりや澪の姿もあった。

 普段、退魔のお仕事をする時は私服だが、今回は冒険者の装備での参戦だった。

 相手は中級クラスの妖魔となるが、一体どのような敵かわかっていない。

 わかっている事は、ただ強いという事だけだ。

 そのために下着の上に斬撃耐性のあるスーツを着込み、耐衝撃性のある服を着こんでいる。その上でサイから防具になるアクセサリーを借りてきた。

 武器はいつものものだ。

 ひよりは愛刀『白祓しろばら』。澪は棍型の魔法杖だ。


 まだ予告の時間より早い到着であったため、みなリラックスした状況だった。

「うひー、人全然いないね」

「新宿で、ここまで人気ひとけがないと不気味に感じますね」

「お嬢。今周囲を警戒しているもんから連絡が。一部避難してないバカども……カメラ構えた奴らを発見したそうで対応中のようです」

「うん。いつもどおり対応お願い」

「へい」


 新宿の広域で避難指示だ。

 どんなヤバい奴がでるのか、是非カメラに収めたい。

 そう考える命知らずは存外少なくない。ひよりは教わっただけだが、以前は報道の人間だけだったが最近は一般市民もこっそりカメラに収めようと隠れて撮影する者も多いらしい。

 だが、こちらは長い間退魔師として日常の裏で暗躍していた組織だ。

 そういった覗き(ピーピング)趣味の人には、相応の対応をする決まりだ。

 ひとりの覗き趣味のせいで、多数の一般市民が混乱におちいる可能性があるのだ。そんな非道を許すわけにはいかない。素直にご退場いただく。

 そういうフローが出来あがっていた。


「妖魔退治の最初の仕事が《《人払い》》っていうね」

「普段使ってる人払いの結界は使えないんでしたっけ?」

「新宿タワー付近に来る事は予告から分かっているけど、具体的な場所まで明確じゃないからね。逆に出てきたら、そこに合わせて結界を張る予定」


 退魔師たちが戦闘前に必須で行う作業のひとつが、人払いの結界だ。

 妖魔という日常の裏に潜むモンスターを一般市民に見せないため、必須の術式とも言える。だが、これはあまり大きな範囲では使えない。

 そのため、今回は一条家をはじめとする退魔連と政府が共謀し「新宿タワー周辺で異常な魔力を検知したため避難させる」形に収まった。

 新宿タワーでの問題は、過去に何度もあったため納得されやすく、一般市民の動きもはやかった。ある意味、新宿タワー様々である。

 ……そんなことを話している最中だった。


「四谷三丁目付近にて、妖鬼の反応多数! 前線組対応をお願いします!」

「中級クラスの妖魔じゃないの!?」

「手下かもしれません。行きましょう!」


 ひよりと澪が現地に到着すると、そこは餓鬼や邪鬼、悪鬼がひしめきあう戦場と化していた。既に多くの退魔師が戦っている。


「中級クラスはいないようだけど、この量か……」

 これまでに見た事のない量の妖鬼の群れに、ひよりは愕然とする。

「各チーム、封印術で鬼どもを封じて確実に対処していけ!」

「「「おう!」」」

 前線部隊の隊長が退魔師たちに指示を出す。

 現代の退魔師たちは、封印術で敵を封じて、それから殺していく形がベストとされている。魔力は少々食うが安全に確実に倒せるため、この流れが重宝されていた。

 しかし、その封印術で容易たやすく処理できない相手がいる。

 それが中級クラスだ。


「見てください、ひより!」

「げ、牛鬼ぎゅうきじゃん!」

 牛鬼とは下級上位、あるいは中級下位とされている異形の妖魔だ。

 凶悪な魔力を持ち、一般の退魔師では敵わず、かなりの脅威と言える。

 ひよりの認識ではゴブリン上位種のレッドキャップより強い。

 現に牛鬼を相手にしている退魔師たちは封印術も効かず、ダメージも大して与えられず、苦戦している。

「澪ちゃん、アレの相手は私たち!」

「はい!」

 ひよりと澪が牛鬼に突撃を始めた。


 この時、とあるビルの屋上から退魔師の戦いを見ている者たちがいた。

 全身が赤い大男、争雅そうが。狐と妖魔の半獣半妖である慮狗雅りょくがのふたりだ。

「おお、現代の退魔師もなかなかどうしてやるではないか!」

「フン。昔と比べて弱っちくね」

 争雅は嬉しそうに、慮狗雅は面倒くさそうに答える。

「ふふ、そう言うな。ずっと魔力のない中、ここまで鍛えたのだ。良きかな!」

「はん! さっさと殺せばいいのに」

「全く慮狗雅よ。殺し合いを楽しめんのはいかんぞ!」

「そう言って退魔師に鼻を斬られたバカがナニ言ってんよ」

 全身が赤い大男の争雅。その大きな鼻は斬られてしまい鼻腔が露出している。

「カカカ! 全く自慢の長鼻だったのだがな!」


 そう。過去、赤い大男には大きく長い鼻がついていた。

 赤い肌に大きな体躯、大きな長鼻の妖魔と言えば誰しも想像できる。

 その姿を見た者は、彼をこう呼んでいたはずだ。


 天狗と。


「そーいや、禁雅きんがはどこ行ってんの?」

「うむ。なんぞあの塔……新宿タワーと言ったか。あれを眺めておるわ!」

「アレさぁ、ほんとなんなの? 現世うつしよにあっていいもんぢゃねーでしょ」

幽世かくりよでは《《まともに》》見られん代物だ。せいぜい有効に活用せねばな! カーカッカカカ!」


 ひよりたち前線で戦う退魔師たちの戦闘は続く。

 下級とはいえ大量の鬼に、退魔師たちは一時押され気味であったが魔法使いの部隊が大量の魔力弾を放つ事で趨勢すうせいに変化が生まれた。

 またひよりの手による牛鬼撃破が、退魔師たちを勢いづけた。


 牛鬼撃破で、一息ついたひよりは澪に声をかけた。

「ふぅ、思ったより呆気なかったね」

「そうでもありませんよ。周りを見てください」

「あれ……」

 多くの退魔師たちが既に疲弊しきっていた。

 一般的な退魔師たちも新宿タワーで修行しているというのに、なぜ体力にここまで差が出ているのか。

 ひよりはこの光景に驚くも、サイの言葉を思い出した。


「魔力制御のトレーニングってのは、言ってしまえば筋トレの魔力版だ」


 たったの二ヶ月ながら必死に魔力のトレーニングしたからじゃないか。

 結果、魔力をより制御できるようになり、魔力自体の総量も増えたのだ。

「そっか。せんせの言ってた事、ほんとだったんだ」

「そうみたいですね。たった二ヶ月のトレーニングでも充分効果があったと」

 その時、ひよりたちの近くでドン! と大きな物音がした。


 何者かがビルから飛び降りてきたのだ。

「ガハハハ! 最近の退魔師は軟弱じゃのう!」

「ザコどもは死んぢゃえよ!」

 ふたりの妖魔が、眼前にいた退魔師たちの首を一瞬のうちに断った。


「!?」


 慌てて周囲の退魔師たちが、ギリギリの体力の中、距離を開こうとする。

 しかし、足を負傷していた退魔師がひとり逃げ遅れた。

 間抜けな退魔師を現世うつしよから退場させようとする妖魔。

 妖魔が作った魔力弾が退魔師の元へ放たれる。

「キャハハ、死んぢゃえ!」

「ひぃ!?」


 逃げ遅れた退魔師が悲鳴を上げる。

 その瞬間。白祓による一閃は、魔力弾を弾き飛ばしていた。

 ひよりが割って入ったのだ。

「これ以上やらせないって!」


「へぇ、まだ活きがいいのが残ってんぢゃん。あんたたち名前は?」

「……ひより。一条ひより」

 ひよりは愛刀の『白祓しろばら』を構えた。

 更に距離を詰めつつ、澪が魔法の射撃態勢に入った。

「九里澪です」

「あん? 一条って、まだ子孫が残ってんのかよ」


 ひよりの霊感……魔力覚が、相手の戦力を測る。

 半獣半妖の妖魔は、牛鬼の何倍ともいえる魔力を有していた。

 普通に戦えば負ける可能性が高い。

 ゆえに、ひよりは煽る。

「うちのご先祖様にやられたクチ?」

「ざっけんな! ウチが、あんなザコどもにやられるかよ!」

 過去に何かあったのだろう。

 苛立たししげに叫ぶ半獣半妖の妖魔。

「カカカ! そうキレるな慮狗雅!」

 どうやら、あの半獣半妖の妖魔は『慮狗雅』という名前のようだ。

 ひよりが聞いた事のない名前だ。


「あなたたちですか、あの予告を出した妖魔は」

 澪は努めて冷静に質問した。

「あん? ウチらが妖魔ぁ~?」

「ガハハハハ! そうか、我々のことは失伝しておったか!」

 何やら、大きく嗤う赤い大男。

「ウチらは『魔人』だよ、バ~カ!」

 あざ笑うように慮狗雅が答えた。

「魔人!?」


「隊長さん、急いで結界を張って!」

 ひよりは慌てたように前線部隊の隊長に叫ぶ。

 隊長は慌てて人払いの結界の準備に走る。


「ひより、魔人ってなんですか?」

「すっごく強い妖魔と覚えておけばいいよ。ネームドモンスターみたいなもん」

「なるほど……」

 澪は生唾を飲んだ。


 ひよりの目算では、このふたりの魔人は中級上位ないし上級クラスの妖魔だ。

 新宿タワーでいえばフロアボス十五階層のフロアボスだろうか。

 サイであれば戦えるかもしれないが、ひより達では敵わない相手と言える。

 嫌な汗が背中をつたう。


 子どもの頃から「万が一、魔人を名乗る妖魔が出たら、何があっても逃げろ」と躾けられたひよりは少し手が震えた。

 しかし、澪は冷静に敵を見ていた。

「ひより。眼前の魔人とやらは、先生より強いでしょうか?」


 その言葉で、ひよりから魔人に対する畏れが消えた。

 眼前の敵よりも、師たるサイの方が強いように見えたからだ。

「……さすが澪ちゃん。たしかにこいつらよりせんせーの方が強いわ」

 ひよりと澪が構え直す。

「ほう、ワシらより強い人間がおるのか! ならば、どちらが上か試さねばな!」

「死んどけよ、退魔師!」

「我が名は争雅そうが! 人の子らよ、易々と死んでくれるなよ!」


 同十八時。

 敵の首魁。魔人との戦闘の幕があがる。


 後に『新宿魔人戦線』と呼ばれる戦いのクライマックスが始まった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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