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異世界帰りの中年冒険者、日本に戻ってもやる事が変わらない  作者: くまき


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第25話 新宿魔人戦線②

 ひよりと澪は、日本退魔連合関東支部のビル爆破現場に入っていった。

 爆破の中心地は三階。

 そこでは数人の男女が現場検証を行っていた。

 壁には何やら赤い模様が描かれていた。

 その近くには、ひとりグズグズと泣いている者もいる。


 いずれもひよりと澪の同僚だ。

「よぉ、ひよちゃん。来たか」

「おつかれ。桜庭さくらばのおじさん」

「お疲れ様です。それで、どんな感じですか?」

 桜庭のおじさんと呼ばれた男が、渋い顔をする。

「そうだな……。まず被害状況を伝えると、三階にいた奴らは全滅。他の奴は多少ケガしちゃいるが、なんともねえ。一番、被害なかったのはこいつか」

 グズグズと泣いている男だ。


 桜庭は辟易とした顔で泣いている男を注意する。

「おい。いつまでも泣いてるんじゃねぇよ」

「俺が気づけなかったせいで……うぅ……」

 澪は、男性のあまりの落ち込みように驚いた。

「何があったんですか?」

「ああ、こいつに代わって答えるが……どうやら人間爆弾みてえだな」

「は? 人間、爆弾……?」

「あんましお嬢ちゃん方らに話したくねえ、けったくそ悪い話だが、覚悟して聞いてくれよ?」


 今朝、矢代やしろという退魔師がビルに入っていった。

 管理人は声音から調子が悪そうに感じたが、特に気にせず入館許可を出した。

 矢代がビルに上がり、数分後、爆発があった。

 慌てて管理人が現場に駆け上がると、そこには矢代を中心に死体の山ができあがっていた、という話だ。


「おかげで三階にいた退魔師連中は全滅ってわけだ。途中まで監視カメラが生きててな。サーバーに残ってた情報からも裏が取れた」

 心底嫌そうに語る桜庭。ひよりと澪は、その話に驚愕した。

「ひ、人が爆弾に……?」

「…………」

 澪はその事に驚愕し、ひよりは沈黙したまま思考を走らせる。


「多分何がしかの呪術か魔法で、矢代を操ったんだろうな。んで、後は矢代自身の魔力を使って、ボン! ってこった。強制メガ〇テかよ。ふざけやがって!」

 ひよりは努めて冷静に質問をする。

「それをやった妖魔は?」

「少なくともここにはいねえ。気配もねえし、来てすらいねえ。だが、こいつを見てくれ」


 壁にあった模様と思われたものは文字だった。

壁に大きく「今宵新宿にて。塔を頂き候」と赤い文字で描かれていた。

 赤い理由は、それが退魔師の血であるせいか。


「新宿で塔って新宿タワーのことですよね」

 ひよりは澪の言葉を無視し、壁の文字を睨んだ。

 過去、こんな事ができる妖魔にひよりは会った事がない。

「桜庭のおじさん。この文字書いたやつ、どれぐらい強そうかな?」

「残留魔力からの予想だが、普段相手にしてる妖鬼どもの何倍じゃきかねえ相手だな。吉田にも伝えているとおり中級クラスと見て間違いねえ。少なくとも俺じゃ手も足も出ねぇよ」


 桜庭は魔眼の持ち主で、その異能を使った調査は得意だが戦闘はからっきしだ。

とはいえ、その魔眼を使った封印術を持っている。低級であれば妖魔を封じる力があるのだ。

 その男が「俺でも封印できる」ではなく「俺じゃ手も足も出ない」と言った。

 普段、相手にしている低級の妖鬼を最下級として、今回の相手は中級クラス。

 戦闘能力は、ひよりが以前新宿タワーで相手したゴブリンの上位種レッドキャップが束になっても敵わない相手だろう。

 新宿タワーなら十五階層……否二十階層クラスのモンスターと見ていい。

 そして、その数は不明。

 戦力差は絶望的と言っていい。


「澪ちゃん」

 たまらずひよりは澪に声をかけた。

「一緒に戦いますよ」

 ひよりの不安を肌で感じ取った澪は、きっぱり言い放った。

「ほんとごめん。助かる」

「ふふ、一緒に強くなろうって話したじゃないですか」

 澪の微笑みを見て、ひよりは改めて自分に喝を入れた。


 その後、桜庭たちにいくらか相談しつつ、ひよりと澪はビルを後にした。

 今宵というのが何時頃かわからないが、少しでも多く準備に時間を費やしたい。


 ひより達は、吉田の待つ車内に戻ってきた。

 ふたりが入ってくる姿を見て、吉田は質問をする。

「それでどうします?」

「せんせに防具の相談かな。わたしたちの持ってる防具じゃ、中級の妖魔を相手するには心もとない」

「防具……確かに魔力防御に長けた装備があると嬉しいですね」

「事情はあんまし話したくないんだけど、ね……」

 今回の妖魔はヤバいとは肌でわかっている。

 だが、同時に「この程度の相手で、もう甘えるのか?」という気持ちもあった。

「私たちの先生なんですから、きっと何か良い案をくれますよ」

 澪はそう言って微笑んだ。



 その日、サイは自宅で自身の鎧の調整を行っていた。

 異世界で使っていた装備の上に日本製の鎧の一部を貼り付けて、装備を偽装しようという試みだ。

 十五階層のメイジキマイラは、日本製の武器防具でなんとかなったが十六階層以上だと、正直日本製の装備は不安要素しかなく、ならばと以前から温めていた装備の偽装に着手した流れだ。

 以前からやろうと思っていたが、ひよりと澪を弟子にとる事になったりして後回しになった結果とも言う。


 トンテンカンとハンマーで鎧の一部を叩き伸ばし、異世界で使用していた革鎧に貼り付けていく。

 日本製の防具というのは素材的には悪くないものの、術式が全然刻まれておらず、魔法への防御も耐性も付けられない。

「魔導鋼の技術、こっちでも生まれないものかね」

 素材自体に術式を刻む異世界の技術を、つい地球に求めてしまうサイ。

 ないものねだりである。

 ボヤきながらも、だいぶ形になり「これなら日本製の鎧と思われそうだ」と、出来上がりにニヤニヤしていると、スマホが鳴った。


 時間帯は昼前。

 やってきたのは、制服姿のひよりと澪だった。

「やっふー!」

「突然失礼します。先生」

「おう。本当に突然だな。まあ上がってくれ」


 少し前にスマホで「今からお邪魔しに行く」と連絡があり、やってきたのだ。

 ガレージに、いつものテーブルを設置し、ふたりにお茶を用意する。

「あれ、せんせ。これって……」

 ひよりと澪は、サイの加工していた鎧を見ているようだった。

「それ? ふふ、いいだろう。異世界で使ってた軽鎧を日本でも使えるように偽装していた」


 日曜大工の気分だが、いい感じに作れて結構自慢である。

 ひよりは、その鎧を持ち上げ眺め始める。

「うわ、軽っ……何この軽さ。手触り、っ!」

「鎧は防御力を支える部分だが、軽量化させつつ、どれだけ耐性術式を乗せられるかだからな」

「先生は、鎧に耐性系の術式をつけられるんですか?」

「いや俺自身はできないよ。これは異世界の相棒に作ってもらってた」

「そうでしたか……」

 澪が少しシュンとした。


「どうしたそんな顔して」

 ふたりにお茶を出しつつ、話を聞く事にした。

「いやぁ……実はまさしく防具のことで相談に来たんだよ」

「防具?」

「実はさ、ちょっと強い妖魔と戦う事になりそうなんだけど、今の防具じゃ不安でさ。とはいえ、冒険者として使ってる防具じゃ、魔法防御とか全然弱いし……」

「そういえば、そこらへんの話あまり聞かなかったけど、普段退魔師の仕事の時って防具どうなってるんだ?」

「普段……」

「普段ですか……」


 ふたりして、明後日の方向を見始めた。

 そして意を決して喋る。

「汚れてもいい恰好!」

「……要は私服ですね」

 まさかのノー防具だった。

 当然だが、私服を防具として認めるわけにはいかない。


 サイの顔が一気に曇り、半目になる。

「マジで? もしかしてケガを舐めてる? 戦闘を甘くみてんの?」

「せんせ、理由を! 言い訳をさせてつかーさい!」


 ひより曰く。

 一条の家には過去の退魔師や鍛冶師たちが作った防具がある。否あった。

 だが、時代の流れと戦闘の結果、多くの防具が破損したりして使い物にならなくなったそうだ。

 ひよりの祖父曰く「空襲でかなり焼けた」のも打撃だそうだ。

 おかげで現存しているものは、鎧武者のような鎧ばかりだという。

 だが、それも「サイズも合わないし重すぎて使いものにならない」なんだそうだ。

 また、これまでの戦闘だと退魔師に伝わる防御魔法があるらしく、なんとかなっていたらしい。


「なるほどなぁ……」

「それに私たちって、最近は澪ちゃんも前衛立つようになったけど、私が前衛で避けて、澪ちゃんは後方から魔法を放つって戦い方だったから」

「戦い方も変わって、なおかつ強い妖魔と戦う……という状況か」

「だからさ、ほんとーはヘクサシールドが使えたらいいんだけど、まだ使えないし。何か良い防具とか防御を高める方法がないかなって」


 話を聞いたサイは考える。

 以前、ふたりに見せた魔力の盾ヘクサシールドをふたりはまだ習得できていない。

 あれは物理・魔法どちらの防御にも適した魔力の盾だが、今回は見送りだ。

 物理的な防御自体は、ふたりが普段冒険者として使っている防具でいいだろう。

 そうなると魔法防御関係の装備だ。

 一番良いのは魔法防御もあって、各種耐性もついている衣服か防具をふたりに贈る事だが、残念ながらふたりにはサイズが合わなすぎる。

 彼シャツ(?)を着て、戦う残念女子高生にさせるわけにはいかない。


「服なんかはサイズが合わないし、武器を考えると盾は持てない……。そういえば、強い妖魔ってどんな相手かわかるか?」

「全然わかんない。わかってるのは、今まで以上に強い妖魔ってことくらいかな」

 ふむふむと聞きながら、サイは悩む。

 何か良い防具はないだろうか。

「何かありませんか? 以前見せていただいたネックレスのような……」

「そうか。それがあった」


 サイは、アイテムボックスを開き、いくつかの装備を取り出した。

 ネックレスと指輪、そしてイヤリングだった。

 それぞれふたり分用意されている。

「ちょっと男物の使い古しで悪いが、あるのはここらへんだな」

 サイはそれぞれの性能を語った。

「このネックレスは身体全体の魔法防御力を高めつつ、矢避けの効果がある。矢避けは魔力をちょい使うから注意な。指輪だけど、簡易のシールドが張れる。指輪は俺のサイズに調整されてるから、親指にはめるか適当に腕にチェーンとかで巻き付けて使う感じだな」


「さっすがせんせー! いいもの持ってる!」

 出てきたアクセサリーは、ひよりの目から見てもすごい装備だとわかるものばかりだった。

「んで、多分一番の目玉はこのイヤリング。こいつはいわゆる精神防御のイヤリングでな。正直妖魔ってのがどんなのかわかってないが、精神系の攻撃してくる奴らもいると思うんだよ。魅了とか恐怖とか、そういう精神汚染的な呪いを弾いてくれる」

 

 今朝、関東支部のビル爆破時、被害者が操られて人間爆弾になったと聞かされたばかりだ。精神汚染系の攻撃を受ける可能性は充分に想定できる。

 ひよりと澪は、ふたり顔を見合わせて驚く。

 望外の装備が出てきた。


「ぜひ、この装備貸してください!」

「せんせ、最高! マジ大好き!」

「随分と現金な愛の言葉だが、使えそうなら良かったよ」

 現金な喜びはさておき、ふたりが喜んでくれたようでおじさんとしては何よりだ。


 その後、少し雑談してから、サイは玄関でふたりを見送った。

「よくわからんが、頑張ってきな」

「はい。頑張ってきます!」

「せんせ、またね~」

 ふと見ると家の近くに黒い車が止まっており、ひよりと澪はそちらに向かって歩いていた。

 今日の彼女たちは、彼に送迎されているようだ。

 サイは運転席にいる男性に軽く一礼して、ふたりを見送った。


 ふたりを見送った後。

 サイは、彼女たちに昨日の妖鬼の件を伝え忘れていた事に気づいた。

 よくある事なのか、あるいはひより達の話す『強い妖魔』が出たせいなのか。


 今日は珍しく車で送られてきたひよりと澪。ふたりとも高校の制服姿だった。

 だというのに高校に行かず、サイの家に来ている。

 そして、強い妖魔と戦うという情報。


 弟子たちが頑張ろうとする中、師である自身がしゃしゃりでるのはよろしくない。

 だが、死地に向かう者たちに黙って指を咥えるだけの男になったつもりもない。

 異世界であろうと、日本であろうと、サイの判断は変わらない。


「見守るか……」


 サイは、急ぎ自身の装備を見直しはじめた。

お読みいただき、ありがとうございます。

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