第24話 新宿魔人戦線①
一条家は日本退魔連合関東支部のビル爆破に伴う対応に追われていた。
「はぁ! 関東支部で爆発事故ぉ!?」
早朝という事もあり、ひよりは登校しようとしたところ、側付きの吉田に声をかけられて情報を知った。
「へい、お嬢。桜庭のやつが調べたところ、爆発痕から魔力を検知したそうです」
「桜庭のおじさんって、たしか……」
「魔眼の持ち主ですし、見る目は確かです。それとかなり強い呪的な反応もあったそうで確実に妖魔の仕業かと」
「妖魔が……」
これまでひよりは実働部隊として、妖魔を散々倒してきている。
しかし、爆発魔法を放つ妖魔を相手どった事はない。
「桜庭のおじさん、他に何か言ってた?」
「中級以上の妖魔の可能性があるのではないかと」
「ついに出てきたか……」
中級以上の妖魔となると、ひよりも戦ったことのないレベルだ。
「今、パパと爺様は?」
「政府と退魔連で対応検討中です。一般市民への対処もありますが、かなりの重大事ですんで」
「実働の手が回ってないわけだ」
「通学前に、申し訳ありやせん……。お嬢……」
吉田は悔しそうに謝罪した。
吉田は小さい頃からひよりを見守ってきた。吉田自身がケガにより退魔師として戦えなくなり、前線で戦う責務をひよりたち若い世代に押し付けてしまっていた。本来であれば健やかな人生を送ってもらいたいのに、戦わせなければならない。その思いが、吉田を苦しめていた。
だが、その思いを一番に汲み取り大事にしているのは、誰であろうひよりだった。
「いいって事よ! 澪ちゃんにも声かけて現場に行こうか。白祓は?」
「へい。既に車の方に」
白祓とは、ひよりの愛刀の銘だ。
妖魔や悪霊に相手取るなら、無類の力を発揮する名刀である。
ひよりの腕にはサイから贈られたブレスレットもある。
「おっけー。さすが吉田さん! それじゃ行こう!」
万が一の可能性であるが、これから強敵との戦闘があるかもしれないというのに。
一条ひよりは快活に笑った。
「お嬢」
そんなひよりを見て、吉田は神妙にした。
「どったの、吉田さん」
「お召し物は、その……そのままでよろしかったんで……?」
「あ……」
ひよりは通学前であり、ブレザーの制服姿だった。
カッコよく動こうとしたのに、決まらないひよりだった。
ひよりは澪に連絡しまもなく合流した。
今ひよりと澪は、吉田の運転で現場に向かっていた。
澪も服装は通学前だったせいかブレザー姿だった。
戦闘が起こらない事を祈りたい。
「支部の爆発。ニュースになっていますね」
「へい。澪のお嬢さん。今回は、どうやらガス爆発という形で処理されるそうです」
「そうですね。妖魔の仕業とは言えませんし」
「そこなんだよなぁ……」
ひよりは難しそうな顔をしていた。
「これまで日中に妖魔が活動していた事ってあった?」
「……ありやせんね」
悪霊にせよ妖魔にせよ、そういった類の者たちが活動するのは夕方以降と決まっていた。
「以前、吉田さんと一緒に過去の妖魔の活動歴を調べた事がありましたけど、日中の活動は……」
「少なくとも書として残ってる記録にはありませんでしたね。ですが、覚えが確かなら江戸時代とか、それ以前ならあったらしいですぜ」
澪の発言を途中で巻き取る形で吉田が語った。
「え、そうなの!?」
「へい。戦中の空襲で結構な記録がなくなっちまいましたからね。ですが、口伝でそういった話があったと亡くなった退魔師から伺ってます」
「……そこから逆算で言うと、今回の相手は江戸時代に活動していたクラスの妖魔となりますね」
澪の発言に、車内の空気が一段冷えた。
新宿タワー以降、世界の魔力が活性化された。
今、この世界にどれほどの魔力があるかわからないが、大気中の魔力が濃くなるほど、妖魔の動きは活発になり、より強い妖魔が出てきやすくなる。
未だ、歴史的な大妖は封印されたままであるが、リミットが近づいている証明だ。
「かぁ……。はやく強くならないとほんとマズいね」
「そういえば、ひより。今回の件、先生にも話しますか?」
「う~、ちょっと相手次第かな。本気でヤバかったら相談しよ」
「わかりました」
「お嬢が話されてるのは、例の冒険者先生のことですかい?」
一条の姫についたという冒険者の先生は、一条家やその周辺で話題の存在だ。
一条の麒麟児たるひよりが勝てないと言って、師と仰ぐ存在。
『Tower Tube』の配信で、その姿を見る事はできるのだが、ひよりからの指示で側付きの吉田でも会わせてもらえなかった。
「そうです。すごく強いですよ」
澪が嬉しそうに語る。魔法使いの澪も学んでいるという。
格闘も魔法も使いこなす男。
もしそんな男が退魔師になったなら、かなりの戦力強化が見込めるだろう。
「お嬢の判断にお任せします」
「うん」
ひよりとしてはサイに退魔の仕事をあまりさせたくない。
異世界からの帰還者であるサイは、当人に確認していないが異世界で悪霊退治などもやってきているだろう。
お願いすれば対応してくれるだろう。確実に。
だが、問題は彼が強すぎる事だ。
あまりに突出して強い力というのは、ある種の劇薬だ。
強い敵が出たらなんでもかんでもサイに任せていたら、どうなるか。
サイがいなくなった後。次代――つまりひよりや澪の時点で詰む事になる。
組織的に強くならなければならないのだ。
まもなく、ふたりを乗せた車は、退魔連合関東支部のビルに到着した。
既に鎮火され、警察や消防による現場検証が行われている。
普通と違うのは私服の男性やスーツを着込んだ男が多くいる事だ。
いずれも政府で退魔師まわりの対応をおこなっている人々だ。
「おつかれさまです」
ひよりと澪がやってきた事に気づき、スーツ姿の男が近寄ってきた。
ひよりは普段と違う冷静さで質問をした。
「状況は?」
「今、桜庭さんの方で諸々確認してもらっています」
「おけ。私たちも行くよ」
ひよりと澪は、立ち入り禁止の紐を越えビルの中に入っていく。
周囲の見物人たちが、女子高生姿のひよりと澪が現場に入っていく姿にギョっとするがその時誰かがふと「ビルの関係者かな?」と言って、周囲の空気を納得させた。
この誰かは、退魔連の人間だ。
世間の情報操作を専門とする部隊のひとりであり、スマホによる撮影をしようとしたら、そっと撮影を止めさせるか妨害する係でもある。
ひとえに情報流出を止める事を目的とした影の部隊だ。
何も戦うだけが退魔師の仕事ではないのだ。
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