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異世界帰りの中年冒険者、日本に戻ってもやる事が変わらない  作者: くまき


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第19話

 ひよりと澪の修行は続く。

 修行の最後、異世界のとっておきとは。

「こいつをマスターしたらかなり強くなれるし、できることがいっぱい増える」

 はたして。


「ひよりさん澪さん。ふたりは魔力の制御ってどれぐらいできる?」

「私は身体強化しないとだから、発射自体はなんだけど、かなりできてると思う!」

「そうですね。私も魔法使いですし基礎的な部分は出来てると思います」

 ふたりとも自信ありげに答えた。

「それじゃ、俺にふたりの魔力を感じさせてくれるかい?」

 そう言って、サイは両手を出してきた。

「いやいや、そんな。魔力を感じさせるって、そんなこと……あ、ヒーラーならできるのかな」


 冒険者の中には『ヒーラー』という回復を担う役職がいる。

 ヒーラーは治癒の力を持ち、その治癒には魔力の温かさを感じると言われている。

 しかし、ヒーラーの数は少なく希少な職種だ。


「ふふ。ふたりとも手を出して」

 ふたりともおずおずと手を出した。

 小さく女性らしい手だが、しかして冒険者らしく硬い手触りを感じる。

 サイはその手に触れながら、ふたりに少しだけ魔力を流した。

「「ひゃ!?」」

 サイの魔力を感じたのか、ふたりとも驚いた顔をする。

「ななな、なに今の!?」

「なんか変なのが身体に入ったような……」

 ひよりは素直に驚き、澪は淡々と話す。

 若い女性に変なのが入ってきたと言われると、地味に傷つくおじさん。


「……今の感触が俺の魔力だよ」

「あの変なのが魔力なんですか?」

「初めてだったから驚いたかもしれないけど、そうだよ」

「あら~、澪ちゃん。せんせーに初めて取られちゃった♪」

「それを言ったらひよりもじゃないですか」

「や~~ん♪」


 キャイキャイ話すふたりに、師匠のサイはなんとも言えない顔をする。

 こういうあけすけな会話の時、どうしたらいいのか、未だにわからないおじさんのサイだ。


「話を続けるぞ」

 小さく咳払いをして、サイは真面目な顔をする。

「コホン。これからやるのは魔力を制御するトレーニングだ。制御と言っても、何も全身に魔力を漲らせたりするものじゃなくて、身体の内で魔力のコブを移動させたり、強弱を随時切り替えるとか、そういう事をやるトレーニングだ」

「コブの移動と強弱の切り替え……」

 ふたりは初めて聞く言葉にキョトンとした。


「要は筋力のトレーニングと同じだ。自分の中にある魔力の流れる経路パスに負荷を与えるんだよ。負荷の与え方と回数。それで筋肉を鍛えるように魔力を鍛えられるんだよ」

「ああ、そのトレーニングがコブの移動と強弱の切り替えってこと?」

「そうだ。ちなみにこれを繰り返すと、自分が持つ魔力以上の魔力も制御できるようになる」

「自分の持つ魔力以上の魔力って、それ暴発するやつじゃん」

「それを制御できるようになる、か」

「わかりやすい……かどうかわからないけど、魔剣みたいな強力な武器も使えるようになるってことだな」


 異世界の魔剣の中には、凶悪なものも存在する。持った瞬間、持ち主に精神汚染を仕掛け、食い殺さんばかりに襲ってくるものも存在する。そういったものに飲まれた場合、当然のように暴走してしまう。

 しかし、その魔力すら制御できるようになれば、その凶悪な魔剣はただの強い武器となるのだ。

 ひよりは、その話を聞いて喜色を浮かべた。

 何か思うところがあるのかもしれない。


「これから毎日、俺がいない時でもやってもらいたいトレーニングだ」

「それで、どうしたらいいのでしょう?」

「手始めに、まずは三人でやってみようか」


 三人であぐらをかき、それぞれ両手を伸ばして、隣の人と手を繋ぐ。

 サイの右にひより、左に澪が座っている。

 ひよりは興味深そうに、澪は少し緊張しているのだろうか。


「なんか変な感じ」

「ひより静かに」

「俺から魔力を澪さんに送るから、澪さんはその魔力の塊を右手から左手へ流していって、ひよりさんに送る。ひよりさんも、その魔力を受け取ったら、その塊を右手から左手へ流すんだ」

 簡単そうに言うが、そんなにうまくいくのか。

 ふたりは不安に感じる。

「まあ一度試してみるか」


 サイは魔力の小さな塊を、澪に送った。

「ん……」

 澪は目を閉じて、少し甘美な吐息をだす。

 うまく送れているのか不安なのだろう。

 魔力の塊は、澪からひよりに送られた。

「ひゃ……」

 ひよりはその魔力の塊を受け取るも、ひよりのところで魔力が霧散した。

 右手がひよりの手に触れているため、サイにはその流れがよくわかった。

「ひよりさん、受け取った魔力は身体で受け取るんじゃなくて、手で受け取って。右手から左手に流すように意識しな。もう一度行くよ」

「ん、わかった。せんせ」

 自分がミスしたことに気づいたのか、ひよりは真面目そうに答える。


 再度、サイは澪へ魔力の塊を流す。

 次もまたひよりのところで霧散した。

「澪さん。ひよりさんに魔力を流す際に魔力の塊が小さくなってる。受け取ったものをそのまま、ひよりさんに受け流すように意識してみて」

「は、はい。先生」


 他人に魔力を流す。言葉にすると簡単そうに見えるが、これが本当に難しい。

 何度、何十度と繰り返していくうちにようやくひよりからサイへ、小さな小さな魔力の塊が流れてきた。

「ぷはっ!」

 集中していたひよりは、大きく息を吐き出す。

「うん。よくできました。今の感じを忘れずに、もう一度」

 できたことを忘れないよう、更に何十と繰り返していく。


 訓練終了後。

「ふぉぉ……」

「はぁ……はぁ……」


 ひよりはあぐらに片肘をつくように、澪は四つん這いになって息を整える。

 身体中の魔力を強制的に動かし続けたのだ。魔力によって身体と精神、その両方に負荷を強いられれば、しんどくて当然だ。


 ふたりとも玉のような汗をかいている。

 対してサイはケロリとした顔をしている。

 負荷を強いると言っても、所詮は魔力を流すだけの話だ。

 サイにとっては子どもの頃からずっとやってきたトレーニングだ。


 ひよりや澪が一キロのダンベルでひぃひぃ言ってるところだが、サイは普段十キロや二十キロのダンベルで鍛えているのだ。文字通り鍛えた期間が違い過ぎる。


「どうだった?」

「なんか、すっごいクラクラくる。特に上半身がおかしい」

「私も……なんか気持ち悪いかもです……」

「しんどいかもだけど、しっかり聞いてほしい。最初に話したけど、このトレーニングは筋トレの魔力版だ。やればやるほど、魔力は制御できるようになるし出力もしやすくなる。魔力を絞り出せるようになる。魔力自体も総量が増える」

「えぇ、こんなんで魔力って増えるの?」


 地球の定説ではダンジョンの中で戦っていると魔力総量が増えると言われている。

 ダンジョン以外の場所で魔力が増えるというのは聞いた事がなかった。


「それこそ筋トレと同じだ。いきなり倍増ってわけじゃない、本当にちょっとずつしか増えない。でもずっとやっていたら、確実に増えていくよ」


 その言葉を聞き、ひよりと澪はうなずく。

 強くなれるのだ。

 四つん這いだった澪は改めてあぐらをかきなおす。


「もうちょっと説明するけど、魔力ってのは身体のうちに留めれば筋力強化に、身体のうちから外へ出せば、魔法になる。これは知ってるよな」

「はい。教本にも記載されてますし」

「つまり、人は魔力制御ってのを自ずとできてるわけだけど、これをより意識的にやるのが今の修行なわけだ。繰り返しやっていけば、魔力を詳細に制御ができるようになる。イメージ的にはホースと蛇口かな。澪さんはホースも蛇口もある程度できてる。だけど、ホースに穴があって十リットル用意した水が、蛇口から出す時三リットルとかになってる。ひよりさんはホースが体の中であっちこっちに移動してて、蛇口までいくのが大変なイメージか」

「確かにその感じはあった……かも?」


 ひよりは身体強化が得意だが、魔法はへたっぴだ。

 使えないわけではないが、進んで使わない。使う時は、集中してようやくといった感じか。自分の身体のことながら、その辺りが曖昧だ。


「ふたりの時でもなるべく時間のある時にふたりで手をつないで、魔力の受け渡しの訓練をして、ひとりの時もひとりで魔力を身体中に巡らせるようにやってみて」

「そうすれば、今よりも魔力の制御が上手になるんですね」

「それどころか、こーいうのが使えるようになる」


 そう言って見せたのは、魔力の板だった。

「ん、なにこれ? なにかある……?」

 透明なせいか、ちょっと見づらい。

「ああ、そうだったな。ほいっと」

 なにをどうやったのか、透明な魔力の板がほんのり赤く見えた。

「おお。なんか変なの」


 そう言ってひよりは指でツンツンと触った。ひよりは感触を感じた。

「おお、ツンツンできる……って感触ぅ!?」

「わ、私も触りたいです! うわ……本当に触れてます。土属性の魔法じゃないですよね……?」

「これがさっき、澪さんの魔力弾を打ち消したもので、大ジャンプの仕掛けだよ」

 そう言われて、澪は驚き「あ!」と気づく。


「異世界の魔法でフローティングボードって魔法がある。要は透明な板を作って、それを使ってモノの持ち運びに使うってだけの魔法なんだけど、それを改良して、より戦闘用のシールド、ちょっとした壁なんかに使えるようにした魔法だな。通称、ヘクサシールド」


 見れば言葉どおりヘクサ……六角形の板だとわかる。この板は擬似的なシールドバッシュにも使えるし、攻撃に防御に様々な活用ができる万能な魔法のひとつだ。


「すご。それじゃ、これ使えば大空を飛ぶ事も……」

「飛ぶっていうより、空に階段を作る事になるな」

「ちぇ」

「でも、これを使えばあの時の大ジャンプができるようになるんですよね」

「そういうことだ」


 そう言って、サイは赤い魔力の板を何枚も出して階段のようにして登っていく。

 階段を登ると澪の頭上にサイの姿がある。

「こういうことができるようになるから、より三次元的な動きができるようになるわけだ」

 先程まで体力が尽きてヘロヘロだった澪の目に再び炎が宿る。


「ひより。まだ続きできますか」

「澪ちゃん、明日! 明日からにしよう!?」

「ダメです。やり方を忘れないうちに、身体に覚えさせましょう」


 気づけば時間が夜になり、道場の外は暗くなっている。

「さて、そろそろ夕飯の時間だし、俺は帰るぞ」

「先生、今日はありがとうございました!」

「次回もよろしくね、せんせ!」


 そんな形で一条ひよりと九里澪への最初の指導が終わった。

「ひより、今夜は退魔のお仕事もありません。寝かせませんからね」

「明日学校! 学校だから! 澪ちゃんステイ! ステイ~~!」

 

 まだまだ自主練を続けたいふたり(?)を放っておいて、師匠たるサイはさっさと道場に礼をして退場した。


 今日、ふたりに教えた魔法はサイの相棒たるエルフが作った魔法だ。

 冒険者の生存率を劇的に改善した魔法とも言われる、この魔法。

 それは新宿タワーが存在する日本であっても有用だ。


 異世界の魔法を教えるのはバレた時に怖いが、新宿タワー以外でも戦う事のある彼女たちだ。妖魔というのがどれほどのものか、サイには分からないが、新宿タワー以上に、万が一の可能性が高そうにも感じる。

 ふたりが生き残る可能性が高くなるなら教えた方がいいと判断した。


 この魔法をふたりに教えたせいなのか、相棒のエルフを思い出した。

 もう再会の叶わない彼女だが、帰路の間、彼女のことを思い出し、少しのセンチメンタルに浸るサイだった。


 ちなみにひよりと澪は、その後も訓練を続けたようで、翌日の学校にて。

「澪ちゃんにムチャクチャされた……」

 と、ひよりは嘆いていたそうだ。


お読みいただき、ありがとうございます。

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