第18話
「お尻いた~~~い! 足いた~~い!」
「ちょっとひより。みっともないですよ……さすさす」
ひよりと澪との模擬戦を終えた。
あれから何度も模擬戦を行い、ふたりともヘトヘトだ。
特にひよりの方は立ち向かう度に足払いでこかされたり、投げられたりしてる。
板張りの上でダメージも大きかったのか、大の字になってぶっ倒れてる。
澪の方はというと、殴りは寸止めだったのでひよりほど痛い思いはしてないが、それでもうまく動こうとして足払いされている。
そのため、足を崩して座っている。
「さて、ふたりとも戦ってみてどうだった?」
「正直、あんな戦い方があるとは思いませんでした。先生の動きは三次元的というか、ああいう動きができるようになりたいです」
澪はサイを分析しつつ優等生のように答える。
「考えること多すぎ。フェイントが全然入らない。後の先取られすぎてくやしい」
後の先。要はカウンターの事だが、ひよりの方はひたすらカウンターを決められてくやしいようだ。
「そうだな。俺はまだ日本に戻ってきて間もないからなんだけど、高校生でこれだけ動ける人がいるのかと正直驚いてる」
これは掛け値のない本音だ。
自分が高校生だった頃。つまり転移して間もない頃、異世界でどれだけ大変だったか……あの頃に、今のひよりや澪ほどの実力があったらどれだけ楽だったか。夢想しても仕方のないことだが、そういうことは考えてしまう。
そう思う程、ふたりが努力した形跡が見られた。
「でも全然当たらなかったじゃん……」
「半年か一年もすれば、ひよりさんは今日の俺ぐらいは動けるようになるよ」
「ほんと!?」
「うん。みっちり修行すれば確実に」
「へえ、そうなんだ……」
ひよりは嬉しそうな顔をしている。
「私はどうでしょう?」
ひよりが半年か一年とすれば、澪はどうか。
「そうだな。……二年はかかると思う」
差を出されたせいか、悔しい顔をするかと思ったが澪の反応は意外に淡白だった。
「わかりました」
澪が覚醒したのは中学生の頃だが、本格的に鍛えるようになったのは高校生になってからだ。ひよりと出会い、スカウトされて退魔の仕事をするようになってからだ。
それまで体育の授業などで運動はしているが、その程度しかしてこなかった。
だというのに二年かその程度で、今のサイほど動けると言われたら、それは御の字というものだろう。
「で、ふたりには色々と教えないといけないことがあるんだけど……そうだな、最初に方針を伝えるぞ」
サイはあえて一拍置いた。
しっかり聞いてもらうためだ。
「ふたりには、今の戦い方をやめてもらう」
話を聞いたひよりは鼻を膨らませてきた。
「ちょ~っちタンマ! 今の戦い方って、私が前衛で、澪ちゃんが後衛の戦い方のこと?」
「もちろんそうだが」
「いやいやいや、私は刀とかで戦う方が得意だし、澪ちゃんは魔法使いだよ? 私が後衛、澪ちゃんが前衛とかムリでしょ」
澪は話を冷静に聞いている。
「理由を聞いてもいいでしょうか?」
「今のままでいくと、ずっと前回と同じようなことになるからだよ」
前回の新宿タワーの事は、よく覚えている。
澪が落とし穴に落ちてあやうく命を落としかけたのだ。
忘れようにも忘れられない。
「どういうこと、でしょうか?」
「今回の模擬戦でわかったけど、ふたりとも連携自体はベーシックで良いものなんだけど、ふたりで戦うには適していない戦い方なんだよ。四人か五人パーティーなら、今みたいな戦い方は否定しないけど、ペアだと危険なんだ」
ふたりの戦い方は冒険者ギルド発行の戦闘教本に書かれたものを検討しながら、自分たちなりに組み込んだものだ。確かに、教本にも理想は四か六人と書かれていた。
「ダンジョン探索時、ふたりで行動する場合、どちらが前衛後衛になっても動けるようになってもらいたいし、両方ともこなせるようにしないと危ない。特に今後は複数の敵と対処することが多くなるわけだけど、後衛だから前衛に守ってもらうことを前提で動くのは悪手だよ」
「それは……そうかもです」
澪は、ここ最近の新宿タワーでの動きを思い出していた。
七階のウルフの群れ、八階のゴブリンの群れと戦う中でひよりへの負担が大きくなっている事に気づいていたからだ。澪も澪で、如何にひよりの裏に隠れるかで動いてしまっていた。
ひよりの視点で言えば、敵と戦いつつ、後ろの澪に気をくばりつつ動くよう強いられていたのだ。ひよりが疲れるのも当然だ。
ダンジョン内では長く活動できるように動かねばならない。
だというのに、ひよりがヘバってしまう。
疲れは注意力を散漫にさせ、罠にもかかりやすくなってしまう。
サイに指摘され、澪は自身のミスに気づいた。
確かにこれではまた同じ事が起きる可能性がある。
「澪さん、さっきの俺の動きをできるようになりたいって言ってたよな」
「はい。以前助けていただいた時もそうですけど、今回も最初の模擬戦で見せてくれた大きなジャンプ。ああいうことができるようになりたいです」
絶望の状況を救われた強さ。落とし穴を使って七階層から八階層まで一気に飛んだあの動き。今日、模擬戦で見せた前衛のひよりを飛び越して、澪へ攻撃した動き。
あれができるようになったら、今後の戦闘がどれほど楽になるか。
澪の憧れは、キラキラと輝いていた。
「うん。それもできるようにする」
力強く答えるサイの言葉に、澪は安心した。
「さて、今後前衛も後衛もできるようになってもらうために、ふたりにプレゼントがある」
「あら~、花の女子高生にプレゼントって。あは♪」
「先生が私たちにプレゼントですか?」
ふたりとも容姿端麗で告白された数は数多。
プレゼントもよく渡されるが、正直いつも扱いに困るもの。それがプレゼントだ。
お返ししていたらキリがないし断る文句を毎度考える方も大変なのだ。
とはいえ、今回、ふたりの師たるサイからのプレゼントだ。
何がでてくるのか。ちょっとウキウキするひよりと澪。
サイはアイテムボックスから長い棍とブレスレットを取り出した。
「こっちの棍が澪さん。ブレスレットがひよりさんだ」
「ブレスレットって、攻撃する時邪魔にならない?」
「慣れたらそうでもないぞ。このふたつはどちらも異世界で中級者クラスの冒険者が使う魔法杖で……ブレスレットの方は、そんな形をしてるが立派な魔法杖だよ。魔法の発動性を高めて即座に魔法を構築できるようになる」
「へぇ、そんなのがあるんだ」
ひよりはブレスレットを受け取り、ものは試しということで初級魔法の『光源』を発生させようとした。
明かりを灯すだけの初歩的な魔法だが、魔法があまり得意ではないひよりにとっては、ちょっと頑張らないと発動しない魔法だ。
……だというのに、ブレスレットをはめて『光源』と唱えると即座にライトが発動した。
魔法杖を媒介に体内の魔力のパスがスムーズに動いた事に、ひよりは驚く。
「わ。これすご!」
「続けて、澪さんの方は棍の形をした魔法杖で、こっちは威力増加と制御性を高める効果がある。持ってごらん」
澪は棍型の魔法杖を受け取る。
「は、はい……え。なんですか、これ……」
杖を持っているだけで体内の魔力が高められていくことがわかる。
澪は以前、新宿の冒険者ギルドに展示されていた何千万円とする高価な杖を試しに持たせてもらった事がある。棍を持った瞬間、あの時に受けた『魔力が強制的に高くなる』感触と同じものを感じた。
否、あの何千万円の魔法杖よりも良く感じる。
「そいつは少し重いが、代わりにぶん殴ることも視野に入れて作られてる。使いこなせたら、すごく化けるぜ」
「あ、ありがとうございます、先生! でも、これ相当お高いんじゃ……」
「その杖は異世界で俺が使ってたんだよ。だけど、最近じゃ死蔵させててな。使わないなら、誰かに渡して使ってもらえた方がうれしい」
値段についての質問をはぐらかされた気がするが、サイの使っていた武器と言われ、使いこなそうと澪は感じた。
「それと。今後、魔法使いとして大成したいならガンロッドじゃなく、その杖を使えるようになってもらいたいかな」
「何か理由があるんですか?」
「なに。ガンロッドって銃口を向けて魔法を発射する形だけど、そもそも魔法ってのは何もまっすぐ飛ばす理由がない。要は確実に相手に当てる軌道を作ればいいんだ。俺と戦った時、ずっと射線上にひよりさんがいて、魔法が撃ちづらかっただろう?」
サイはしたたかに動き、常に澪とサイの間にひよりを置くという形をとっていた。
あの状況でベストな行動は今もって不明だった。
「あの時さ、魔力弾をカーブで発射したり、ホーミングさせればよかったんだよ」
「そんな芸当、今の私にはできません……」
「それがガンロッドを使ってる弊害なんだよ。ガンロッドは発射しやすいし速射できて便利だけど、直線的な動きばかりになる。杖型は魔法の発射制御が難しいけど、魔力弾にさまざまな挙動をさせられるようになる」
サイは簡単に言うが、その制御が難しいのだ。
覚醒した澪にとって魔法の発動自体は容易い。
だが、制御がかなり難しく、課題となっていた。
「魔法の制御って最初のうちは本当に難しいんだよな。ということで、今日の修行の一番の目玉、異世界で学んだとっておきを教えてやる」
そう言って、サイは不敵に笑った。
お読みいただき、ありがとうございます。




