第17話
サイが、女子高生ふたりを弟子に取ると宣言して数日後。
ふたりの最初の指導は、力量を知ることだ。
実質、ふたりの力量は甥っ子に見せてもらった配信と、八階層でピンチになった時しか知らない。
どれぐらいの強さかどういう風に動くか、より詳しく知らねばならなかった。
なので、それを知るためにどこか広くて、できれば周囲にバレることなく、訓練できる場所を求めた結果、ひよりから提案された場所がここだった。
「……都内にこんな場所があったとは」
二階建ての建物で、かなり大きい立派な家屋がデンと建っていた。
正確に測ったわけではないが、町内の一区画まるまる入るような場所だった。
一見したイメージは、ヤのつく自由業のお宅にしか見えない。
そこかしこに防犯カメラが設置されているし、魔力的な結界もされている。
「せんせ~、こっちこっち!」
道場着のひよりがサイに声をかけてきた。
上着は白く袴が朱色で、一見すると巫女のように見えるが、生地は道着に使われている物のようだった。
このまま女子高生に見とれていたら、事案なので誘われるままに歩いていく。
着いた場所は、大きな道場だった。
「ここだよ!」
「なるほど。これならオーダーどおりだ」
全面板張りで、高さもいい感じにある。
剣道場のイメージに近いが、よく見ると血の跡が残っていたり、使い込まれたサンドバッグやカンフー映画で見るような木製の人形が置いてあったり。神棚は……剣道場にも置いてある可能性があるから除外、と言いたいが、自宅の神棚よりあきらかに立派で、魔力を秘めている。
違和感はさておき、使い込まれているのに清掃の行き届いたピカピカの道場だ。
サイは一礼して道場の中に入る。
「先生、本日はよろしくお願いします」
しずしずと近くに寄ってきた澪が、サイに挨拶をする。
彼女も巫女服のような道場着だった。
サイは更衣室で着替えることにした。
着替えは迷った結果、異世界の冒険者ギルドで教官をしていた時の服装にした。
日本人からするとヨーロッパ中世の服装に見えるかもしれないが、冒険者ギルドで新人と戦う時にも着ていた服だ。動きやすく、ただの布に見せて耐斬性、魔防性に優れた戦闘教練用の服装だ。
数カ月ぶりに袖を通したが、異世界でよく着ていた服を、日本の道場で着るとなんだか不思議な気分になる。
サイが着替えて更衣室から出てくると、ふたりの反応が面白かった。
「おー、異世界っぽい」
「なんだかイメージどおりの雰囲気ですね」
「向こうでよく着ていた服だしな」
不思議な気分になったのはTPOがズレてるように感じるからだな、と納得する。
板張りの道場に中世ファンタジー全開の服を着ていれば違和感が仕事する。
「さて、今日は初回ってことでふたりの実力を測ろうと思う。武器は持ってきてる
な?」
「私はこれ!」
ひよりが見せてきたのは日本刀だった。
「江戸時代に作られた退魔師用の刀で、銘は『白祓』。家にある刀の中では中ランクぐらいかな。もっと強い武器もあるんだけど使いこなせないから、今はこれって感じ」
サイはひよりの『白祓』を受け取り、刃を確認する。日本刀にしては刃の厚みが薄く、重さを感じない。非力な女性でも十全に使えるように拵えてある。刃渡りは、一般的なショートソードと同じ程度。いわゆる二尺三寸だ。新宿タワーという室内で振り回すには適した長さといえる。
浄化系の魔力も感じるし退魔を目的とした武器だとわかる。
「良い刀だな。ちなみに他の武器は使うことある? 遠距離系の武器とか」
「槍も一応ちょっとは使えるよ。弓とか銃なんかはからっきし」
「普段はひよりが前衛、私が後衛という形で戦ってるので」
「なるほど……。それじゃ、続けて澪さんの武器も見せてもらえる?」
「私は前回の冒険で愛用のものが壊れたので、昔使ってたガンロッドです」
ガンロッド。銃のような形をしているがれっきとした魔法杖だ。
銃の形をしているため、魔法を放つ際に照準がつけやすいのがポイントだ。
魔法の杖の存在意義は単純に魔力を高めるものから、制御や命中率を高めるものであったり、魔力タンクとなっている場合もある。
魔法杖に仕込み武器を入れる……なんて変わり種もある。
今回、澪が取り出したガンロッドは照準がつけやすいというポイントはあるが、それ以外は魔力の増幅、制御とも雀の涙以下の性能であり、初心者には扱いやすい以外の利点がまるでない。
「ふむ。こっちは、そのまま初心者向けの武器か。澪さん、他の武器は使ってる?」
「一応、ひよりから短刀を借りてますけど、実戦では使いませんね」
「おーけぃ。じゃあまずはウォーミングアップに模擬戦をしようか」
「模擬戦って、せんせの武器は? なに使うの」
「今回は実力を測る目的だから、これだな」
そう言って、サイは手をギュパギュパする。無手。
拳を使うと言っているのだ。
「ふたりは今持ってる武器を使ってくれ」
「「え?」」
ふたりが今持っている武器、ひよりは日本刀『白祓』であるし、澪は初心者用とはいえガンロッドだ。
殺傷能力が十分ある凶器を使って、模擬戦をしようと言っているのだ。
「いくらなんでもそれは危ないのでは……」
「ひよっこどもの攻撃なんて一撃ももらわんよ」
その言葉にひよりは軽くカチンときた。
ひよりには、退魔の一族として戦い続けたプライドがある。確かに目の前の男は歴戦の冒険者かもしれないが、一撃もあたらないなんてことがあるのだろうか。
「ケガしてもしらないよ?」
「安心して、かかってこい」
サイがそう言うやいなや、すぐさまひよりは横薙ぎに刀を抜いてきた。
狙いはサイの首。当たれば大ケガが確定する。
もちろんケガをさせようなんてつもりはない。
ひよりは寸止めするつもりだ。
だが、その考えは直前で打ち砕かれた。
横薙ぎに刀を抜いた。瞬速の抜刀であるはずなのに、サイはその刃の切っ先をつまんでいた。
「は?」
「ポーションなら持ってきてるから、じゃんじゃんかかってきな。澪さんも呆けてるな、攻撃してこい」
「……わ、わかりました!」
女子高生ふたりがやる気になった。
「澪ちゃん、いくよ」
「後ろは任せてください」
ひよりは、サイに向かって斬りかかる。
サイは、しなやかな動きで避ける。
澪はその避けたサイを魔力弾で撃とうとするが、射線上にひよりがいた。
ひよりを避けて撃とうにも、それに合わせるようにサイも動く。
射線上のひよりを壁にして、サイは澪との距離を保ち続けていた。
「くっ!」
「澪さんは見てばっかりか?」
サイの煽りに、澪はムカっとするが攻撃するスペースがない。
と思ったら、ひょっこりひよりが横に避けた。
サイへの射線が通る、その瞬間を見逃さず、澪は無属性の魔力弾を発射する。
これぐらいならちょっと痛いぐらいのはず――と澪は考えていた。
しかし、その魔力弾はサイの手の平で消失した。
「なに今の……?」
澪以上に、その動きを間近で見たひよりが驚いた。
「魔力弾なんて避けるか弾くんだが、それをやったら道場が壊れるからな。魔法のシールドで打ち消したんだよ」
普段は矢避けの術式に守られているため、避けることすらしないのだ。
サイはニヤリと笑う。
「ひよりさん、今の動きは良かったぞ。連携をもっと意識しな」
サイが喋る、その瞬間を見逃さず、ひよりは突きを放つ。
「二手遅い! さっき避けたタイミングで突け!」
ひよりと澪は構え直し、息を整える。
「せんせー、マジ強いかも」
「そうですね。お願いした甲斐があります」
今の攻防だけで、少なくとも一条の家の誰よりも強いとわかる。
そんな印象を受けた。
「もういっちょ!」
ひよりが霞斬りの応用でフェイクをいくつも入れながら、斬りかかる。
が、次の瞬間ズッコケた。
サイに足払いされたのだ。
「見え見えのフェイクにひっかかるか」
サイは更に追撃を入れようと倒れたひよりに拳を放とうとする。
「ひより!」
澪はさせまいと魔力弾を連射した。
が、サイの目の前で打ち消された。
連射した全ての魔力弾が、サイの手の中で消失した。
「今のはいいぞ! 仲間がピンチの時は、すぐさまサポートに入れ!」
「はい!」
そう言いつつも「私の魔法は当たってないじゃないか」と心に思う澪。
「魔法が打ち消されてる理由がある! 今はくよくよ考えるな! ほら、棒立ちになってるぞ!」
「は、はい!」
澪は慌てて答えた。
そうして、サイは続けて後ろに一歩後退する。
その間にひよりは立ち上がり、少し離れた位置に澪が立つ。
「さて、攻撃するから、うまく避けるなり守ってみろ!」
そう言われてひよりと澪は防御しようと構えなおす。
ひよりは澪を守らんと前に出る。
確実に前衛で守り切ろうという姿勢だが、次の瞬間サイはひよりの頭上にいた。
「うそ!?」
澪はひよりの動きに合わせていたが、それが逆に失敗だった。
強く重い拳が目の前にあった。
死を感じる拳が――
「ほい。これで一発」
サイは当てなかったが、眼前にある大きな拳に圧され、ペタンと座り込む。
「澪ちゃん!」
今の動きに驚き、数瞬動きが遅れるもひよりはサイに立ち向かった。
が、手を出した次の瞬間、ひよりは投げられていた。
綺麗な背負い投げだった。
「ぎゃふん!」
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