第16話
サイ、ひより、澪の話し合いは続く。
まさかの異世界違いが発覚した。
「困った。退魔の関係者じゃなかった……そんな漫画じゃあるまいに」
ひよりは項垂れている。
「逆にカクリヨってなんだよって話だけどな」
「もういっか……。おじさん。おじさんも話してもらうからね。私たちもおじさんが言う異世界について内緒にしておくから、私が言う話もここだけの話にさせて」
「なんかとばっちりに感じるが、わかった。話すよ」
お互いの知ってる異世界について、すり合わせよう。
そんな話となった。
「幽世っていうのは、この地球にある裏の世界っていうかな。私たちの魂が帰る場所であり、同時に神様や精霊のおわす場所だよ」
「ああ、なんだったっけ。古事記か何かで読んだ気がするな」
「黄泉の国でしょ。黄泉比良坂。あれも幽世のひとつ。幽世にはいくつかスペースっていうのかな、区画があってね。天国とか地獄みたいな場所もあるし、神様や仙人が暮らすような場所もあるんだよ。で、正直おじさんはそのどこかに行っていたんだと思ってた」
「あいにく、そんな場所じゃなかったな。俺の知ってる異世界」
「うん。幽世の匂いっていうかな。そこにあるものって独特の感じがあるから、慣れてるとわかるんだよ」
「ほぅ。で、ひよりさんはその関係者っていうのはどういうことなんだ?」
「……あんまり話したくないんだけど、退魔師って聞いたことない?」
「あ~正直よく知らない。子供の頃、映画だか漫画で見た事あるような……」
「パパが持ってたやつかな。少し読んだ事あるけど、まあ悪霊とか妖魔退治のお仕事を裏でやってるんだよ」
「あれマジだったのか……それで悪霊と妖魔ってのはなんだ?」
「私たち退魔師の区分では、悪霊は現世……今私たちがいる場所で自然発生的に生まれて悪意を振りまくもの。妖魔は幽世から現世に来るモンスターと思えばいいよ」
「なるほど、ゴーストとかリッチみたいなものか。確かにこれだけ大気に魔力があるんだから悪霊も沸くよな」
さも当然という顔をするサイに、ひよりはちょっと驚いていた。
魔力があるから悪霊が湧くというのは初耳だったからだ。
「そうなんだ? 生まれた時から新宿タワーがあった私からすると、そのあたりよくわかってないんだけど、昔は全然悪霊も出なかったらしいね。出ても、祓えば消える程度だったらしいし。でも、新宿タワーが出てきてから、悪霊や妖魔が強くなってね。退魔師の一族はどこも治安維持のために戦ってるんだよ」
「確かに俺がガキの頃、オバケだなんだってのは肝試し用のお話というか、実際に存在するなんて微塵も思われてなかったな」
「らしいね。うちの爺様もパパも、ずっと平和だったから退魔の技なんてほとんど覚えてなかったみたいだし。新宿タワーのせいで悪霊や妖魔が強くなって、それで慌てて退魔術を学んだって話してたもん」
退魔師のレベルはここ数百年で落ち続けていると言われている。
曰く、戦国時代や江戸の初期あたりまでは技の開発や技術を磨いていたらしいが、明治大正昭和という近代化の波の中、妖魔が消え、悪霊も弱体化、祝詞で祓えばなんとかなっていた。
とはいえ歴史的な妖怪や鬼などは封印されている。この封印を続けるため、封印術のみ学んでいたという状況らしい。
しかし、新宿タワーができてから悪霊が年々強くなり、ついには妖魔が幽世から現世に顔を出すようになってきた。魑魅魍魎が跋扈し始めたとあって、退魔師業界は早急な強化が求められているのだ。新宿タワーは修行の場所として、全国から退魔師がやってきている。
「それじゃ、君たちもその悪霊や妖魔退治を?」
「うん。私は一条っていう退魔師の生まれでね。澪はクラスメイトなんだけど、覚醒で魔法が使えるようになったから手伝ってもらってる」
澪はこくりとうなづいた。
「ふたりとも高校生なのに八階層まで行けてるのは、その妖魔退治で戦闘経験があるからってことか」
「ふふん。そういうこと」
ひよりは得意そうな顔をした。
「それじゃ次、おじさん。おじさんがいた異世界の話してよ」
「そうだなぁ。どう説明したらいいのかわからんが、俺の行った異世界はテレビゲームとかで見るような中世ヨーロッパみたいな場所だったな。魔法がすごく発展しててさ、科学技術もあるけど、それより魔力について研究とか開発とかして、それを軸に技術発展した世界だな」
「テレビゲームはしませんが、たまにそういうお話を見る時があります」
「俺も最初のうちはそう思ってたよ。ただ、モンスターが現実にいる世界で魔法技術が発展したらどうなるかってのを、嫌になるほど思い知ったけどな」
異世界ではモンスター退治は、《《絶対必須》》のお仕事なのだ。
新宿タワーで見かけるようなモンスターが、地上にも出てくる状態なのだ。
小型のモンスターはなんとでもなるが、大型のモンスターが襲来することがある。生活圏の近くに来たら大騒ぎになるものだから、なるべく生活圏に来る前に対処する必要がある。
とはいえ、大型モンスターは貴重な素材の宝庫だ。
退治できれば、その素材でかなりの資産が作れるのだ。
「なんか、ほんとにゲームっぽい」
「だけどセーブもロードもないからな。死んだら、即アウトの世界だよ」
「そう考えるとシビアですね……」
世界観はゲームのように見えるけど、異世界もまた現実だ。
サイは、異世界の特徴について引き続き語った。
「それとダンジョンだな。異世界には、遺跡やらダンジョンやらが地球以上にあるんだよ。ダンジョンの種類にもよるけど生活に必要な素材を採ってくる必要があったから、結構よく潜ってたな」
異世界におけるエネルギーの中心は、ガスや電気の代わりに魔石から抽出される魔力エネルギーだ。このエネルギーはコンロや照明といった生活器具に使われていた。
特に異世界における近代。マナバッテリーと呼ばれるエネルギー装置のおかげでだいぶ生活が楽になった。いわゆる異世界における産業革命だ。
だが、この鉱石の多くはダンジョンとなった鉱山でしか採掘できない。その付近の冒険者の多くは、そこで鉱石を掘る仕事をしている。
「……本当にザ・異世界! みたいな話だね」
「マナバッテリーで産業革命……やっていることは違いますけど、地球と似た部分もあるのですね」
「まあそんなわけで、魔法。この場合魔導科学って言えばいいのか、そういうのが発展してるんだよ。向こうの世界」
「で、この辺りが想像と違いそうだから説明するんだけど……」
サイは先程取り出したネックレスをふたりの目の前に持ち上げて見せる。
「矢避けのネックレスですね」
「ゲームにありそうなイメージだけど……」
「それがさ。例えば、このネックレスには矢避けの術式が付与されている。昔から矢避けの術式自体は存在してたんだが、その術式を打ち破る術式ってのも生まれてな。
そしたら、矢避け無効の術式でも無効にならない矢避けの術式が生まれて……あとはもう、いたちごっこだな。術式自体を守る防壁とか、その防壁を突破する術式なんてのも生まれるんだ」
「えっと術式に対して、それを打ち破る術式があって、更にそれでも破られない術式が生まれて……」
サイの説明でひよりが混乱している。
「イメージ的にはそうだな、コンピューターのウィルスとかセキュリティの概念に近いかもしれん」
にわか知識だが、例えとしてそう間違えていないだろう。
「ああ、それならなんとなくわかるかも」
そうして、サイは自身が身につけているネックレスと、アイテムボックスから取り出したネックレスを持ち、比べながら話す。
「まあそんなもんで、今俺が身につけてるネックレスは、異世界でも最新式の防壁が付与されてる。んで、こっちのアイテムボックスから取り出したやつは防壁のバージョンが古かったりする。効果は同じものだが、防壁が最新化されてるわけだ」
「ザ・異世界じゃないなった……」
「異世界にだって歴史があるからな。歴史があるってことは、技術も進歩するって話だな」
人はいつだって進歩するのだ。それは地球であれ異世界であれ変わらない。
たとえ人や人種は違っても行動原理は変わらない。
より良い生活、より安定した暮らし。
そういったものを求めて、人は研鑽し、前に進もうとするのだ。
「話を元に戻しますが、それでは山浪さんの魔法は異世界で進歩した魔法技術ってことなんですか?」
「ああ。俺の使う魔法は異世界で何千年と研究開発された技術の結晶だ」
魔力弾を事前に用意しておいて、任意のタイミングで発射する。
澪が指摘したことだが、こんなことすらできないとは思っていなかった。
だが指摘されて気づいたが、地球と異世界では、こと魔法という分野においては天と地ほどの差があるのだ。
「……山浪さん。私に魔法を教えてくれませんか?」
「あ、私も! 私も教えてほしい!」
澪は真摯に、ひよりはそれに呼応するように教えを乞うてきた。
「そうだな……」
サイは考える。
異世界で冒険者の教官をしていた実績もあるし、彼女たちに魔法を教えること自体はやぶさかではない。ついでに冒険者として新宿タワーの……ダンジョンという場所での戦い方も教えた方がいい。多分彼女たちの為になる。
リスクはどうか? 一番のリスクはサイが異世界からの帰還者だという事だ。世間にバレた場合、サイの両親が不安に思うだろう。教えるのがマズい魔法もある。だが魔法使いの基礎的な部分は教えても問題ないはずだ。魔力の鍛え方や運用方法。調べた限り、それらは今の地球には存在しないトレーニングだ。
今から学べば、きっと彼女たちの財産になるだろう。
それと今配信で新人向けのアドバイス配信をやっている。
ひよりや澪に教える流れで「自分では気づけなかった異世界バレするリスクのある技術」に気づけるんじゃなかろうか。それはサイにとっても助かる話だ。
サイの回答は決まった。
「いいぞ」
「やった!」
「ありがとうございます!」
ひよりと澪は嬉しそうに笑う。
「ただし教えるのは基本的な部分だけで、教えたら問題になる魔法は教えない。それこそアイテムボックスみたいな魔法は教えられない」
「一応確認なのですが、なぜでしょうか?」
アイテムボックスのような魔法が使えるようになったら、物流に大革命が起きる。
個人レベルでもかなり助かる魔法だ。
「世間にバレた場合、どうやって使えるようになったか質問攻めに合うからな。どうやって見つけたとも言えないし。あとアイテムボックスだけで言うなら、単純に使えるようにするために必要な素材が手持ちにないからってのもある」
そこまで話すと澪は真剣な目でサイを見てきた。
「確認させてください。その基本的な部分で、私たちは強くなれますか?」
「それはおまえら次第だ。だが異世界じゃ冒険者ギルドの教官やっていたし、ひよっこ共をオオワシに変えるのは俺の仕事のひとつだ」
サイの教え子の中には、サイ以上に強くなりトップランクの冒険者になった者が何人かいる。だが、その彼らは今もサイを恩師と慕ってくれている。
そう言ってもらえるのが照れる反面、サイの自信の源でもあった。
「ありがとうございます。よろしくお願いします、山浪さん……いえ、先生」
「私もよろしくね、せ~んせ♪」
こうして、サイにかわいらしい弟子がふたり生まれた。
お読みいただき、ありがとうございます。




