第15話
免許更新のために小粒の魔石五百個の納品を求められたサイ。
魔石の収集は八階層のゴブリン退治と決めたが、急いで集める必要もなく、ちょっとした相談もあって、今日は戦い方を説明しながら攻略・配信する事となった。
というのも先日、五階層フロアボスの大型スケルトンナイトで苦戦していたパーティーからDMをもらったのだ。
DMには無事スケルトンナイトを倒せたという報告とお礼が綴られていた。
また、そこにはお悩みも書かれていた。
なんでも、無事六階層に行けたが大量の敵にどうやら苦戦しているらしい。
五階層あたりまでは闇雲に襲ってくるモンスターが多いが、六階層からはウルフやゴブリン、コボルトなど、集団で襲ってきて且つ悪知恵を働かせてくる連中が出現してくる。
正直、大型とはいえスケルトンナイト程度に苦戦しているようでは、確実に七階層か八階層あたりで痛い目に遭う。それこそ先日のひよりと澪が良い例だ。
そのために配信で戦い方のアドバイスをする事を決めた。
配信のタイトルは「サイ式モンスター退治 ~ひとりで多くの敵を引き受ける時の戦い方~」と銘打っている。
タイトルがダサくね? とは言わないであげてほしい。
おじさんのネーミングセンスは終わっているのだ。
ネーミングセンスはさておき、戦い方のノウハウは異世界仕込みも本物だ。
このノウハウが後進の糧になるのなら、異世界の冒険者ギルドで教官をやっていた身として是非もない。
そんな思いで説明しつつ戦っていた。
夕方もちょっと過ぎたあたりで攻略を終えた。
講義をしながらの狩りなので倒せた量は少ないが、それでもまあまあどっさり魔石を稼げたし良いだろう。
そうして帰宅したら、自宅前に女子高生のふたりが立っていた。
「おじさ~ん!」
「どうも」
よく見たら、一条ひよりと九里澪のふたりだった。
ふたりとも高校の制服を着ているせいか、正直一瞬誰かわからなかった。
こうして見ると、とても冒険者をやってるようには思えない。
「えっと、先日ぶりで良かったよな」
「はい。先日は助けていただき、ありがとうございました」
「あ、これお礼のケーキ。おすすめのやつ」
「ご丁寧に。こりゃどうも」
素直にケーキを受け取る。
単純にお礼のために家に来た……というわけではないだろう。
お礼を言いたいだけなら家の前で待つより、新宿の冒険者ギルドあたりで待っていた方が早い。そう推測してサイは自宅に誘うことを決めた。
「……何か、話があるんだろう。入りな」
サイの家はリフォームされているが、元は小さな町工場だ。
一階はガレージ兼トレーニングルームで、二階が住居スペースという形だ。
お客さんであれば、本来は住居スペースに連れていくべきなのかもしれないが、うら若き少女たちを、おじさんがひとり暮らしする住居に入れるわけにもいかない。
そんなわけで、一階のガレージでお話する事となった。
冒険者の装備や道具があちこちに置かれているし、少々乱雑な場所だが相手は同じ冒険者だ。女子高生とはいえ、許されるだろう。多分。
三人でテーブルを囲み、コーヒーとお礼のケーキをつまみながら話を聞く。
サイは新宿タワーで狩りをした後だから、ケーキの糖分がありがたかった。
「で、改めて。何か話でもあるのか?」
そう聞くと、澪の方が食い気味に聞いてきた。
「山浪さんの使っている魔法についてお話を聞きたいんです」
「魔法?」
「これです」
そう言って澪はスマホを取り出した。
スマホにはサイが映しだされており、ジャイアントバットと戦っていた。
魔法の一部を中空に待機させ、近場にいたジャイアントラットを蹴り飛ばして、それからジャイアントバットへ向けて魔力弾を射出していた。
「魔法って、普通の魔力弾だけど……気になることでもあるのか?」
「……とぼけてるんですか?」
「いやいや、そんなつもりはないよ」
「先日、助けていただいた後、山浪さんの配信アーカイブを見させていただきましたが、魔法の使い方がおかしいです。射出される魔法は、発動させたらすぐに対象へ向かって飛んでいきますよね」
サイは頭の中で「むむ?」となった。
当たり前の話だが魔力弾というものは「対象に当てるため」に放つ。とはいえ発射直前に相手に気取られたり、対象とは別の邪魔者がいた場合、発射自体は一旦止めておいて、当たるタイミングになったら発射する。
魔力弾を事前準備だけしておいて、タイミングを見て発射というのは「異世界では当たり前の技術」なのだ
だがその当たり前と思っていた技術は、実は高度に洗練された技術だった。
澪は、その部分について質問をしているのだ。
「それってそんなに珍しいか?」
「少なくともトップ層の魔法使いでも、そんな事やってる人見たことありません」
澪の言葉を聞いて、サイは自分のミスに気づいた。
失敗したと素直に感じる。
地球は、まだ魔法を使うようになって三十年も経っていない。対して、サイの使う魔法は異世界で何千年という長きに渡って磨かれた技術の粋だ。
魔力弾自体は同じでも、細かい部分に大きな隔たりがある。
異世界で当たり前過ぎた技術は、この地球では当たり前ではなかった。
サイの渋面に気づき、澪は静かに聞いてくる。
「……異世界で学んだってことですか?」
その言葉にサイは驚いた。
サイが異世界に行っていた話は、家族だけにしか話していない。甥っ子の浅井健二は、このふたりと接点があるようだし、喋ったのは甥っ子だろう。
どういう経緯で喋ったのかわからないが、サイは軽く考える事にした。
女子高生ふたりぐらいならいいか? 誤魔化すのも誠実ではない気がする。
そう悩んでいると、ふたりのやりとりを聞いていたひよりが得意げに口を開いた。
「大丈夫だよ、おじさん。異世界って幽世のことでしょ?」
「カクリヨ?」
「向こうで神様とか精霊から魔法について教わったんでしょ。それなら私達も関係者だから安心してよ」
ひよりの言葉にサイはぎょっとした。
確かに異世界にいた頃、日本人あるいは地球人の足跡を調べたことがある。
自分以外にも転移している人間がいるのではないかと考えたためだ。
異世界にいた頃、日本で聞きかじっていたものを見かける事があった。
モンスターの名前はポピュラーなものは大体同じであったし、エルフやドワーフといった『地球の創作』と思われていた種族が暮らしていた。一年が十二ヶ月、三十日刻み二十四時間なのも似ていた。もちろん細かい部分で違いも多くあるのだが、ここまで似ているなら過去に転移者がいてもおかしくないと思ったのだ。
そして願わくば日本への帰還方法がわかれば……! と夢見ていたのだ。
結果、あの時は成果をまるで得られなかったというのに。
まさか日本に帰還してから異世界の関係者に出会うとは!
サイは歓喜した。
関係者であるなら、いくら話しても大丈夫だろう。
「そうか。あの世界はこちらではカクリヨと呼ばれてたのか……。うん。初めて知ったよ。向こうでは、世界の名前なんて誰も知らなかったから。あ、魔法についてだが、いろんなやつから教わったけど、今ほど使えるようになったのは相棒のエルフのおかげだな」
サイは嬉しそうに語る。
三十年近く異世界にいたのだ。異世界に戻ることは多分できないが、向こうの話ができるというのは素直に嬉しい。
あそこはサイにとって第二の故郷であり、ずっと暮らしていた場所なのだ。
だが、話を聞いたひよりはキョトンとした顔をしていた。
「エルフって……もしかしておじさんタヌキ辺りに化かされた?」
「いやいやほんとにエルフだよ。……ほら、こっちでもたまに漫画とかゲームとかで出てくるだろ。耳の長いあいつら」
「タヌキに化かされたじゃなく?」
「幻影看破なんて向こうの冒険者なら当たり前のスキルだろ。タヌキ辺りなら魔力の波も違うし、すぐに見破れるよ」
サイの言葉を聞いてひよりは「あれ?」という顔をしてるし、澪は澪で「幻影看破ってなんですか!?」と聞いてくる。
………なんだか、すごく大きくズレている予感がした。
「タヌキじゃないなら、仙人とか天狗みたいな?」
「……仙人はいるらしいがお会いできなかった。天狗は向こうで聞いたことないな」
その話を聞き、ひよりは「う~ん」と悩む。
「そうだ。おじさんがいたとこって、なんて名前……?」
「一番長くいたのはトゥアール王国っていうとこだな。転移した場所がトゥアール王国だったし」
「ひより、今まで見たことない顔になってる」
ひよりはなんとも言えない顔をしている。顔がクチャクチャになってる。
澪の方は、逆に冷静に話を聞いていた。
「何か、その異世界で手に入れたものとかありませんか? できれば異世界でしか手に入らないモノとかだと嬉しいです」
「ああ、それならいいのがあるぞ」
サイはアイテムボックスに手をつっこみ、ひとつアイテムを取り出した。
それは矢避けの加護が付与されたネックレスだった。
「今使っているネックレスもそうなんだけど、これは旧式だけど矢避けの術式が付与されたネックレスだな」
それを見たふたりの反応は劇的だった。
「矢避けって、神話とかに出てくるあの矢避けですか!? って、そうじゃなくて今の魔法なんですか!!?」
「わぁ~ん! 幽世の《《感じ》》がしない~~~! なんなのこれ……!!」
澪はぐっとサイに顔を近づけて、ひよりの方はネックレスを見て頭を抱えている。
そのふたりの反応を見て、サイは確信した。
「落ち着け落ち着け。とりあえず今の反応でわかったんだが、ひよりさん。えっと君が言ってるカクリヨ? というのと、俺が行っていた異世界は違うとこ、だな」
「うん……多分そう」
ひよりは天を仰ぎながら呆けていた。
「それと、澪さん。今見せたのはアイテムボックスって魔法だ。別次元にアイテムを格納したり、取り出したりする魔法だな。容量は魔力の総量次第。矢避けの加護は、文字どおり矢とか魔力弾みたいな遠距離攻撃が当たらなくなる術式が付与されたネックレスだ。地球の銃は試したことないが、単純物理なら絶対に当たらない」
サイの話を聞き、ひよりと澪のふたりは完全に固まっていた。
このような魔法もアイテムも見たことないからだ。
サイとしても、てっきり異世界の関係者と思って話したらそうじゃなかったので、ガッカリしている。
「どうしたもんかな、この空気……」
絶妙な空気になり、サイはひとりごちた。
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