第13話
「ほっんと~に助かりました!」
「ありがとうございます……」
澪をお姫様抱っこして、八階層に到着するとそこにはこれから七階層に向かおうとしていた一条ひよりの姿があった。
「なに。こちらこそ助けられて良かったよ」
無事に合流できた三人は、八階層のセーフポイントで状況確認を兼ねた休息をとっていた。
ひよりたちもそうだが、サイは先ほどまで五階層でフロアボスのスケルトンナイトと戦っていたのだ。そこから六階層を最短ルートで踏破し七階層へ駆け上がり、八階層までやってきたのである。
元より新宿タワーのマップは頭にインプットされている。
誰かが危機に瀕しているというのなら急ぎもする。
だが、年齢のせいか身体がびっくりしているのも事実だった。
「それにしても、どうやって救援に来てくれたのですか……?」
救援アラートを出せなかったのに、救援にきたサイが不思議でならなかった。
叫ぼうにもウルフにのしかかられて、まともに声も出せなかった。
だというのに、あの危機的状況に颯爽と現れたのだ。
白馬の王子様か。否、白馬の王子様にしては老け込んでいる。
経緯が聞きたかった。
「甥っ子から連絡があってね」
サイは、ここで自分の甥がひよりや澪の後輩であること。
甥っ子と、その友人たちがふたりの配信を見ていてピンチに気づき、サイに連絡した事を聞いた。
「ちょうど六階層にいたから、すぐに来れて良かったよ」
「それは……本当にありがとうございます。その甥っ子さんにも後日お礼を……」
「おじさん。多分相当ランク高いよね? どうして六階層なんかに」
澪は素直に感謝して、ひよりはサイほどの実力者が六階層にいた事を訝しんだ。
装備は一般的なものだが、サイの纏う圧が只者ではないと知らせてくる。
六階層に、特に有名なお宝情報などないし、なぜそこにいたのか。
「五階層のフロアボスと戦ってたんだよ。免許取りたての冒険者だし」
「「は?」」
「ちょうどスケルトンナイトを倒して、六階層に着いた時に甥っ子から連絡が……」
「いやいやいやいや……」
頭をフルフルと横に振る澪、ひよりは手を頭に添えて考える。
「ちょ~っとタンマ。おじさん。免許取りたてって、それじゃ今のランクって」
「もちろんFランクだ」
さも当然というように胸を張るサイ。
現在のひよりと澪はEランクだ。
ランクはさまざまな理由でランクアップするが、それでも概ねEランクは五階層まで行ける人で、Dランクは十階層、Cランクは十五階層、Bランクが二十階層と目安がある。
ギルドへの貢献(一定量の魔石の納品など)でランクアップされる事があるが、それでも行ける階層=ランクなのだ。
Fランクはありえない。
あの強さなら最低でもDランク。Cランクが妥当だろう。
「嘘です」
「嘘じゃないって」
「信じられません。自己強化の魔法もすごかったですけど、落とし穴を使って八階層に戻ってきた時、飛んでましたよね?」
飛行魔法は、魔法の中でも難易度の高いものだ。
重力制御と姿勢制御。更に特定方向への出力調整と、かなり面倒な魔法なのだ。
中級クラスの中でも難易度の高い魔法であり、その難易度は澪では対応できない。
初級魔法を網羅した澪ですらできない芸当が飛行魔法だ。
そんな魔法を知る彼女だからこそ、サイがFランクというのは考えられない。
「あ、おじさん。もしかしなくても免許失効しちゃったくち?」
そうなるとありえるのは免許失効の可能性だ。
冒険者免許は、自動車免許と同じように数年ごとに更新を求められる。
この更新を失念して再発行したパターンだと、ひよりは考えた。
「そういうのじゃないよ。こっちの冒険者免許は、こないだ取ったってだけの話だ」
「ふ~ん?」
ひよりは、この恩人が何者か推察する。
少なくとも退魔師ではない。退魔師で、これほど強い人がいるのなら絶対に話題になっているはずだ。海外で冒険者をやっていたとしても、たしか冒険者免許は全世界共通のはずだ。
一番ありえるのは軍人上がりか。
だが、ひよりの直感は「目の前の男が軍人ではない」と訴えかけている。
軍人的なシビアさを感じさせないせいか。
強さは軍人かそれ以上だというのに。
予想と直感のズレに気持ち悪さを感じてしまう。
だが、目の前の男は信じられる。それだけは間違いなさそうだ。
「ふたりとも落ち着いたようだし、そろそろ外に出ようか」
セーフエリアを離れ、転送装置へ向かう。
転送装置はいわゆる転移系の魔導装置だ。
二~五階には繋がっていないが、辿り着いた階へ一瞬で転送してくれるエレベーター的な転移装置。
各国で、この装置をタワー以外でも使えるようにと研究されている未知の装置。
「免許取りたてなら転移装置はじめてなんだ。ちょっとびっくりするよ。にひひ」
「あ~、それはそうかもな……」
どう返すか迷って、サイは適当に答える。
異世界で転移は何度も経験しているが誤魔化すことにしたようだ。
「ひより、バカな事言ってないで行きますよ」
「あ~、待ってよ澪ちゃん」
スケルトンナイト戦に、ひよりと澪の救援。
今回の攻略も充実したものだった。
サイは、そっとひとり納得して、新宿タワーを後にした。
「山浪さん、少しご相談が……」
そんな二回目の新宿タワー攻略の翌日。
サイは冒険者免許更新のために、冒険者ギルドの受付に来ていた。
冒険者免許は五階層、十階層とフロアボスを倒す度に更新が必要と聞いている。
冒険者たちがどこまで攻略が進んでいるのかを明確にするために必要な作業とも言える。
「えっと……一応確認なのですけど、前回八階層まで行かれたようですけど、二回目の攻略なんですよね?」
「そうですけど、何か問題ありましたか?」
「いえ問題というわけではないんですけど、五階層を越えた冒険者なのでEランクにランクアップなのですけど、その納品量がすごく足りてなくて……」
冒険者免許は六階層を超えるとそれが記載されて、Eランクアップになる。
この際、免許証の色が変わるため再発行されるのだが、それができないという事だ。色を変える理由は様々にあるが、運用的な話で言うと転移装置付近にいる守衛が確認しやすいというものだ。諸事情で免許を更新できない場合は、現状のFランクのカードに「五階層突破済」という記載がされるため、これを守衛が確認して問題なく転移装置に向かえる次第である。
本来、一般的な冒険者は何か月もかけてFからEランクに上がる。
その間に大量の魔石を納品するのだが、サイはたったの二回しか新宿タワーに入っていない。つまり納品量が規定より絶望的に足りてないのだ。
恐縮しつつ受付の女性が説明をしてくれた。
サイは話を聞き納得した。
「あ~、なるほど。わかりました。ちなみにどれぐらい足りてないんですか?」
「えっと……小粒の魔石で、ざっくり五百個ぐらい……」
言い換えると一から十階層のモンスターを五百匹倒せというミッションだ。
「なるほど。わかりました。それでは順次納品するようにします」
「お手数をおかけします。よろしくお願いします」
そう言って、受付嬢は頭を下げた。
五百匹分の魔石をどこで狩るか。
ふと八階層はゴブリンが多く出ることを思い出した。
新宿タワーでは、特異な状況でない限り、モンスターが外に出てくる事はない。
モンスターがタワー外に出てきて何かする場合は、むしろ冒険者が何かやらかした時である。だからこそ、冒険者以外の人々はモンスターの脅威に晒されていない。
しかし異世界にいた頃、ゴブリンとは村や町を襲う害悪でありダンジョン以外でも出てくる存在だった。
麦畑が荒らされて頭を抱えた農民に、移動中に襲われた若い商人。外で遊んでいた子どもたちがゴブリンどもに攫われた、なんて話もある。対策をしていても、人型のモンスターというのは悪知恵をこらして、悪意を振りまくのだ。
ゆえに冒険者たちはゴブリンを見かけたら見敵必殺。依頼が出される前に殺せ。依頼を出す時は殺した後だ、という勢いで油断なく確実に殺す。できれば周囲を警戒して巣を丸ごと破壊する。
それが求められてきた。
新宿タワーのゴブリンは、それに該当しないとわかっているが、サイは過去の思い出から八階層のゴブリンを蹂躙する事を心に決めるのだった。
今後の活動も決まったところで、ついでとばかりに冒険者ギルド内の武器防具屋やアイテムショップに向かった。
「武器や防具は買わないでいいか……」
日本製の武器や防具は、正直に言ってレベルが低い。例えば超硬合金を使用した武器や防具は素材的には素晴らしいが、魔力に関する付与が全然為されていない。まだ魔力が見つかって間もないせいか、技術開発が追い付いていないのだ。
そのため、ある程度実力のある冒険者は新宿タワーで見つかった武器や防具を使用する事が多い。モンスターがドロップしたり、なぜか小間にひょっこり配置される宝箱に入っていたりするのだ。
こちらは中々の逸品もあるようだが、そういったものは冒険者自身が使用するため、市場に出るのは稀だ。あるいはオークションにかけられるのが関の山だろう。
サイはそう思いつつも、武器や防具類を見て回った。
いずれも使いものにはならない。このままでは。
だが、例えば、だ。
異世界で作られた武器や防具を偽装するのに使えたりしないだろうか。
異世界で作られた品々は魔法的な付与が様々にかけられている。例えば魔導鋼の鎧の上に薄く超硬合金の板を張り付ければ「ただの日本製の鎧」にしか見えないのだ。
これからゴブリンを大量に倒さねばならないし、なるべく使い慣れた装備でいきたいものだ。そんな思いから、いくつか武器や防具を見繕い購入していく。
「こういうのは本職にやらせたいが……無いものねだりか」
装備の加工は日曜大工レベルだが、サイの手でできなくもない。
が、そこそこの日数がかかってしまう。
異世界にいた頃、サイの装備のほとんどを作ってくれた人がいた。
彼女の力を借りる事ができたなら、一日……いやものの数時間で対応できる事だ。
けれど彼女はこの世界にいない。
向こうの世界の友は、誰一人日本にはいないのだから。
お読みいただき、ありがとうございます。




