第11話
五階層のフロアボスと戦う。
相手は三メートル級のスケルトンナイト。
対するは異世界のベテラン冒険者サイ。
彼の手にはショートソード。
新宿冒険者ギルドで購入した、ありふれた七十センチ程度のショートソードだ。
フロアボスの間。扉が閉まった。
フロアボスの間は大きな円形だった。
スケルトンナイトは三メートル級な割に、天井も三メートルぐらい。
つまり、スケルトンナイトがギリギリ立てるぐらいの高さだ。
配信で見たとおりの部屋であり、敵だった。
「さて、後進の冒険者たちが見てくれてるだろうから、解説しながら戦うよ。本当は素手で倒そうと思っていたんだけど、大型種相手の時の戦い方ってのを見せたくて、敢えてのショートソードだ」
スケルトンナイトは中央に座しているが、サイの姿を見て立ち上がった。
彼(?)からすると、五人パーティーから続く形になるし連戦となるのだろうか。
「このデカい図体……つまり巨人種のスケルトンナイトだな。こいつはこの部屋に無理矢理押し込まれてるせいか、ジャンプしたりすることができないんだよな。天井の高さと、身長が同じぐらいだし」
そう言いながら、サイはスケルトンナイトの剣を持つ右手側。正面から見て左側をまわるように歩く。
「こういう剣と盾をもつナイト系を相手にする時、怖くても前衛組は剣側に立つように。また後衛組は盾側だ。どちらにも言える事だけど、剣も盾も当たらない位置に立つように」
歩幅を調整して、彼我の距離を冷静に測りつつ、会話を続ける。
「強い敵と戦う時、前衛の後ろに後衛が立つというのはオーソドックスな理屈だが、こういう大型の力強い敵の場合、そもそも後衛は如何に相手の視界に入らないようにするか、前衛は如何に相手の視界を奪い続けるかが最初の方針になる」
そう話していると、スケルトンナイトが突きを放ってきた。
サイはそれを左に避ける。
「パーティーが二手にわかれている場合、前衛組は必ず魔法使いの射線に入らないように注意する。今回の場合なら、魔法使いは頭部や上半身を狙うようにする。これなら射線がバッティングしないだろ」
スケルトンナイトは距離を詰め袈裟斬りを仕掛けるが、更に左に避ける。
スケルトンナイトを軸に、時計周りで回転しつつ避けるようなイメージだ。
「大型のスケルトンナイトは巨人族みたいなもんだ。あまり知恵がまわる奴じゃないが、膂力はすさまじい。一撃でも貰うと、最初のうちはほぼケガすることになる。それでも攻撃を受けそうな時は……」
横薙ぎの一閃が飛んできた。
「絶対に、受け止めきらない!」
さきほどのパーティーが瓦解する決定打となった攻撃だ。
サイは、その剣閃をショートソードで受け止めつつ、その勢いに身を任せ後ろに飛んだ。
「攻撃をもらいそうな時は剣だか盾だかで受け止める事になるが、斬られたら元も子もないから、受け止めつつ反動を殺さないように後ろに飛ぶ。勢いに乗れ。そうすると多少はダメージ軽減ができる。絶対に受け止めきらないように注意する」
サイは後ろに吹き飛ばされたが、受けてすぐに立ち上がり、また時計周りに左へ流れる。
「一番は後ろに逃げて、剣のレンジから逃げることだけど、絶対できるわけじゃないからね。どうしても喰らわざるを得ない場合は、あんな感じで対応する。で、すぐに立ち上がって安全圏に移動って感じだな」
ダメージなど食らった様子もなく、サイは会話を続ける。
「前衛の後ろに後衛がいると思うと、こんな真似できないだろう。だから二手にわかれているんだ。前衛が常にヘイトを取りつつ、後衛は相手の後方に立ち続ける。これならできるだろ?」
その後、何度もスケルトンナイトが攻撃してくるが、サイはその度に避けたり、攻撃を受け流したりしていく。
その間も、事例をいくつも話して、戦い方を説明する。
「続けて、攻撃する時のコツをいくつか話すぜ」
そう言って、ショートソードを前に出す。
「今回の敵は鎧を着たスケルトンナイトだが、サイズが大きい分、骨自体が見えてる箇所も多い」
そう言って、カメラ越しに伝わるようにショートソードを前に出す。
ショートソードの剣先が、骨が見えてる箇所を指し示す。
「例えば籠手の部分は手の骨が見えてるし、チェスト……胸当てはつけてるけど、お腹周りは見えてるよな」
ショートソードでツンツンと骨を叩いていく。
その行動がスケルトンナイトの勘に障ったのか、暴れるように攻撃してくる。
しかし、その度にアウトレンジに避けたり、脇の下を通って反対側にまわったり。
サイに当たる事は一度もない。
「人間サイズのスケルトンだと最初のうちは難しいけど、大きなスケルトンの場合、ある部分が狙い目になる」
サイはあえて間を置く。
視聴しているであろう五人パーティーに考える時間を与えるためだ。
「そう。骨と骨の隙間だ」
スケルトン。魔力によって、筋肉なしでも身体を自在に動かすモンスター。
人間型であれば、特にスケルトンナイトのような鎧を着こんだモンスターの場合、骨の隙間を狙うのは難しい。
だが、大型のスケルトンの場合、骨の隙間を狙うのは良い手段だ。
体格が大きいモンスターは当然隙間も大きくなり、狙いやすくなる。
「つまり今回ならここだな」
サイはスケルトンナイトの背面に立つと、腰骨と背骨の間を狙って振り抜く。
次の瞬間、背骨の一か所が砕けた。
「……………………!」
スケルトンナイトが声にならない声を叫ぶ。
しかし、スケルトンナイトはうまく動かない。
「これでスケルトンナイトは一気に弱体化したな」
スケルトンナイトは振り向こうとするが、随分とぎくしゃくした動きだ。
先ほどまでの威勢は、そこにはない。
「スケルトンってのは魔力で血液と筋肉を代替して動いてるわけだけど、ひとつが崩れると途端に動きがおかしくなるんだ。ほら、あれだ。プラモデルで腰の軸が壊れたら立たせるの大変だろ? もちろん宙に浮いてるタイプは別だがね」
そう言って、更に左に回りこみ左腕の関節にある隙間、右腕の関節にある隙間を斬りとばし、更に両足を同様の作業を繰り返す。それでもスケルトンは懸命に動こうとしてくる。
だが、もはや死に体だ。
「ちなみにここまでくれば、ほぼ無力化してるがスケルトンってのは噛みつき攻撃もあるから注意しろよ。という事で、これがトドメだ」
そう言って、倒れてもなお動こうとするスケルトンナイト。
サイはショートソードを鞘にしまうと、手をプラプラとさせてから振りかぶり、頭から身体に向けて手刀で両断した。
「最後のはそうだな……これぐらいできたら、ソロでもスケルトンナイトを倒せるよっていう指標代わりだ。本来ソロで戦うのは推奨されてないからな。というわけで、ざっと、大型スケルトンナイト攻略のアドバイスだ」
更にいくつか補足のようにアドバイスを続ける。
そのうちにスケルトンナイトが消滅し、魔石と長剣がドロップされた。
スケルトンナイトが使っていた剣を人間サイズにしたようなものだ。
「ほか質問とかあったら、えっと……でぃーえむ? とかして聞いてくれ」
彼ら五人パーティーに向けて、そう話した。
願わくば、彼ら若き冒険者の良き導となれれば。
そう願いながら喋る。
「それじゃ、俺は先に六階層へ行かせてもらうぜ」
サイは無事スケルトンナイトを倒し、新宿タワー六階層に辿り着いた。
新宿タワーは六階層からは雰囲気が少し変わる。
実は、ここからはモンスターの数が一気に増える。
五階層まではモンスターとのエンカウント率が低いのだが、六階層からはエンカウント率が二~三倍程度に上がる。
また敵も徒党を組み始める。
具体的にはゴブリンやオークのようなモンスターも出てくるし、配信情報や共有されているマップから察するに通路上の罠も出てくる。
とはいえ、ここも素手でバシバシ倒していこう。
そう思った矢先にスマホが鳴った。
サイは異世界に転移する前、携帯電話を持った事がなく、三十年ぶりに日本に戻ってきて、そこでようやくスマホを手に入れたような男だ。
ネットは自分のペースで触れるから問題ないとして、電話着信があると結構驚く。
ボタンを押して、応答。
たったこれだけの事に少し慌てたが、無事に電話を取れた。
電話の相手は甥っ子だった。
「おじさん……おじさん!」
「お、おう。どうした。そんなに慌てて」
妙に慌てた声色にサイは困惑した。
フロアボスたるスケルトンナイトを倒し、小さな達成感に浸っている中に聞く声音ではない。
「せ、先輩たちが、罠でミスって、ゴブリンたちに囲まれて……! 助けに行ってあげて……!」
「落ち着いて確認させてくれ。先輩たちって、たぶん昨日アーカイブ見せてくれた子たちだよな。どこにいるんだ」
泣きそうな声で甥っ子は、サイに語る。
場所は八階層。落とし穴を避けて進んでいたが、その先にあった隠し扉から大量のゴブリンたちが出てきたのだ。最初のうちは対処できていたが、後衛の魔法使いがドジって落とし穴に落ちてしまったらしい。
その結果。
後衛の子は七階層でウルフの群れと戦闘中。
前衛の子は八階層でゴブリンの群れと戦闘中。
着実に息が上がり始めてるとの事だった。
電話の向こう。甥っ子の後ろから、甥っ子の友人たちであろう子たちが「絶対ヤバいって!」「でも、まだ救援出してないし」「ひよりちゃん逃げろって!」と何やら叫んでいる。かなりヤバい状況のようだ。
「わかった。救援に向かう!」
時間の問題だ。
配信アーカイブを見る限りふたりとも鍛えているようだし、行った時には対処できているかもしれない。結果的に問題なかったという事になるのなら、それでいい。
そんな思いでサイは六階層を一気に駆けだした。
お読みいただき、ありがとうございます。




