いってしまわない人
幼いリディアンナとスレン。
ああぁ―――ん……!
「どうしたの、リディ? おねむなの? ご機嫌ななめね」
そう言って抱き上げてくれる優しいひとは、おかあさま。
わたしに触れてくれる……。
そのたびに安心するのだけど、寂しくもなってしまう。
サミシイ。
自分はいつかこのひとのもとを離れる時が来る。
その事に何となくだけど、気がついてしまったから。
ふんわりとやわらかくって、あたたかな手。
その手がゆっくりとシワがよって、しぼんでゆくのが視えるのはどうしてなの?
その手の先にある面影も。
つないだ指先から伝わってくるぬくもり。
それがずっと続くのでは無いと気がついてしまったから。
わたしは泣き続ける。
★ ★ ★
「どうしたんだ、リディアンナ?」
「ああ、レオナル。何でもないわ。ただちょっとご機嫌ななめなのよね?」
心配そうに声をかけてくれた身体のおおきなひとは、おじさま。
おとうさまとはちがうけど、このひとも優しい人。
おじさま。
泣きじゃくりながら、両手を伸ばした。
「あらあらリディ、おじさまがいいの?」
「よし」
大きな手に抱っこされて少しだけホッとした。
おじさま。
このひともおかあさまと同じだけど、少し違う。
このひとにはこれから、ずっと一緒に居てくれるひとが視える。
黒い髪に黒い瞳のとてもとても優しいひとだ。
大きな胸に寄りかかって目を閉じる。
庭の大きな木に寄りかかったときも同じ気持ちがした。
★ ★ ★
「やあ~はじめまして」
「あら。レオナル、こちらはご友人?」
「……違う。勝手に付いてきたんだ」
「ひどいやレオナル。紹介してくれたっていいだろう!」
「帰れ」
その楽しそうに話すひとは、はじめて見るひとだった。
おひさま色の髪に葉っぱみたいな瞳。
珍しく思って見ていると、ニッと笑いかけられた。
「やあやあ、はじめまして。僕はスレンだよ。君は? いくつなの?」
リディ。四つ。
おずおずと腕を伸ばすと、そのスレンと名乗ったひとに抱き上げられた。
「そうリディっていうのか。よろしくね。しかし四つか! 小さいな!」
純粋な驚きを隠そうともせずにそのひとは笑った。
わたしも笑った。
「あら、レオナル。負けちゃったわね」
「……。」
「当然」
嬉しそうに言いながら、わたしをだっこしてくるくる回ってくれる。
嬉しい。
もう淋しくなんかない。
このひとは「どこにもいかないひと」だから。
「ん? 何なに? 僕のこと気に入った?」
やっと見つけたこのひとに、思いっきり抱きついた。
『スレンとリディの拍手小話でした』
UPしてなかった!